人生迷うこともあるさ
カオイジリはデレラの笑みを見て、恐怖を感じていた。攻撃を仕掛けているのは自身であり、筋肉の量、腕の長さによるリーチなどを含め、カオイジリは自身が有利だと考えていた。
だが、デレラは攻撃をかわし、反撃をしてこない。避ける際のデレラの動きは速く、カオイジリの拳や蹴りはデレラに当たるどころか、かすりもしなかった。
どうなっているんだ! 確実に俺は狙って攻撃をしている! なのに……どうして確実に避けられるんだ!
攻撃が当たらないこと、そして余裕の表情を崩さないデレラを見て、カオイジリは心の中で焦り始めた。
「あら? もう終わりかしら?」
デレラは首を回すと、動揺するカオイジリに接近してあごに向かって左足の蹴りを放った。
「うわっ!」
攻撃を察したカオイジリは、反射的に後ろに下がった。素早い蹴りだったのだが、かするだけで済んだ。
「あ……危ない」
攻撃を終えたデレラを見て、カオイジリは冷や汗をかいていた。デレラの蹴りは剣を振るうかのような動きであり、攻撃をする時に風のような音がしたからだ。カオイジリはあごを触った。
「ん? 何だこの違和感は?」
違和感を覚え、カオイジリは手を見た。指には、血が付着していた。カオイジリは察した。デレラの蹴りがあごをかすり、そのせいで切り傷ができてしまったのだと。
「なっ……そんな……」
あごから流れる血を見て、驚くカオイジリだったが、その隙にデレラがカオイジリに接近した。
「てあっ!」
気合を入れるため、デレラは声を発して何度もカオイジリの腹に拳を沈めた。
「うぐあっ!」
強烈な痛みが、カオイジリを襲った。それでも、デレラは攻撃の手を緩めることはしなかった。攻撃を受け続け、後ろに下がったカオイジリを見たデレラは、右腕の肘でカオイジリを胸の中央を力強く突いた。
「ガッハッ!」
カオイジリは咳き込みながら後ろに倒れ、しばらく動かなかった。だが、カオイジリはデレラから逃げるため、すぐに起き上がって逃げようとした。だが、デレラはカオイジリを逃がさなかった。デレラは足払いでカオイジリを転倒させて上乗りになり、殴り続けた。
「止めてくれ! うげっ! 勘弁してくれ! オブェッ! こ……こうさ……グフゥッ! するか……イテェ!」
「何を言っているか分かりませんが! どちらかが完全に戦闘不能になりまで、戦いは終わりませんわよォォォォォ!」
デレラは高笑いしながらこう言うと、ひたすらカオイジリを殴り始めた。この様子を見たリングアナウンサーはまずいと判断し、こう言った。
「試合終了! デレラ選手の勝利です!」
この言葉を聞き、デレラは動きを止め、立ち上がってこう言った。
「えー、もう終わりですの? まだ殴り足りませんわー」
一方その頃、ベーキウとジャオウは城の廊下を歩いていた。外に出て、そこで決着をつけるつもりなのだ。
しかし、ベーキウとジャオウはなかなか外に出られなかった。扉を開けたらトイレ、別の扉を開けたら女兵士の着替え室、はたまた別の扉を開けたらシャワールームでしたと言う展開が何回も続いた。疲れたベーキウは、隣にいるジャオウにこう聞いた。
「なぁ、本当にこの道でいいのか?」
ベーキウはこう聞くと、ジャオウは驚いた表情をしてこう聞いた。
「何? 俺はお前の案内通りで歩いていたのだが……」
この言葉を聞き、ベーキウは驚いた。
「え? 俺はお前が道を覚えているかと思っていたんだが……」
「それはこっちのセリフだ。俺は道を覚えるのが苦手で、いつもアルムに任せてたのだ」
「じゃあ、方向音痴ってことかよあんたは」
「その通りだ。もしかしたら俺たちは……迷子になったというわけか?」
ジャオウの言葉を聞いたベーキウは、ため息を吐いた。
「とにかくずっとまっすぐ歩こう。そうすれば、窓の一つは出てくるだろ」
「そうだな。とにかく外に出られれば、いいのだからな」
