その頃のジャオウさんたち
ベーキウたちがヘルグリームの城下町でスノウと遭遇しているころ、ユイーマから逃げているジャオウたちは、道中で野宿をしていた。
道から外れた人がいなそうな場所で、ジャオウたちはテントを張って休んでいた。アルムがテントの入り口から、顔を出して周囲を見回していた。
「今、人はいないよ」
「そうか。料理をするなら今のうちだな」
ジャオウは外に出て、簡易的なコンロと小さな鍋を取り出し、スープを作り始めた。アルムはジャオウの横に立ち、食材を切り始めた。そんな中、レリルはテントの中で横になっていた。
「ああ……テントの中ってあまり快適じゃないわね」
そう呟いた直後、レリルの耳元で羽音が響いた。飛び起きたレリルは周囲を見回し、飛び回る蚊を見つけた。
「ああもう、蚊がいるのね。夏じゃないのに……」
レリルは殺虫スプレーを探したが、そんな便利なものは買っていないと思いだし、苛立ちながら飛び回る蚊を狙って手を叩き始めた。その音を聞いたアルムは、ため息を吐いていた。
「バカなことをやっているなら、こっちを手伝ってほしいのに……」
「止めておけ。あいつ一人に料理を任せたら、ニンニク料理になるぞ」
「うーん……それは勘弁」
ジャオウとアルムは話をしながら料理を続けていた。しばらくすると、アルムはジャオウにこう聞いた。
「ねぇ、焔のルビーがある洞窟まで、あとどのくらいかかるの?」
「徒歩で行っても、明日までには到着するだろう。近くにドワーフの家があると聞いたが、彼らに知られないように行動しないと」
「あの人たちがいなければいいんだけど」
アルムの子の言葉を聞き、ジャオウはベーキウたちのことを思い出した。
「いる可能性が高いな。いずれにせよ、また会ったら戦うだけだ」
そう言いながら、ジャオウはお玉を動かしていた。
翌日、ジャオウたちは宝石の洞窟の前にいた。ジャオウは地図を見て、アルムとレリルにこう言った。
「どうやら、ここが焔のルビーがある洞窟のようだ」
「ここにあるんだね」
アルムは洞窟の入り口に近付き、洞窟の中から発する風を受け、何かを感じた。
「とんでもないモンスターがいるかもしれないね。うなり声が聞こえる」
「うっげェェェェェ。こんな危険な洞窟に入るの? マジかんべーん」
レリルは嫌そうにこう言ったが、アルムはため息を吐いた。
「それじゃあレリルさんとはここでお別れだね」
「ようやくニンニク臭い女から解放されるのか。少しホッとした」
と言って、ジャオウとアルムは宝石の洞窟へ入って行った。レリルはあくびをして、ジャオウとアルムの帰りを待とうとしたのだが、ここにベーキウたちがいるかもしれないことを思い出した。
やばい。今ここであのちんちくりんの勇者たちと遭遇したら、私……殺される!
