愛する者のために
スノウを救出した後、ヒルヴィルはペデラタンと戦うベーキウたちの元へ向かった。スノウを探す中で、ヒルヴィルは外から響く轟音を聞いていたのだ。
あれだけ大きな音だから、派手な戦いになっているはず。急がないと、あの人たちがやられる可能性がある!
ヒルヴィルはこう思い、急いで走り始めた。
バーサーカーモードと言う中二病のようなシステムが発動し、周囲は騒然となった。武器を持つベーキウたちも、動かないドイテオニーチャンを見て、動揺していた。
「何があったのだ?」
「さぁ……分からん」
戸惑うジャオウの問いに対し、ベーキウも戸惑いながらこう答えた。そんな中、クーアが魔力を開放した。
「動かない今なら、ぶっ潰すチャンスじゃ! これでスクラップにしてくれるわ!」
と言って、クーアは無数のビームを放った。ビームがドイテオニーチャンの目前に迫った瞬間、ドイテオニーチャンは左手を前に出し、クーアが放ったビームをかき消したのだ。
「何!」
「この程度のパワーで、私を倒すことはできぬ!」
アニメの美少女キャラのような声を発していたドイテオニーチャンだったが、いきなり巨漢の悪魔のような声に変った。
「うぇぇ……私、さっきの声の方が好みだったのに」
声を聞いて、ペデラタンは残念そうに呟いた。その後、ドイテオニーチャンは勝手に動き出し、近くにいたベーキウに攻撃を仕掛けた。慌てたベーキウは、反射的にクレイモアを前に突き出し、防御した。だが、ドイテオニーチャンの力が強く、徐々にベーキウは押されていった。
「ぐあっ! ぐっ!」
「クッ! 俺が奴の腕を斬る。それまで耐えてくれ!」
ジャオウは急いでドイテオニーチャンの両腕を切り落とそうとした。だが、ドイテオニーチャンの頭に装備されていたバルカン砲が、ジャオウを襲った。
「があっ!」
「ジャオウ!」
ジャオウが攻撃を受けていると察したアルムは、素早くジャオウの前に立ち、バリアを張ってバルカンを防いだ。だが、バルカンの勢いが強いせいで、アルムが張ったバリアにはひびが入った。
「グッ! かなりの魔力を込めているのに……」
「こりゃーやばいわね!」
シアンは剣を持って高く飛び上がり、ドイテオニーチャンのバルカン砲を斬って破壊しようとした。だが、後ろに隠されていた小型キャノン砲が、シアンの目に入った。
「嘘!」
シアンが驚いた瞬間、小型キャノン砲が発射された。シアンは光を発して飛んでくる小さな弾を撃ち落としたのだが、二発目が発射されていた。
「そんなのあり?」
「考えている場合じゃないわよ!」
「あーもう! 面倒かけないでよ!」
キトリは闇を開放して飛んでくる二発目の弾を撃ち落とし、レリルはシアンに近付いて、魔力を使って強化した。
「これであのポンコツにダメージが入ると思うわ。とにかくぶっ叩いて!」
「分かった。一応言っとく、ありがと」
と言って、シアンは猛スピードでドイテオニーチャンの背後に近付き、剣を刺した。剣はドイテオニーチャンに刺さったのだが、特に異常はなかった。
「何なのだ、今のは?」
そう言いながら、ドイテオニーチャンはゆっくりと振り返った。ダメージがないことを知り、シアンは焦った。
「そんな……結構奥深く間で突き刺したのに」
「雑魚からパワーをもらっても、私を倒すことはできぬぅ!」
驚くシアンに向かって、ドイテオニーチャンは強烈なアッパーを放った。
「シアン!」
アルムを助けていたベーキウは、吹き飛ぶシアンを見て叫び、ドイテオニーチャンに向かって走り出した。
「あっ! 危ない! 構えないで近付いたら、返り討ちにされますよ!」
走り出したベーキウに向かって、アルムは叫んだ。だが、この叫びはベーキウに届かなかった。ベーキウは力を込めてクレイモアを振り下ろしたが、ドイテオニーチャンにダメージは入らなかった。
「クソッ! これならどうだ!」