一本の道をずっと歩けば、いずれ外に出られるだろう。ベーキウとジャオウは簡単に考えて答えを出したのだが、そんな楽な展開にはならなかった。ガラス王国の城はかなり広く、似たような道が多い。それと、分かれ道も多かった。そのせいで、ベーキウとジャオウはさらに迷ってしまった。
「どこだここは?」
「やべぇ……本当に分からん。俺たち、外に出られるのか?」
かなり迷ってしまったため、ベーキウとジャオウは頭を抱えて悩み始めた。そんな中、ある男がベーキウとジャオウに近付いた。
「何かお悩みの方ですね」
声を聞いたベーキウとジャオウが振り返ると、そこにはチャンバが立っていた。チャンバのことを知らないベーキウとジャオウは、いきなり現れたチャンバに対して身構えた。
「お待ちください。私はこの国の大臣、チャンバと申します」
「大臣か。なら、この城の構造を知っているだろう」
「そうだな。すまない、俺たちは迷子になっていたんだ。すまないが、外への道を教えてくれ」
「分かりました。では、私の後ろを付いてきてください」
と言って、チャンバは案内を始めた。外への道ではなく、自室への道を。
チャンバのことを疑わず、ベーキウとジャオウは歩いていた。
「これで決着をつけることができるな」
「ああ。確実にお前との因縁を終わらせてやる」
歩く中、ベーキウとジャオウはこんな会話をしていた。会話を聞いていたチャンバは、笑みを浮かべてこう思っていた。
なーにが因縁じゃ。お前たちはわしの実験のための道具だ。革命のために作るクローンのための、素材なのだよ。
そう思っていると、ベーキウがチャンバの顔を覗き込んでいた。
「チャンバさん、何か思い出し笑いですか?」
声を聞いたチャンバは、慌てながらこう答えた。
「ふぇっ! え……ええ。昨日聞いていたラジオが面白かったので」
「ラジオか。今はテレビもあるのに」
「テレビ局の連中は事実を捏造して放送しています。そんな奴らが作ったニュースやバラエティなど、見る価値もありませんよ」
と、笑いながらチャンバは答えた。不審なことをしてしまい、疑ってしまったのではとチャンバは思ったが、ベーキウとジャオウはチャンバのことを疑っていない様子を見せていた。
しばらく歩くと、チャンバは自室に到着した。
「この先が外に出る部屋になります」
「なんだか厄介だな。外に出る前に、部屋を通らないといけないなんて」
「えーっと、不審者対策なのです。変な奴が入ってきたとき、わざと迷わせるために必要なのです」
「簡易的なセキュリティーだな。昔の城もそうやっていたと聞いたな」
「ははは。勉強できる方ですねぇ。さて、部屋に参りましょう」
と言って、チャンバはベーキウとジャオウを自室に入れた。チャンバの自室に入ったベーキウとジャオウは、周囲を見回した。
「外に通じる道がないな」
「本当にこの部屋でいいのか?」
ベーキウとジャオウはチャンバの方を振り返ったが、その直後に首付近に何かが刺さった。
「いてっ!」
「何だ?」
ベーキウとジャオウは首を抑えながら、周囲を見回した。だがその直後、ベーキウとジャオウはその場に倒れた。
「計画通り。こいつらが方向音痴で助かった」
チャンバは両手の注射器をしまい、倒れているベーキウとジャオウが完全に意識を失っていることを察し、部下を呼んだ。
「こいつらの血、爪でも何でもいいから採取しろ。クローンを作るための素材を手にするんだ。それと、後でこいつらも水槽に入れておけ」
「了解しました」
その後、部下はベーキウとジャオウから血を抜き、爪を切ったりした。そして、それをクローン戦士製造用の機械に入れ、ベーキウとジャオウも別の水槽の中に入れた。
「さぁ、これで最強の戦士が作れるぞ! 革命まで、あと少しだ!」
チャンバはそう言って、高笑いを始めた。
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