スノウ王女、再び家出する
翌日、スノウは扉を少し開き、そこから顔を出して周囲に兵士やメイドがいるかどうか確認した。
よし、誰もいない。
周囲に誰もいないことを察したスノウは、自室に戻って押入れの扉を開き、脱出用のロープを手にした。
フッフッフ。いざって時に脱出兼家出用のロープを用意しておいて正解でしたわ。これで、ベーキウ様と会える!
そう思いつつ、スノウは窓からロープを垂らし、外に脱出した。そして、周囲に誰もいないことを察したスノウは、もう脱出で城から城下町に飛び出した。
スノウが家出したことを知らない城の兵士たちは、嫌な顔で客人の相手をしていた。
「久しぶりにきたのだ。そんな顔をするな、兵士諸君」
その客人と言うのは、隣国のユイーマのロリコン王、ペデラタンである。ペデラタンは何かと理由を付けてヘルグリームの城にきているが、本当の理由はスノウと会うためである。
「あのロリコン野郎、まーた何かと理由を付けて王女に会いにきたぞ」
「一応、隣の国の王様だから、丁寧に扱わないと。あー、めんど」
と、兵士たちは小さな声で会話をしていた。運よく、その罵倒に近い会話はペデラタンの耳に入らなかった。
兵士たちはヒルヴィルの部屋の前に立ち、扉をノックした。
「どなた?」
「隣国、ユイーマのロリコ……違った、ロリコン王……すみません、ペデラタン王がきてしまいました」
「おい、しょっ引くぞこの野郎」
兵士の言葉に対し、ペデラタンはこう言った。その直後、とてつもなく嫌な顔をしながらヒルヴィルが扉を開けた。
「何の用事よロリコンクソ野郎。あんたのようなロリコンにスノウは渡さないわ。いい加減その性癖をどうにかしなさい。でないと、股間にぶら下がってる粗末なモノを魔力で消し炭にするわよ」
ヒルヴィルはそう言いながら魔力を開放し、強い炎を発した。それを見たペデラタンは悲鳴を上げ、後ろに転倒した。
「すみませんすみませんすみません! 勘弁してくだしゃい!」
「何度も何度も変な理由を言って、この国にくるのは大体理解しています。スノウもあんたの性癖を理解し、あのロリコン嫌い。できれば死んでほしいと言っています」
「え? そこまで嫌われてるの?」
「そりゃそうよ。小さい子を見てナニを立てるような奴に、スノウが惚れると思う?」
ヒルヴィルはため息を吐き、ハエを追い払うように手を振って、続けてこう言った。
「早くこの腐れロリコン野郎を牢屋にぶち込みなさい」
「分かりました!」
兵士は元気よく返事をし、ペデラタンの両脇を担いだ。ペデラタンは悲鳴を上げながら両腕を振り回し、拘束を解いた。
「今のは本気か? 冗談か?」
「半分冗談よ。スノウに会う以外で用がなければさっさと出て行って」
「フ……そうしょう。え? 半分冗談って、半分は本気で私を牢屋にぶち込むって考えてたの?」
ペデラタンがこう言った直後、別の兵士が慌ててやってきた。
「大変です! スノウ王女がまた家出をしました!」
「えええええ! 何ですってェェェェェ!」
ヒルヴィルの大きな悲鳴が、城中に響いた。
ベーキウとキトリは、ヘルグリームの城下町で買い物をしていた。
「いいのかキトリ? シアンとクーアを焔のルビー探しに任せて」
ベーキウは、キトリが無理矢理シアンとクーアを宝石の洞窟へ向かわせたことを知って、気にしていた。キトリはリンゴを見ながら、ベーキウにこう言った。
「あの二人のことだから、何かと理由を付けてベーキウをラブホに連れてくと思う。まともに買い物をしなさそう」
「ああ。確かにな」
ベーキウは納得し、キトリとの買い物を続けた。そんな中、兵士が慌てて走っていくのを見かけた。
「まさか……」
「王女様がまた家出したのかしら」
キトリがこう言うと、箒に乗ったヒルヴィルが上空から降りてきた。
「あなたは昨日のイケメンさん! 確か名前は……」
「ベーキウです」
「そうそう! ベーキウさん! またあの子が家出したの! きっと、あなたと会うために城を抜け出したのよ!」
ヒルヴィルから説明を聞いたキトリは、ため息を吐いた。
