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大騒動の始まりだ


 デレラがクローン戦士たちを襲ってくれたため、シアンがクローン戦士たちと戦うことはなかった。


「とりあえず……何とかなったでいいのかな」


 シアンがこう言うと、控室の方からトンカチ一家がやってきた。


「やはり、何らかの動きがあったわね」


「裏で変なことが起きていると思っていたけど、予想以上の大事になりそうね」


 ユージロコとバキコの言葉を聞き、シアンは近付いた。その後ろには、ジャクミがいた。


「ジャクミ! 立ち上がってていいの?」


「コンナニウルサカッタラ、寝テイル場合ジャナイワヨ。私モアノ変ナ連中ト戦ウワヨ」


「怪我してなかった?」


「アレハ怪我ノウチニ入ラナイワヨ」


「と言うわけよ。行くわよ、ジャクミ! バキコ!」


「おう!」


 その後、トンカチ一家は目の前のクローン戦士たちに向かって襲い掛かった。


「また新手か!」


「返り討ちにしてや……ギャァァァァァァァァァァ!」


「おわっ! こいつらマジでやばい! 化け物かよ!」


 圧倒的な攻撃力で戦うトンカチ一家の前では、クローン戦士たちは敵ではなかった。大量にいたクローン戦士たちの数は、あっという間に減った。その様子を見ていたシアンは、クーアがベーキウたちを探していることを思い出し、大声でこう言った。


「私、仲間を探してくるわ! この場にいる変な連中の相手、任せたわよー!」


 そう言って、シアンは去って行った。




 シアンは廊下を走り、ベーキウたちを探していた。廊下では、避難する観客たちと、避難誘導する兵士たちの声が響いていた。


「誰がこんなことを考えたのやら」


 シアンはそうぼやきながら、廊下を走っていた。しばらく走っていると、クローン戦士がシアンを襲った。


「喧嘩相手みっけ! おい、そこの強そうなガキンチョ。俺の相手になってくれよ」


「丁重にお断りするわ」


「テメーに拒否権はない! 行くぞ!」


 クローン戦士はそう言うと、シアンに向かって走り出した。シアンはため息を吐き、剣を手にした。


「あんたみたいな雑魚を相手にする時間はないってのに!」


 そう言って、シアンは剣を振るった。クローン戦士はシアンの攻撃をジャンプしてかわし、天井にぶら下がった。


「ケッケッケ! それなりに剣の腕があるじゃねーか! こりゃー、面白い戦いになりそうだ!」


「言っとくけど、あんたみたいなバカが私を倒せると思わないほうがいいわよ」


「ほざけ! お前はここで俺の手で八つ裂きにされるのだァァァァァ!」


 クローン戦士は叫び声を上げながら、両腕を刃状にしてシアンに襲い掛かった。シアンは剣を振り、クローン戦士の腕を切り落とした。だが、腕を切り落としてもクローン戦士は痛がるそぶりを見せず、切り口から血は流れなかった。


「やりすぎたって思ったけど、あまりそう思わないほうがいいわね」


「その通り。一部のクローンは腕や足を失っても、トカゲのしっぽのように生えてくる!」


 クローン戦士がこう言うと、斬られた個所から腕が生えてきた。シアンは気持ち悪そうに声を出し、剣を構えた。


「気持ち悪いわね。手っ取り早く終わらすから、覚悟しなさい」


「覚悟するのはお前の方だ!」


 クローン戦士はシアンに向かって両腕を伸ばした。シアンは攻撃を左右に動いてかわし、高く飛び上がって剣を振り下ろそうとした。だが、その行動を予測していたクローン戦士は、伸びている腕を鞭のように操り、上空にいるシアンに向かって動かした。


