そうだった! シアンは勇者って設定だった!
ベーキウがショルターを倒し、スノウを探しに向かったことを察したシアンは、目の前にいる女を睨んでこう言った。
「私の彼氏があんたの仲間をやったみたいだからさ、早くその後を追いかけたいのよ。だからさ、さっさとやられてくれない?」
その言葉を聞いた女は、手にしている槍を振り回してシアンを後ろに下がらせ、言葉を返した。
「そうはいかないのよ。やられてほしいのはあんたの方よ。あんたを倒せば、ボーナスが手に入るんだから」
と言って、女は槍を振り回してシアンに攻撃を仕掛けた。シアンは盾で攻撃を防ぎ、女に顔を近づけて叫んだ。
「やられるわけにはいかないの! これ以上、あのロリコン野郎の好き勝手にさせるのは嫌なのよ! あのバカのせいで、酷い目にあったんだし!」
「こっちはいつも薄給だから、貰える時に確実に給料を手に入れないと、将来のことで不安なのよ!」
「だったら、仕事を変えればいいじゃない!」
「戦うことが、私に合う一番の仕事なのよ!」
シアンと女は罵りあいをした後、後ろに下がった。シアンは呼吸を整え、女は槍を振り回して構えた。
やはり勇者。本気を出さないと負ける。
と、シアンと戦っている女、ラーコンは心の中でこう思っていた。ユイーマの槍使いの中で、ラーコンの右に出る者はいないと言われている実力を持っているのだが、ラーコンはシアンが自分より強いことを察していた。
「これ以上あんたと戦うのは、分が悪いわ。本気でやらせてもらうから、死んでも恨まないでね」
ラーコンは魔力を開放しながらそう言うと、槍の先端から強烈な水を発した。
「うわっ! 水鉄砲のつもり?」
シアンは盾で防御をしながら、横に回避した。だが、ラーコンは槍を振り回し、水を操ってシアンを濡らした。
「うへぇ、ちべたい。濡れてスケスケな姿は、ベーキウ以外には見せたくないわよ!」
「見たくもないわよ、そんなもの」
ラーコンはそう言うと、再び魔力を操って水を凍らせた。シアンは全身が凍っていることに気付いたのだが、水が固まる速度は予想より早く、体を動かすことができなかった。
「まずいわね……」
「これであなたは終わりよ!」
ラーコンは素早くシアンに接近し、シアンの腹に向かって槍を突き刺した。
勝った。
槍がシアンの腹にめり込んでいるのを見たラーコンは、勝利を確信した。しかし、槍を引っこ抜こうとしても、槍は動かなかった。
「え……え? どうして? どうして動かないの?」
「あんた、結構頭が回るじゃん。下手したら、私の腹に風穴ができてたわ」
シアンは魔力を開放しながらこう言った。その時の魔力を感じ、ラーコンは恐怖を感じていた。
「な……何よ、この魔力?」
「勇者が持つ魔力かなんかじゃない? ま、そんなのどーでもいいわ」
シアンは首を回しながらこう答えると、気合が入った声を出し、体中にまとわりつく氷を吹き飛ばした。宙に舞う氷の粒子を見たラーコンは、目を開けて驚いていた。
逃げないとまずい!
