生まれた大地に別れを告げて
いろいろあったが、ベーキウたちはファントムブレードに関する書物を見つけることができた。ベーキウはシアンたちを見て、本を開いた。そこには、このような文章が書かれていた。
一発だけなら何でも斬れちゃう伝説的な剣、ファントムブレード。最強の剣士を目指している読者、つまりそこの君! 君だけにファントムブレードの作り方を教えちゃおう!
ファントムブレードを作るには、以下のような素材が必要だ。
焔のルビー。
純白のガラス玉。
海のサファイア。
金粒の魔石。
プラチナの砂鉄。
自然のエメラルド。
バラのダイア。
空色の勾玉。
これらの素材を集めたら、ぜーんぶまとめて熱して剣の形にすればいい! 剣の作り方を知っているなら、全部熱して形を整えればいいだけだ! え? 剣の作り方が分からない? それは分かる人に聞こう!
この文章を見たベーキウたちは、歓喜の声を上げた。
「うっし! これでファントムブレードの作り方を学んだぞ!」
「今のうちに写真を撮らねば!」
クーアは携帯電話のカメラで本を撮影しようとしたが、役員に止められた。
「すみません、図書館内での写真撮影は禁止されています」
この言葉を聞いたクーアは役員を睨み、文句を言った。
「別にいいじゃろうが! 一ページくらい写真で撮影しても!」
「ダメなもんはダメなんです。ルールを守れない人は秒で出て行け」
役員の言葉を聞き、クーアは怒りが爆発しそうになった。このままだとまずいと思ったベーキウとキトリはクーアに近付き、怒りを鎮めていた。
「落ち着けクーア!」
「これ以上暴れたらここにいられなくなっちゃう。それに、ルールを破ったクーアの方が悪い」
「グッ……」
ベーキウとキトリの言葉を聞き、クーアは冷静になった。そんな中、シアンは難しそうな声を上げていた。気になったベーキウは、近付いて話しかけた。
「どうしたんだ、シアン?」
「皆、作り方と素材が分かったって言っても、今、私たちがいる大陸にこれらの素材はないわよ」
「じゃあ、別の大陸に行かないといけないってわけか」
「そうね。世界各地を回るような旅になりそうね」
そう言って、シアンは本を閉じてベーキウたちにこう言った。
「一度、落ち着ける場所で話をしましょう。今後のことで、話をしたいの」
その後、ベーキウたちは静かなカフェにいた。シアンは水を飲んだ後、ベーキウたちにこう言った。
「この旅は、私の予想以上に大変になりそうなの。始まったら、そう簡単に家に戻ることはできないわ」
この言葉を聞き、ベーキウとキトリは今までにないシリアスなシアンを見て、緊張感を持った。だが、クーアだけは緊張感を持っていなかった。
「なーにを言っとるか! わらわはのちにやばいことを起こしそうなジャオウ一味と、ベーキウのハートをゲットするために旅に加わったんじゃ! 何日かかろうが、何か月かかろうが、何年かかろうが構わん!」
シアンは少し呆れた顔になったが、クーアの言葉を聞いたせいか、安堵の表情を見せた。ベーキウは少し笑うと、立ち上がってシアンにこう言った。
「俺も付き合うよ。理由はあれだけど、俺が役に立つなら、この旅を続けていきたい」
「もちろん私も行くわ。ジャオウの野望を食い止めるのが、私が動いた理由だから」
と、キトリもこう言った。ベーキウたちの言葉を聞き、シアンは安堵の息を吐いた。
「皆ありがとう。覚悟はとっくに決まってたわね。それじゃあ、勇者の特権を利用して別の大陸に行けるようにするけど、その前に行きたい場所はある?」
シアンの質問を聞き、ベーキウは口を開いた。
「そうだ。一度、母さんの所に行って挨拶をするよ」
「おっ、わらわとの結婚報告か?」
にやにやしながらクーアがこう言ったが、その直後にシアンとキトリがクーアの口にコーラを流し込んだ。バカらしい光景を見ながら、ベーキウはこう言った。
「しばらく家を空けるから、そのことを伝えたいだけなんだけどな……」
数日後、ベーキウたちはベーキウの実家に到着した。ベーキウがチャイムを鳴らすと、すぐにベーキウの母が姿を現した。
「あらまぁ。いつぞやの勇者ちゃんと……あら、かわいらしい仲間が増えたのね」
と、ベーキウの母はクーアとキトリを見ながらこう言った。その後、ベーキウたちは家に入り、今までのことを伝えた。
「大変だねぇ。ベーキウが変なサキュバスにさらわれたり、町で大きなモンスターと戦ったり、魔界に行ったり……この数日で大変な目に合ったわね、ベーキウ」
「ああ。本当に大変だったよ」
