いざ魔界へ……行けるかな?
ベーキウとキトリは身支度を終え、宿から外に出た。外には、騒いだ罰で一晩中正座をしているシアンとクーアの姿があった。
「反省しましたか?」
呆れた表情のキトリは、シアンとクーアに顔を近付けた。クーアはキトリの頬を掴み、もちをこねるかのように動かした。
「あんたのせいで一晩中、寒い中正座をすることになったじゃないか。どうしてくれる? エルフは歳をとるスピードが遅いって言うけど、肌のケアとかちゃんとしないと大変なのじゃよ」
「確かにね。あんたの場合、シワやシミの処理で大変そうだ」
シアンの言葉を聞き、クーアはシアンを睨んだ。ベーキウはため息を吐き、バカ二人にこう言った。
「反省が足りないのか?」
「反省しています反省しています」
「どーか、どーか許してくださいお願いします。このままだと体に不調が起こります」
ベーキウの言葉を聞いたバカ二人は、すぐに土下座をした。キトリはどうしようか悩んでいる表情を見せているが、ベーキウはため息を吐いてこう言った。
「とりあえず準備をして、魔界に行こう。魔王さんから、ちゃんと話を聞かないと」
その後、シアンとクーアが支度を終え、ベーキウたちは町を出て、広い場所へ向かった。キトリはベーキウたちを見回し、こう言った。
「今から魔界に繋がるゲートを召喚します。強い魔力、そして広い場所を使いますので、なるべく私から離れてください」
「分かった。やってくれ」
ベーキウの言葉を聞き、キトリは頷いて魔力を解放した。その瞬間、キトリの周囲から黒い稲妻のようなものが飛び出した。ベーキウは見たことも感じたこともない強い魔力を感じ、冷や汗をかいていた。そんな中、シアンが近付いてこう言った。
「あれが闇の魔力。魔族しか使えない特別な魔力。私も聞いたことはあるんだけど、実物がこんなに強いものなんて思ってもいなかったわ」
「わらわは何回か見たことがあるぞー。前よく、長老の知り合いの魔族が里にきておったからのー」
と、クーアは横になりながらこう言った。その直後、クーアの下からゆっくりとゲートのようなものが現れた。
「おわのじゃァァァァァァァァァァ!」
クーアは慌ててゲートから離れ、様子を見守った。しばらくして、禍々しい形のゲートが姿を現した。そして、音を立てながら扉がゆっくりと開き、紫と黒が混じった渦巻き状の空間が姿を現した。
「ここから魔界に行けます。それでは、お父さんに会いに行きましょう」
キトリの言葉を聞き、ベーキウたちは頷いてゲートの中に入った。
渦巻き状の空間の中に入った後、ベーキウたちは何も言わずに歩き続けた。シアンは周りを見て、いつになったら魔界に到着するのだろうと思っていたが、クーアはあくびをしながら脳内でベーキウとイチャイチャする光景を思い浮かべていた。
「皆、いますか?」
先頭を歩くキトリが振り向いてこう言った。キトリはシアンとクーアが後からついてきていると察したが、ベーキウの姿がないことに気付いた。
「ベーキウ……ベーキウは?」
「え? あ! ベーキウがいない!」
「ベーキウなら今、わらわとベッドの上……あり? 何じゃ、わらわとしたことが、白昼夢を見ていたとは……あへ? ベーキウがいない!」
シアンたちは急いで後戻りをし、途中で倒れているベーキウを見つけた。シアンはベーキウに近付き、様子を見た。
「体中から汗が流れている。顔色も悪い。呼吸はしているけど……ベーキウ? 返事できる?」
「何とか……苦しい……高熱を……出したように……苦しい」
ベーキウの言葉を聞いたクーアは水の魔力を出して水を凍らせ、ベーキウの額の上に置いた。キトリはベーキウの様子を見て、こう呟いた。
「もしかして、普通の人じゃあ魔界に向かえないのかな?」
「それってどういうこと?」
シアンはこう聞いたが、クーアは何かを思い出したかのように声を上げた。
「そうじゃった! 魔界はわらわたちが暮らしている場所と空気も周囲に漂う魔力も違うんじゃった! 普通の人が魔界に入ろうとすると、たちまち具合が悪くなると聞いたことがある!」
