七人のドワーフたち
宝石の洞窟で焔のルビーを手に入れようとしたベーキウたちだったが、そう簡単に話は進まなかった。洞窟に住んでいたヒャクアーシと言うムカデのモンスターに襲われ、ベーキウ、シアン、クーアが攻撃を受けて倒されてしまった。主人公と二人のヒロインが倒されて危機に陥ったキトリだったが、そこにドワーフが現れ、キトリの危機を救った。
「フン!」
カンベイと言われたドワーフは、斧による攻撃を受けて頭を回しているヒャクアーシを見て、息を吐きながら再び斧を構えた。
「まだ戦うつもりなら、確実に倒しますよ?」
カンベイはヒャクアーシにこう言ったが、ヒャクアーシは奇声を上げながらカンベイに噛みつこうとした。
「あなたがその気なら、こっちも本気です!」
と言って、カンベイは両腕に力を込めて斧を横に振るった。斧の刃はヒャクアーシの体に命中した。倒された仲間を見たヒャクアーシは、カンベイを見て動揺するように動いていた。
「さぁ、次は誰が相手になりますか?」
カンベイがこう言った直後、ヒャクアーシの群れは逃げるように去って行った。
「ふぅ、何とかなりましたね。クーゾ、そっちはどうですか?」
「かなり深くかまれているでござる。魔族の娘さんが治療を行ったでござるが、それもいつまでもつか……」
「急がないとまずいですね。とにかくここから出ましょう!」
カンベイはそう言うと、クーゾと協力して倒れたベーキウたちを背負い、急いで外に向かった。
宝石の洞窟から出るまで、キトリは自分たちの素性と、どうして宝石の洞窟にいたのか説明した。話を聞いたカンベイは、キトリにこう言った。
「そうなんですか……いろいろとあの洞窟について語りたいのですが、今は治療が先です!」
「拙者たちの家まではあともう少しでござる。お三方、もう少しの辛抱でござるよ!」
「ベーキウ、シアン、クーア、もう少し頑張って!」
キトリたちはカンベイたちの家に着くまで、何度もベーキウたちに声をかけていた。
数分後、キトリたちはカンベイたちの家に到着した。
「皆! 緊急事態だ!」
カンベイは大声を上げながら扉を開けた。近くにいた白衣を着たドワーフが、珍しいものを見るかのようにベーキウたちを見た。
「旅人かい?」
「話はあとで話す。それよりも毒の治療がしたいんだ」
カンベイがベーキウたちをベッドの上に寝かせながらこう言った。その言葉を聞いた白衣のドワーフは、目を丸くして驚いた。
「毒の治療ってことは、この旅人さんたちはヒャクアーシの毒にやられちまったってわけかい! そりゃー緊急事態だ! おーい! 手を貸してくれー!」
白衣のドワーフが声を出すと、階段から四人のドワーフが現れ、すぐにベーキウたちの周りに集まった。白衣のドワーフはベーキウたちの傷を見て、難しそうな声を上げた。
「こりゃーまずいかもな。カンベイたちは魔力でこの旅人の体力を回復してくれ。ワシは毒を取り除く!」
「了解!」
ドワーフたちは返事をした後、一斉に魔力を開放した。その直後、周囲にあった物が吹き飛び、キトリはその魔力を感じて驚いた。
「強い……一人一人の魔力が私たち以上にある!」
「お嬢さん、少し下がってな!」
ドワーフの一人がこう言ったため、キトリは治療が終わるまで、別室で待機していた。
別室の椅子で座っていたキトリは、治療が無事に終わることを祈っていた。数時間が経過したが、ドワーフたちの治療は終わらなかった。
「お願い……皆助かって……」
キトリが涙を流しながらこう言うと、ドワーフの一人が扉を開けた。
「治療は終わったよ。命は助かったから、安心してくれ」
この言葉を聞き、キトリの全身から力が抜けた。
数分後、キトリはベッドの上で横になっているベーキウたちの元へ向かった。
「悪いキトリ、心配かけさせたみたいで……」
「別にいいのよ。皆が助かったんだもん」
キトリは涙を流しながらベーキウにこう言った。一方で、シアンは近くにいるドワーフに礼を言っていた。