ベーキウはこの数日間を思い出しながら、ため息を吐いてこう言った。ベーキウがため息を吐く姿を見て、ベーキウの母はこう言った。
「でも、これからもっと大変なことが起こるんでしょ?」
「うーん……そうだね。これから、別の大陸に行かないといけないんだ」
「別の大陸? そりゃー大変ねぇ」
「手にしたい剣の素材が、別の大陸にあるから」
「強い剣を作りたいのね。なんだかゲームみたいね」
ベーキウの母は笑いながらこう言った。ベーキウはまるで他人事のような母を見て、少し呆れた表情をしていた。だが、クーアが立ち上がってこう言った。
「お義母さん! ベーキウのことはわらわに任せてください! 一緒に戦うのはもちろんのこと、夜の世話までちゃーんとやります!」
自らの母に向かって飛んでもないことを言い放ったクーアを見て、ベーキウは飲んでいた紅茶を吹き出してしまった。その直後、シアンがクーアに飛びかかり、パイルドライバーを決めた。
「年増のエルフがなーに言ってんのよ! ベーキウの世話は私がするのよ! あんたは顔だけ地面にめり込んでなさい!」
「小娘がふざけるな! ベーキウにお似合いなのはわらわじゃボケェェェェェェェェェェ!」
その後、シアンとクーアは外に出て、喧嘩を始めた。ベーキウとキトリが呆れた表情をする中、ベーキウの母は笑ってこう言った。
「大変仲のいいパーティーになったわね。旅が終わったら、たくさんの孫ができそうね」
「待ってくれ母さん。そんなことを言わないでくれ! あいつらのことだから、本気にする!」
とんでもないことを言い放った母に対し、ベーキウは慌ててこう言った。その後、ベーキウたちは一泊することにした。ベーキウは久しぶりに自室で寝ることになったのだが、ベッドの中にはシアンたちがいた。
「はぁ……ベーキウの匂いがすりゅぅ……」
シアンは布団に顔を押し付け、匂いを嗅いでいた。キトリはベーキウの腕を抱き、寝息を立てて眠っていた。クーアはベッドから落ちてしまったが、いびきをかいていた。
「このままで寝られるわけがない……」
ベーキウは小さく呟いた。
翌朝、ベーキウは旅立ちの支度をした後、母親の方を向いてこう言った。
「それじゃあしばらく家を空けるよ。いつ、帰ってくるか分からないけど」
「大丈夫よ。私には、株で得た大金があるから」
ベーキウの母はこう言った後、シアンはベーキウの母に頭を下げ、口を開いた。
「ベーキウは私が守りますので安心を! 旅が終わったら、ベーキウと一緒に戻ってきます! その時は、私とベーキウの結婚を認めてください!」
「なァァァァァァァァァァにを言っとるんじゃお前はァァァァァァァァァァ!」
クーアはシアンに飛びかかり、延髄蹴りを放ってシアンを蹴り飛ばした。攻撃後、クーアは猫を被ったような声でこう言った。
「わらわはエルフの賢者です。ですから、ベーキウを守るのはわらわに任せてください。もちろん、孫もたくさん作ります。プロ野球球団ができるくらいの孫を作る予定ですので」
「おばあさんが無茶をするのはよくないわよ」
と、キトリはクーアに接近し、ドロップキックを放った。クーアを蹴り飛ばした後、キトリは頭を下げてこう言った。
「私は魔王の娘なので、ベーキウのことは任せてください。孫はあの……私はまだ……十五歳なので、難しいけど……」
「十五歳なの。まだ子供なのに立派ねぇ。大人になったら、ベーキウとにゃんにゃんしても構わないから」
「母さん、未成年のキトリにとんでもないことを言うのは止めてくれ!」
とんでもないことを言った母に対し、ベーキウは大声を出した。その言葉を聞いたシアンとクーアは立ち上がり、ベーキウの母に近付いた。
「じゃあ私たちもにゃんにゃんしてもいいと!」
「絶対に孫を作って帰ってくるのじゃ!」
「うふふ。ま、ベーキウがその気ならばねー」
と言って、ベーキウの母は笑いながらこう言った。その後、ベーキウたちは旅立ったのだが、シアンたちは歩く中、ずーっとベーキウにくっついていた。
「ねぇベーキウ。旅が終わってからじゃあ遅いから、今のうちに……ぐひひ」
「何をするつもりじゃ勇者! ベーキウのファーストキッスはあのニンニク臭いサキュバスに奪われたが、ベーキウの下の方はわらわが先にもらうんじゃ!」
「そんなことを言うと、嫌われるわよ」
シアンたちは、騒ぎながら言い争いをしていた。シアンたちのバカらしくてどうでもいい言い争いを耳にしながら、ベーキウは心の中でこう思った。
こんなパーティーで大丈夫なのかと。
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