「そうなの? と……とりあえず一旦元の場所に戻ろう! 皆、急ぐよ!」
その後、シアンたちは倒れたベーキウを背負い、急いで元の場所へ戻った。
苦しい表情をしていたベーキウだったが、元の場所に戻ってしばらくして体調が元に戻った。ベーキウは起き上がり、心配そうな表情をするシアンたちを見回した。
「何とか戻ったよ。皆、心配かけてすまない」
「ベェェェェェキウゥゥゥゥゥ!」
シアンたちはベーキウの名を叫びながら、ベーキウに抱き着いた。心配するシアンたちを見たベーキウは、すまないと言って彼女らの頭を優しくなでた。
その後、再び近くの町に戻ったベーキウたちは、今後について話を始めた。
「で、どうやって魔界に行こうか?」
シアンがこう言うと、クーアは何かを考えてこう言った。
「ベーキウを置いて行くわけにもいかんしのう」
「そうですね……何か方法があると思います。あ、聞いたことがあります。昔、普通の人が魔界で過ごせるようにお守りを作ったと」
キトリの言葉を聞き、シアンは手を叩いた。
「それだ! ねぇ、そのお守りってどうやって作るか分かる?」
「ちょっと待ってください。タブレットで調べてみます」
キトリはタブレットを取り出し、お守りのことについて調べ始めた。そんな中、クーアがベーキウの体を見た。
「異常はないか?」
「ああ。さっきまでだるかったのに、今はそうでもないよ」
「よかった。とりあえずこれでも飲め。わらわのおごりじゃ」
と言って、クーアはベーキウに紫色の液体が入ったコップを渡した。それを見たベーキウは嫌そうな顔をし、クーアにこう言った。
「これ何が入っているんだ?」
「精力が付く……いやいや、栄養がたっぷり入ったジュースじゃ。この店の名物らしい」
胡散臭そうにベーキウはジュースを見たが、一組のカップルが声を出したのを見て、その方を見た。
「キャー! これ、すごい色! それに臭い! 実家の救急箱を強くしたような臭いよ!」
「だけど、これさえ飲めば元気になるんだよ! ほれ、見て見ろよ」
カップルの男性がジュースを飲み干し、息を吐いた。その直後、男性の体が急に膨れ上がり、まるで鎧だろと思うような筋肉となった。
「どうだ? すごいジュースだろう?」
「すっごーい! じゃあ、女性が飲めばどうなるの?」
「セクシーになれるさ」
その言葉を聞いたカップルの女性は、一気にジュースを飲みほした。すると、体が大きく動き、ボンキュッボンのセクシーなスタイルとなった。
「さーて。このままホテルへ向かおうか!」
「一日中……いや、一週間ほど滞在しましょうよ」
「賛成だ!」
と言って、カップルは去って行った。すごいジュースだなと思いながらベーキウはジュースを飲もうとしたが、シアンがそれを止めた。
「ベーキウはその姿のままの方が素敵だよ」
「そ……そうか……だけど、そのまま飲まなかったら、クーアに悪いし……」
「だったら私が飲む!」
と言って、シアンはジュースを一気に飲んだ。それを見たクーアは心の中で、筋肉モリモリになったベーキウにあれこれされようと思ったのにと後悔した。一方で、シアンは心の中で、私もボンキュッボンになるんだと思っていた。だが、ジュースを飲んでもシアンの体系は変わらなかった。
「あれ? ボンキュッボンにならないけど」
「人によって効果が変わるんじゃろ。お前には効果がないってことじゃ」
「そんなのってあり……このジュース、少し苦かったのに……」
効果がないと知ったシアンは、その場で泣き崩れた。こんなバカな光景を見ていたキトリは、ため息を吐いてこう言った。
「バカなことをやっている場合じゃありません。今、お守りの作り方が書かれたサイトを見つけました」
キトリの言葉を聞いたベーキウたちは、すぐにキトリが持つタブレットに注目した。この中で、ベーキウはこれさえあれば魔界に行けると思っていた。
この作品が面白いと思ったら、高評価とブクマをお願いします! 感想と質問も待ってます!