「隙ありだぜェェェェェ!」


「攻撃される前に、攻撃すればいいのよ!」


 その後、シアンは落下速度を速め、急いでクローン戦士に一閃を与えた。シアンの剣はクローン戦士の体を一閃したのだが、クローン戦士はにやりと笑っていた。


「これで終わりか? 俺はダメージを受けてないぜぇ?」


 そう言うと、クローン戦士の切り傷があっという間に塞がった。シアンは背後から迫る攻撃を盾で防御し、クローン戦士を睨んだ。


「クックック。そんな顔で睨むなよ。どんなことをしても、受けた傷やダメージはすぐに治る。お前に勝ち目はないんだぜ」


「斬られたらすぐに治療されるのか。じゃあ、魔力で焼かれたらどうなるのじゃ?」


「なっ!」


 突如、クローン戦士の横から強烈な炎が発した。


「ギャァァァァァァァァァァ!」


 炎に包まれたクローン戦士は、痛々しい悲鳴を上げていた。しばらくして炎は収まり、黒い塵のようなものがその場に残った。


「うわぁ……やりすぎじゃない?」


「物理で攻撃して秒で治るのなら、これしか方法はないじゃろうが」


 と、呆れたようにため息を吐くクーアが姿を見せた。シアンは剣を鞘に納めた後、クーアに近付いた。


「で、ベーキウとキトリは見つかった?」


「見つからんのじゃ。それどころか、今はあのクローンとか言う変な奴らの相手で忙しかったのじゃ。シアンの方はどうじゃ?」


「あいつらがリングの上に現れて試合どころじゃないわ」


「やはりの。さて、急いでこいつらがどこから出てくるか調べないと。キトリも調べていると思うからの」


「うん」


 会話を終え、シアンとクーアは急いでクローンの発生地へ向かった。




 チャンバの部屋。やる気のないクローン戦士をチャンバは叱咤激励していたのだが、チャンバの言葉はクローン戦士に届かなかった。その隙に、キトリたちはチャンバの部屋を調べていた。


「うーわ、気持ち悪いわね。こいつらをぶっ壊したら、クローンが生まれないんじゃない?」


「確かにそうですが、見たことのない薬や道具がいっぱいあります。下手に暴れて爆発したら、もっと大惨事になりますよ」


「それもそうねぇ。あーあ、面倒だからドカーンって一発やりたいわねー」


 レリルはあくびをしながらこう言った。そんな中、前を歩くキトリは何かを見つけ、声を出した。


「どうかしましたか?」


「あれを見て! ベーキウとジャオウがいる!」


「え!」


 キトリが指をさす方向には、大きな水槽の中で閉じ込められているベーキウとジャオウの姿があった。


「ジャオウ!」


「いたの? ゲッ! なんであんな風に閉じ込められてるの?」


「あーだこーだ言っている場合じゃないわ。早く助けるわよ!」


 キトリたちは急いでベーキウとジャオウの元に近付き、周囲を調べた。水槽の近くには、操作用のボタンがあるのだが、大量にボタンがあるせいで、どのボタンを押せばベーキウとジャオウが解放されるか分からなかった。


「うーわ、これはめんどいわよ」


「どれを押せばいいのか……」


「下手に押したら、最悪なことが起こるかもね」


 キトリたちが話をしていると、ハンマーを持ったチャンバの部下が後ろからこっそり近付いていた。キトリはそれに気付き、闇の魔力を使ってチャンバの部下の動きを封じ、手にしていたハンマーを床の上に落とした。


「後ろから攻撃してくるの、バレバレよ。さぁ、どのボタンでベーキウとジャオウが助けられるか教えなさい!」


「教えないと、どぎついチューをしてやるわよ!」


 そう言いながら、レリルがチャンバの部下に近付いた。レリルの口からかすかに漂うニンニク臭が鼻に入ったのか、チャンバの部下は激しく咳き込み始めた。


「オゲェッ! ブッフェッ! か……勘弁してくれ! せっかく素晴らしいクローンの素材を手に入れたのに、手放しちゃったらあの人に怒られるよ!」


「サキュバス、やっちゃって。できれば、精気もたっぷり吸いこんでいいから」


「あいあーい。あんた、イケオジだからいつもよりたくさん吸っちゃおーっと」


 レリルはそう言いながら、口を開けてチャンバの部下に近付いた。このままだと酷いことをされると察したチャンバの部下は、大声を発した。


「分かった! 開放するボタンを教えるから、そのニンニク臭い女を遠ざけてくれェェェェェ!」


 チャンバの部下の言葉を聞き、キトリとアルムは互いの顔を見て、親指を立てた。


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