追撃で、ベーキウはクレイモアをドイテオニーチャンに突き刺した。だがその前に、ドイテオニーチャンはベーキウを高く蹴り飛ばした。
「ガハッ……」
蹴り飛ばされたベーキウは、着地のために態勢を整えようとしたのだが、その前にラリアットの構えのドイテオニーチャンが目の前にいた。
「はっ!」
いきなり現れたため、ベーキウは防御することができず、ラリアットを受けてしまい、遠くの岩盤に激突してしまった。ドイテオニーチャンはベーキウの頭を掴み、岩盤に強く押し当てながらこう聞いた。
「もう終わりか?」
「グッ……ウゥ……」
強いダメージを受けたせいで、ベーキウは気を失った。そして、ベーキウの体は力をなくし、岩盤から落ちて行った。
クーアとキトリはダメージを受けて、倒れているシアンの治療をしていた。その中で、ベーキウが倒されたことを察した。
「ベーキウもやられたのか。キトリ、シアンはお前に任せる。わらわはベーキウを助けに行く!」
「私も行くわ!」
「お前はシアンの治療に専念するのじゃ! 早くシアンを戦線復帰させて、ジャオウたちと一緒に戦うのじゃ!」
真剣なクーアの言葉を聞き、キトリはその言葉に従うことにした。治療中、ベーキウを倒したドイテオニーチャンが現れた。
「フハハハハハ! 強いぞ! かっこいいぞドイテオニーチャン! さぁ、残りの雑魚をこの世から消してしまえー!」
「はい」
ペデラタンの命令を聞いたドイテオニーチャンは、右の手から巨大な魔力の塊を発した。だが、魔力の塊はキトリたちに命中する直前に軌道を変え、ユイーマの城の頂上に命中した。
「え……ええー? どうして城を破壊したのー?」
と、恐る恐るペデラタンはドイテオニーチャンに尋ねた。それに対し、ドイテオニーチャンは笑いながらこう答えた。
「お前たちが戦う意思を見せなければ、私はあの城を破壊するだけだ!」
「ちょっと待って! そんなことしなくていいから! 私とスノウ王女のあまーい新婚生活が送られなくなっちゃうから!」
「お兄ちゃんには、私がいればそれで十分。お兄ちゃんは、ずっとずっとずーっと、私の中にいればいいのよ」
と言って、ドイテオニーチャンは笑い始めた。バーサーカーモードにより、ヤンデレ部分も以上に強くなったことを察したペデラタンは、小声でこう呟いた。
「悪魔だ……」
キトリたちが身構える中、ヒルヴィルがやってきた。
「ごめん、遅くなったわ」
「ヒルヴィル王妃。どうしてここに?」
「あのロリコン野郎を倒すためよ。それと、スノウは私たちで助けたわ。今は、カンベイたちと一緒にいるから安心して」
この言葉を聞き、キトリは安堵の息を吐いた。そして、ゆっくりとシアンが立ち上がった。
「それなら、安心して暴れられるわ」
「シアン。まだ手当は終わってないのに。立ち上がったら傷が広がるわよ」
「大丈夫よ。あとは根性でカバーするわ」
シアンは鼻から垂れている鼻血を手で拭い、剣と盾を構えてこう言った。
「私はまだやるわよ。ポンコツ野郎とロリコン野郎! このままぶっ潰してやるから、覚悟しなさい!」
シアンの言葉を聞き、ドイテオニーチャンはシアンの方を振り返った。ペデラタンは苛立ちながら、シアンに向かってこう言った。
「生意気なことを言うなクソババアが! ドイテオニーチャン! あの生意気なクソババアと、その仲間を全員血祭りにあげてしまえ! ヒルヴィル王妃もいるが、構わん! 私とマイスイートエンジェルスノウたんの恋路を邪魔する奴だ、まとめて血祭りに上げろ!」
「うォォォォォォォォォォ!」
ドイテオニーチャンは叫び声を上げながら、シアンたちに向かって走り出した。それに対し、シアンたちも武器を構え、迫るドイテオニーチャンを睨んだ。
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