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不穏な空気が流れてきました


 目が覚めたクーアは、かすかに残っているキトリの魔力を感じ、キトリが城内で、誰かと戦ったことを察した。近くにいるユージロコの方を見て、クーアはこう言った。


「すまぬが、シアンがわらわのことを尋ねたら、キトリ……わらわの仲間を探しに行ったと伝えてくれ」


「分かったわ」


 ユージロコはそう言うと、クーアの方を見て笑みを浮かべてこう言った。


「何か大きな事件が起きそうなのね」


「察しておるのか」


「リングの方ではなく、別のところで大きな音が聞こえたわ。もし、大きな喧嘩があったら、私たちも参加するわ」


「頼む。まぁ、大きな事件になるようなことにならなければいいのじゃが」


「とにかく、勇者にはあなたのことを伝えておくわ。気をつけてね」


「ああ」


 会話を終えた後、クーアはキトリを探しに向かった。




 リングの上では、シアンとジャクミが立っていた。ジャクミはシアンを見て、笑みを浮かべていた。


「勇者ト戦ウコトガデキルナンテ、私ハラッキーダ」


「あんたがトンカチ一家の次女ね。デレラさんと言い、戦闘狂が多いわね」


「私ノ一家ハ、皆血ノ気ガ多イノヨ。サァ、行クワヨ!」


 戦いの始まりが合図する鐘の音が鳴った直後、ジャクミはシアンに向かって走り出した。


「デヤァァァァァ!」


 ジャクミは大声を発しながら、シアンに向かって蹴りを放った。ただの蹴りなのだが、ジャクミの足が長いせいで、リーチが長い。シアンは長い足を見て驚きつつ攻撃をかわした。だが、こうなることを予測していたジャクミは、蹴りを終えた直後にシアンに向かって突進を仕掛けた。


「グフッ!」


 突進を受けたシアンは悲鳴を上げたが、すぐに気を取り直し、足を強く蹴って高く飛び、ジャクミの背後に回った。


「オラァッ!」


 シアンはジャクミの背中に向かって飛びかかり、殴って攻撃を仕掛けた。攻撃を受けたジャクミは動揺したが、すぐにシアンの方を振り返り、左のストレートを放った。狙いはシアンの顔。顔に向かってストレートが飛んでくることを察したシアンは顔を動かしてストレートをかわしたが、右のストレートがシアンの顔に向かっていた。


「危なっ!」


 二撃目のストレートを察したシアンは、体全体を使って回避した。シアンは後ろに下がり、ファイティングポーズの構えを取るジャクミを睨んだ。


「やるわね。今のストレートを顔面に受けたら、危なかったわ」


「ヤハリ勇者。他ノ戦士ト比ベテ運動神経ガ違ウワ」


 ジャクミはこう言って、にやりと笑った。シアンはため息を吐き、小さく呟いた。


「魔力を使って戦えば、それなりに戦えるんだけど」


「ルールハ守ラナイトイケナイ。本気ノアナタト戦ッテミタイケド、仕方ナイワネ」


 ジャクミはシアンに向かって走り出し、左腕を大きく後ろに引いた。それを見て、シアンはあることを思った。


 この攻撃はフェイントだ。あの人の利き腕は右。あの攻撃をかわしたら、右腕を使った攻撃がくる!


 さっきの行動を見て、シアンは左腕の攻撃の次に、威力が高い右腕を使った攻撃が襲ってくると考えた。だが、ジャクミはシアンの顔を見て、にやりと笑った。ジャクミの左腕は軌道を変え、シアンの腹に拳を沈めた。


「ウボォッ!」


「フェイントダト思ッテイタヨウネ。ダガ、違ウワ。私ハ長イ腕ヲ利用シテ、攻撃ノ軌道ヲ変エルコトガデキル!」


 攻撃を受けたシアンは、腹を抑えてうめき声をあげた。その後、咳き込んだシアンはジャクミを見て笑った。


「やるわねぇ。できれば、武器を使って戦いたいけど」


「ソレモソウネ。アナタハ剣ヲ使ッテ戦ウ本気ノアナタト戦イタイハ」


 ジャクミはシアンの笑みを見て、こう言葉を返した。シアンは立ち上がった後、気合を入れるために声を上げた。


「本気で行くわよ!」


「キナサイ!」


 シアンはジャクミに向かって走り出し、飛び上がって蹴りを放った。ジャクミは腕でシアンの攻撃を受け止めたが、受け止めた瞬間にシアンはジャクミの腕を踏み台にして高く飛び、そのままジャクミの左腕に向かって右足のかかとを落とした。