「恋って、たまに人を狂わせるわね」
「あなたみたいなイケメンを見たら、女の子は誰だって夢中になるわ! もし、あの子を見つけたら何が何でも保護して! 実は、隣の国のロリコン王がこっちにきて、スノウと会おうとしてるのよ!」
この言葉を聞いたベーキウとキトリは、目を丸くして驚いた。
「ロリコン王? 変な名前」
「本名はペデラタン。そいつはロリコンで有名な王様なのよ! あのロリコン野郎、スノウを見つけたらきっと連れ帰るつもりよ!」
「ああ、だから急いで探しているんですね」
キトリの言葉を聞き、ヒルヴィルはものすごい速度で頷いた。
「そうなの! 緊急事態よ! 見つけたら、連絡お願いね!」
と言って、ヒルヴィルは箒に乗って飛んで行った。再び大変なことになったと思いつつ、ベーキウはカンベイたちに連絡をした。
ペデラタンは、全力で走りながらスノウを探していた。
「どこだ! どこにいるんだ未来のマイハニー! どこにいようが、私は君を見つけてみせるよー!」
と、気持ち悪いことを言いながら、走っていた。そんな中、ペデラタンは公園で無邪気に遊ぶ幼女を見つけた。その姿に目を奪われ、ついペデラタンは近くの茂みに隠れてしまった。
「ああ、美しい妖精だ。できれば、あの子と一緒に……」
「兄ちゃん、俺の娘に何か用か?」
後ろから、白いスーツ姿の男が声をかけてきた。幼女はその男をお父さんと呼び、近付いた。幼女のお父さんは娘を抱きかかえ、こう聞いた。
「大丈夫か? この不審者に何かされなかったか?」
「されなかったよ。誰、この変な人?」
「不審者だ。ずっとお前を見ていた」
幼女のお父さんはそう言うと、指を鳴らしながらペデラタンに近付いた。
「あの……その……私は隣の国の王、ペデラタンです。実はその……家出したスノウ王女を探していましてねぇ」
「知らんな、そんな情報」
幼女のお父さんは首を動かし、骨を鳴らしながらペデラタンに近付いた。このままだと半殺しか、ひどいことになると察したペデラタンは、急いで身分を証明する物を出そうとした。
「ちょっと待ってくれ! 私が隣の国の王であるのは本当だ! ちょっと待ってくれ! 今、運転免許を出すから!」
ペデラタンはそう言ったのだが、胸ポケットに入れてあった財布がないことに気付いた。
「あ……そうだ。車の中に財布を入れっぱなしだった」
「どうやらお前は、本当の変態不審者のようだな」
幼女のお父さんはペデラタンの首を掴み、そのまま持ち上げた。
「あががががが! 勘弁してください! これでも私は王様なんだ!」
「仮にあんたが本当に隣の国の王様だとしても、ヒルヴィル様が俺たち民にこう言ったんだ。隣の国の王、ペデラタンはスノウ王女に恋をしている危険な人物だ。こっそりこの町に侵入したら、焼くなり煮るなり半殺しにするなり好きにしていいと」
その言葉を聞き、ペデラタンは悲鳴を上げた。その時、幼女のお父さんはペデラタンの頭を近くの壁にぶつけた。勢いを付けて壁に激突したため、ペデラタンの鼻からは鼻血が流れた。
「あべべ……」
「お父さん、まだ意識があるみたい。コテンパンにやっつけて」
「ああ。分かった」
幼女のお父さんは娘にそう答えると、ペデラタンの両足を掴み、ジャイアントスイングを始めた。
「うォォォォォォォォォォ! ロリコン野郎は、この俺がぶっ倒す!」
言葉と同時に、幼女のお父さんはペデラタンを道路に向かって投げた。運よく車がいなかったのだが、ペデラタンが起き上がったと同時に黒塗りの高級車がペデラタンの近くを通った。
「あっぶな! このバカ! 私が目の前にいるだろうが、どこに目を付けている!」
と言って、ペデラタンは黒塗りの高級車の扉を蹴った。すると、窓が動き、中にいたおっかない人がペデラタンを睨んだ。その威圧に負け、ペデラタンは後ろに下がった。だが、下がろうとした瞬間に車の中から腕が伸び、ペデラタンを無理矢理車内に入れた。そして、黒塗りの高級車は走り去った。
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