そう思ったラーコンは、急いで後ろに下がろうとした。だが、目の前にはシアンが立っていた。
「どこに行くつもりなの?」
「えっ! いつの間に!」
「あんたが遅いだけよ」
シアンはそう言って、右手の剣を振り下ろした。剣が振り下ろされただけなのに、台風のような強い風が発した。
「キャァァァァァァァァァァ!」
強い風によって吹き飛ばされたラーコンは、壁や天井、床に体をぶつけた。
「いたた……」
「これで攻撃が終わったと、思わないことね」
接近してきたシアンが、ラーコンにこう言った。シアンは右手に剣を持っており、それで攻撃するとラーコンは予測した。
「クッ!」
このまま攻撃を受けるのはまずいと察したラーコンは、槍を盾にして攻撃を防ごうと考えた。シアンの剣は振り下ろされたのだが、盾にした槍は簡単に斬れてしまった。
「そ……そんな……」
「そんな安っぽい槍で、私の攻撃を防ごうなんて思わないことね」
シアンは槍をうしなって言葉を失ったラーコンに向かってこう言うと、早い蹴りでラーコンを蹴り飛ばした。意味が分からず蹴り飛ばされたラーコンが、攻撃を受けたと理解するには数秒の時間が必要だった。
「がはっ! ごはぁっ!」
床の上に転がるように倒れたラーコンは、咳き込みながらも立ち上がり、シアンから逃げようとした。だが、再び目の前にシアンが現れた。
「ヒィッ!」
「さっきの威勢はどこに行ったのよ? あんた、私を倒してボーナスをもらうようなことを言ってたわよね?」
シアンは恐怖で座り込むラーコンを見て、こう言った。ラーコンの視点からは、この時のシアンからは威圧と恐怖を感じていた。
「すみません……もう、私は戦えません。あなたに勝つことはできません……」
「簡単に負けを認めたわね。で、不意を突いて私を攻撃しようってわけ?」
「そんなマンガの小物のようなことはしません! 私の実力では、あなたに勝てません!」
と言って、ラーコンは泣き始めた。ウソ泣きではなく、本当に心が折れて泣いていると察したシアンは、ため息を吐いてこう言った。
「分かったわ。じゃあ、スノウ王女がどこに連れていかれたか教えて?」
「すみません! そこまで分からないんですぅ! その時、私は休憩室でさぼってましたァァァァァ!」
こう言った後、ラーコンは大声で泣き始めた。この様子を見て、本当に何も知らないと判断したシアンは、スノウはベーキウに任せて、自分はペデラタンを探してぶっ飛ばそうと考え、ペデラタンを探すことにした。
その頃、スーツ姿に着替えていたペデラタンは、部下から話を聞いていた。
「勇者一行が場内で暴れているのか。兵士は戦っているのではないのか!」
「それが、ほとんどの兵士が勝てないことを察して逃げ、一部の勇気あると言うか、無謀な兵士が戦いを挑みましたが、負けているようです」
「そうか……クソ! あいつらさえいなければ、順調に私とエンジェルの結婚式が始まり、夫婦となっていたのに!」
「スノウ王女のことをエンジェルとか言うの止めてもらえません? マジで気持ち悪いんですよ」
「うっさい! 私が王女のことを妻と呼ぼうが、エンジェルと呼ぼうが自由だろうが!」
「そんな自由ないと思いますけど」
「口答えするな! しかし、この状況は非常にまずい。勇者一行が私の部屋にきたら、太刀打ちできない!」
「謝りましょうよ。私も一緒に頭を下げますから」
「お前は私のお母さんか! クソ! こんな下らんコントみたいなことをやっている場合ではない! 何か手段を考えないと」
ペデラタンの言葉を聞いた部下は、あることを思い出してこう言った。
「あるじゃないですか。国民からの税金で作ったヘンテコなロボットが」
「ロボット? あ! そうか! あれがあったか」
部下の言葉を聞き、ペデラタンは部屋の隅に置いてある本棚へ向かった。本棚の本をどかすペデラタンを見て、部下は驚いてこう言った。
「あのロボットは隠し部屋にあるんですね」
「そうだ。民の税でロボットを作っていることがメディアやごみのマスコミ連中に知れ渡ったら、ひんしゅくを買うからな」
「にしても、本棚の整理をした方がいいんじゃないですか? ロリ系のエロマンガばかりじゃないですか」
「私の趣味に口をはさむな!」
「そんな趣味を持っていたら、口をはさみたくなりますよ」
「いい加減黙れ! それより、今から隠し部屋に行くから、付いてこい!」
「えー? 今から見たいドラマの再放送があるのにー」
「ロボットを出す際に、いろいろと準備が必要なんだ! 部下なら手伝え!」
「へーへー、分かりましたよーだ」
部下は文句を言いながら、ペデラタンが隠し部屋を開くまで待った。
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