下手をしたらシアンたちと遭遇することを考え、レリルは急いでジャオウとアルムの後を追いかけて走り出した。
ジャオウとアルムは嫌そうな顔をしていた。ようやくレリルから解放されたと思ったのだが、すぐにレリルが追いかけてきたからだ。
「レリルさん、何かが起きても、自分の身は自分で守ってください」
「お前を助ける余裕が、いつでもあると思うなよ」
「はーい。了承してまーす」
レリルはそう答えながら歩いていた。しばらく歩いていると、ジャオウたちの前に光が見えた。
「光? 誰かがいるのかな?」
「魔力は感じないわよ。モンスターの気配も感じないし」
「多分、壁や天井に埋まっている宝石だろう。この洞窟、少しくらいから宝石の光が目立つんだ」
壁や天井に宝石がある。その言葉を聞いたレリルは歓喜の声を上げ、壁を掘り始めた。
「宝石宝石! たくさんあれば私が美しく輝く! ヒャッハァァァァァァァァァァ! 宝石のバーゲンセールやァァァァァァァァァァ!」
獣のような声を発しながら、素手で壁を掘るレリルを見たアルムは、ジャオウにこう言った。
「女の人って、どうして宝石とかに弱いのかな?」
「分からん。ただ、目立ちたいだけかもしれん」
奇行を始めるレリルを止めた後、ジャオウとアルムは奥へ歩き続けた。
しばらく歩くと、ジャオウは足を止めた。
「あえ? どうして止まるの?」
レリルがこう言った後、ジャオウは背中の大剣を手にした。アルムもナイフを持ち、周囲を見回していた。
「あー、モンスターがいるのね」
モンスターがいることを察したレリルは、あくびをしながら後ろに下がろうとした。だがその時、アルムがレリルの方を向いて叫んだ。
「動かないでください!」
「え?」
アルムの叫び声を聞いたレリルは、驚いた表情をしてその場に立ち止まった。その瞬間、後ろから巨大なヒャクアーシが現れた。
「あっげェェェェェ! 気持ち悪い!」
「油断するな! 今、あいつを倒すから逃げろ!」
ジャオウは大剣を構え、ヒャクアーシに向かって振り下ろした。強烈な一撃を受けたヒャクアーシは、体を回しながらその場に倒れた。その直後、無数のヒャクアーシが地面や壁、天井から現れた。
「噓……か……囲まれた? あんな気持ち悪い奴に?」
腰を抜かしたレリルは、ジャオウにこう聞いた。ジャオウはため息を吐き、言葉を返した。
「ああ。こいつら、奇襲をするのに慣れている。しくじった、気付くことができなかった。それに、ヒャクアーシは群れで動く。大量にいても、おかしくない」
ジャオウは悔しそうにこう呟き、襲ってくるヒャクアーシに攻撃を仕掛けた。アルムは魔力を開放し、ナイフを振るってヒャクアーシに攻撃を仕掛けた。レリルは仕方ないと思いつつ、魔力を開放した。
「私が力を貸すわ! だから、ちゃちゃっとあんなムカデ野郎ぶっ飛ばして!」
「俺たちを強化してくれるのか。頼む!」
ジャオウの言葉を聞き、レリルは自身の魔力を発してジャオウとアルムの強化を行った。
「おお……力がみなぎる……」
「レリルさん、見直しました!」
ジャオウとアルムは礼を言った後、ヒャクアーシに攻撃を仕掛けた。レリルは後ろから、戦うジャオウとアルムの応援を始めた。それからしばらくして、ヒャクアーシとの戦いを終えた。
「ふぅ……やっと終わった」
ジャオウは大剣を背中にしまい、周囲を見回した。洞窟は広く、深い、そう考えたジャオウは、大変な探検になると思った。
一方その頃、ベーキウたちはカンベイたちの家に帰ってきた。
「ただいま戻りましたー」
「おお。戻ってきたか」
クーゾはベーキウたちの方を振り返りつつ、こう言った。ベーキウたちは手洗いうがいをした後、城下町での出来事を話した。
「スノウ王女と遭遇したのか」
「はい。王女……俺のことを気に入ったみたいで大変でしたよ……」
疲れたような表情で、ベーキウはこう言った。その言葉を聞いたシアンたちは、怒りの形相となった。
「あのクソガキ。たとえ王女だろうが何だろうが分からんけど、ベーキウを寝取ろうと考えるなんざ千年早いのよ」
シアンの怒りのつぶやきを聞いたカンベイたちは、冷や汗をかきながらシアンを冷静にさせた。
「こりゃ、俺は城下町に行くのは止めた方がいいかも」
ベーキウの言葉を聞いたクチヨは、少し考えてこう言った。
「いや、そこまでしなくてもいいと思う。スノウ王女は、ベーキウを探して頻繁に城下町にくるかもしれないぞ」
「だとしたら、王女の行動を止めるために、何回か城下町に行って運よく遭遇して、説得したほうがいいってわけか」
ベーキウはそう言いながら、スノウのことを思い出した。
焔のルビーを取りにきただけなのに、大変なことになっちゃったなぁ。
と、ベーキウは心の中でこう思い、深いため息を吐いた。
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