「ウグアッ!」


 かかと落としを受けたジャクミは悲鳴を上げ、左腕を抑えた。


 これで脱臼したと思いたい。


 左腕が使えなくなっただろうと思ったシアンだったが、ジャクミはすぐに無理矢理な形で左腕の脱臼を直した。


「ウグァァァァァァァァァァ!」


「うわ……痛そう」


 大声を発するジャクミを見て、シアンはこう呟いた。だが、その後すぐにジャクミはシアンに向かって走り出した。シアンはジャクミの攻撃を防御したが、その勢いでリングの端まで追い詰められた。


「あぶなっ!」


 リングから落ちるギリギリのところで、シアンは高くジャンプしてリングの中央に移動した。ジャクミは高く飛んだシアンを見て、にやりと笑って呟いた。


「リングアウトデ終ワリナンテ、ツマラナイカラネ」


 その後、ジャクミはシアンに向かって飛び蹴りを仕掛けた。シアンは攻撃をかわし、攻撃を終えたジャクミに向かって右手の手刀を放った。


「ウグッ!」


 手刀を脇腹に受けたジャクミは、痛そうな表情をした。その後、シアンは何度もジャクミを蹴り、終わりの一撃で強烈な蹴りを放った。


「グアァッ!」


 蹴りを受けたジャクミは少し吹き飛んで倒れ、動くことができなかった。


「グ……ググ……」


 ジャクミは声を上げながら、何とか立ち上がった。審判がジャクミに近付き、まだ戦えるかどうか尋ねた。


「まだ、戦えますか?」


「モチロン」


 ジャクミの返事を聞いた審判は、ジャクミがまだ戦えると伝えると、試合が再開された。


「うおっしゃぁ!」


 シアンは威勢のいい声を出しながら走り出し、ジャクミに向かって高く飛んで回し蹴りを放った。最初、ジャクミは蹴りを受けてしまったのだが、三回目の蹴りでジャクミはシアンの攻撃を受け止め、防御していた右腕を大きく振るった。シアンは空中で態勢を整え、リングの上に着地した。その隙を狙い、ジャクミはシアンに向かって走り出した。


「次デ終ワリニスル!」


 ジャクミは走りながら、右手に力を込めてシアンを殴ろうとした。シアンは迫ってくるジャクミを見て、タイミングを合わせて反撃しようと考えた。


 しばらくして、シアンに接近したジャクミはシアンに殴りかかった。シアンは飛んでくるジャクミの右手を受け止めた。


「何ッ!」


 渾身の一撃を受け止められたジャクミは驚き、動きを止めてしまった。その隙に、シアンは右手に力を溜め、ジャクミの腹に向かってストレートを放った。


「ウグバァッ!」


 シアンの強烈な打撃音は、周囲に響いた。ダメージを受けたジャクミは口をパクパク動かしながら、後ろに下がった。


「ガ……アア……コレガ……勇者ノ……力……」


 そう言って、ジャクミはその場に倒れた。ジャクミが戦闘不能だと確認した審判は、試合終了を宣言した。


 この戦いをモニターで見ていたバキコは、笑みを浮かべてこう言った。


「ジャクミお姉様が倒されるなんてね。勇者シアン。戦う時が楽しみになってきたわ」




 キトリたちはクローン戦士の襲撃に備えつつ、ベーキウとジャオウを探していた。


「あぁもう。あの二人はどこに行ったのよー」


 いつ襲ってくるのか分からないクローンへの恐怖に耐えかねず、レリルは泣き始めた。アルムは呆れつつ、レリルにこう言った。


「ここで泣いても解決しませんよ。早く二人を見つけないと」


「うわーん! 誰でもいいからどうにかしてー!」


「もう、いい大人が泣かないでよ」


 キトリがこう言うと、目の前の扉を見てこう言った。


「とりあえず、あの部屋を調べてみましょう」


 と言って、キトリはその部屋に近付いた。その部屋は、チャンバの部屋であった。


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