「ありがとうございます。まさか、あんなムカデのモンスターにやられるなんて思ってもいなかったです」
「あんた、旅を始めて月日が浅いだろ。ヒャクアーシは基本、群れで動く。あの洞窟に生息するモンスターの中ではかなり厄介な奴だ」
「宝石を目当てにあの洞窟へ向かう旅人もいるが、大半は運が悪くてあいつらに噛まれて、あの世逝きさ」
ドワーフの言葉を聞き、クーアは身震いをした。
「うーわ、わらわたちはあんな物騒な洞窟の中を探索しようとしていたのか」
「本当にバカな人たちだ。もう少し情報を集めてからでもいいのに」
この言葉を言われ、クーアは返す言葉を見つけることはできなかった。そんな中、ヒャクアーシと戦っていたカンベイと言うドワーフが、ベーキウたちの方を向いた。
「それじゃあ改めて自己紹介を。僕はカンベイ」
「私はクチヨと申します。以後、よろしく」
と言って、クチヨは頭を下げた。次に口を開いたのは、本を持ったドワーフだった。
「私はツーシロと言います。何か困ったことがあったら私を呼んでください」
「それじゃあ次はワシじゃな! ワシはロウベ。周りの連中はマッドサイエンティストと言っているが、ワシはまともな博士じゃ!」
ロウベはそう言って笑いだしたが、後ろにいた腕組をしているドワーフが呆れてため息を吐いた。
「よく言うぜ、あんたが作る発明品は訳が分からん物ばかりなのに」
「セブ、とりあえず自己紹介を」
カンベイがセブにこう言うと、セブは慌てて口を開いた。
「俺はセブ。力仕事担当だ」
「セブまで紹介したから、次は自分ですね」
と言って、上にいたドワーフが下に降り、ベーキウたちの方を見回した。
「自分はヘハシです。他の人たちと違ってこれと言った特技はありませんが、よく周りを見ていると言われています」
「ヘハシはムードメーカーでござる。彼のおかげでいろいろ助かることがある。拙者はクーゾ。刀と言われる剣を使うが、これでもヒーラーでござる。以後、よろしく」
ドワーフたちの自己紹介が終わった後、シアンが上半身を起こしてこう言った。
「それじゃあ私たちも自己紹介をしないとね」
「あなたたちのことはキトリさんから聞きました。勇者のシアンさん。エルフの賢者のクーアさん。そして、クレイモア使いのベーキウさんですね」
カンベイの言葉を聞き、シアンはキトリの方を向いた。
「なーんだ。キトリが説明してくれてたのね。面倒なことをさせてごめんねー」
「いいのよ、気にしないで」
シアンに対し、キトリは笑顔でこう言った。その時、ベーキウは頭を抱えた。
「ウッ……少しくらくらする……」
「私も」
体の不調を察したシアンは、再び横になった。クーゾはベーキウたちの様子を見て、不調の原因を理解した。
「まだ毒が完全に消えたわけではないでござるな。拙者たちの魔力も少ししかないし……恥だと思うが、治るためだと思ってくだされ」
「え? まさかあれを使うのか?」
セブはクーゾが何を使うか理解しており、すぐにキトリに近付いてこう言った。
「治療する時、俺たちは別室にいるから」
「え? 治療って何をするの?」
「これを使うでござる」
部屋から出てきたクーゾは、錠剤をキトリに渡した。錠剤は三つあり、キトリはじっと見てそれが何か確認しようとしたが、どこからどう見てもただの錠剤だった。
「これは拙者が作った強力な解毒剤でござる。どんな毒も、これを使えば一発で治るでござる。そして、副作用はないでござる」
「そんなにすごい薬があるのね」
「拙者が薬を調合し、ロウベ殿に作ってもらった。だが……一つだけ、問題があるのでござる」
「問題って何? これ、飲み薬じゃないの?」
キトリがこう聞くと、クーゾは言いにくそうな感じで、小さな声でこう答えた。
「実はこれ……座薬でござる。すぐに毒を治したいって考えで作ったら……座薬と同じじゃないとダメだって……それで……」
クーゾの答えを聞いていたベーキウたちは、顔を青く染めていた。
この作品が面白いと思ったら、高評価とブクマをお願いします! 感想と質問も待ってます!




