主人公とヒロインは最終回かその目前に結ばれるが、この作品ではどうかな?
ジャオウとアルムは正座をしてしくしく泣いている従業員を見て呆れていた。この従業員はシアンからわいろを貰い、男湯内でベーキウを一人ぼっちにするように仕掛けたのだ。シアンはその隙に男湯に乱入してバカ騒ぎを起こした。
「話をしてくれてありがとうございます」
「勇者シアン……やってることは本当に勇者か?」
「すみませーん。スマホゲーに課金しまくって大変なんですー」
「そんなくだらないものに金を使うからだ。サービスが終わったら金は帰ってこないのに」
ジャオウはそう言ってため息を吐いた。その時、ボロボロになったシアンとクーアとレリルが姿を見せた。
「あー、酷い目にあった」
「次こそは絶対にベーキウと一線超えてやるのじゃ」
「ババアがベーキウの子を産めるわけないじゃないの。孕むのは私よ」
「何じゃとー!」
「何言ってんのよ二人とも。私がベーキウの子を産むのよ」
「あんたみたいなちんちくりんが孕む前に、ベーキウに異性としてみられるかどうか」
「あぁん? 文句あんのか口臭サキュバス?」
「何? いっちょやろうっての? 上等!」
「喧嘩は止めてください」
そう言いながら、アルムがシアンたちの間に入り込んだ。アルムが割り込んだことにより、バカな女の喧嘩は終わった。だが、バカな女のたくらみは終わっていなかった。このバカたちは、次の行動を企んでいたのだ。それは、ベーキウの部屋に忍び込んで一線を越えると。
宿の部屋割りについて。ベーキウはシアンたちが部屋に入ると考え、男子と女子で分けたのだ。そのことについては、ジャオウもアルムも話を聞いてすぐに賛成した。だが、それでも自分の欲望に忠実なシアンたちが何かをするだろうとベーキウは考え、キトリにあることを伝えていた。シアンとクーアとレリルを闇の魔力の球体で封じてくれと。
その日の夜、キトリが作った闇の球体の中でシアンとクーアとレリルが叫んでいた。
「あーもう! またキトリの闇の球体に捕まったじゃないの!」
レリルは壁を叩きながらこう言ったが、シアンとクーアはのんびりとしていた。
「あんたら、こんな状況でよくもまぁのんびりとしていられるわねぇ。閉じ込められてベーキウたちがいる部屋に入ることができないってのに!」
「まーまー落ち着くのじゃ。これまで何度も閉じ込められる経験をしておるが、そのおかげで対策もできた」
「対策? 何よ、この状況をどうにかする方法があるっての?」
「その通りじゃ」
クーアは壁に近付き、右手を添えた。すると次の瞬間、闇の球体は崩壊した。
「なっ!」
突如バラバラになった闇と、ドヤ顔のクーアを見たキトリは動こうとしたのだが、その前にシアンたちはすぐに部屋から飛び出した。
「ヒャッホー! あんた、あの闇をぶっ壊すことができのね!」
「まぁの! 光も闇の魔力を持っておらんレイダーズのエロジジイが闇の魔力をどうにかできたのじゃ! わらわにもできると思って考えていたのじゃ!」
「ご苦労様、クーア! それじゃあ私はお先にベーキウと一線超えてくるわ!」
と言って、シアンは猛ダッシュでベーキウがいる部屋に向かった。それを見たクーアとレリルは同時に声を上げた。
「あああああ! あの勇者、何もしてないくせに!」
「シアンの奴! 後であいつの尻の穴にごぼうとかぶち込んでやるのじゃ!」
「それはごぼうがもったいないからやめなさい。あれ?」
会話中、レリルはあることを察した。
「そう言えば、スノウ王女はどこ?」
ベーキウたちは騒動があったせいで酷く疲れており、先に眠っていた。ジャオウとアルムはすぐに寝息をかき、ベーキウも目をつぶって数分後には眠っていた。だが、男たちの睡眠時間を妨害する小さな乱入者がこの部屋にいた。
誰もが眠っている。今がチャーンス。
小さな乱入者こと、スノウは弱く光るランプを使い、ベーキウの姿を探していた。
「これはジャオウお兄様。隣はアルムさん。アルムさん、こうやってみると本当におきれいな顔をしていますね。女の子みたい。うっとりしている場合じゃないわ」
スノウは周囲を見回すと、獲物であるベーキウの姿を見つけた。スノウはすぐに音を立てないように素早く動き、ベーキウの布団の中に潜り込んだ。
ヒャー! ベーキウお兄様と一緒! 今ならお邪魔な勇者たちも現れない! すげー天国!
スノウはベーキウが起きないようにベーキウに抱き着き、顔を体に押し当てた。その時、ベーキウが苦しそうな声を上げた。
ゲッ、やべ。起きそう!
ベーキウが起きると思ったスノウは、すぐに離れた。ベーキウは苦しそうな声をしばらく上げた後、寝相を変えた。スノウは安堵の息を吐き、再びベーキウに抱き着いた。
「はふぅ……天国ぅ」
誰にも邪魔されず、想い人のベーキウを抱きしめることができ、スノウはにやけ顔になっていた。そんな中、扉が開く音が聞こえた。スノウは殺気を感じ、後ろを振り返った。そこには、ベーキウに向かってダイブするシアンたちの姿があった。
「ベーキウゥゥゥゥゥ!」
「わらわがベーキウを抱くのじゃ! お前らは下がってろ!」
「やっぱりここにいたのね! さっきから姿がいないから、気になったのよ!」
「ゲェェェェェ! 邪魔者が入りました!」
スノウはベーキウを抱いたまま、横に回転してシアンたちをかわした。床に激突したシアンたちは赤くなったおでこをさすりながら立ち上がり、スノウを睨んだ。
「スノウ王女、王女の身分でありながら腹違いの兄に夜這いを仕掛けようとするとは、なんと不潔な」
「不潔なのはあなたたちも一緒でしょうが。勇者とあろうお方が、仲間に夜這いを仕掛けようとするのは不潔だと私は思いますが」
「王女、あんたブーメランを投げていることに気付かないんですか?」
「醜いブーメランの投げ合いは止めなさい。それじゃ、私はベーキウと一緒に……」
レリルはベーキウの布団に入ろうとしたが、ベーキウが苦しそうにうめいた。
「に……ニンニク臭いぞ……」
この言葉を聞き、レリルはちょっとだけショックを受けた。
「だーっはっは! 残念じゃったのーレリル! 夢の中にいてもお前の口臭はきついってわけじゃ!」
「頼むから……ニンニク食った後で近付かないでくれ……クーア」
ベーキウの寝言を聞いたクーアは、体が固まった。シアンはその姿を見て、爆笑した。
「だーっはっは! あんた、ベーキウの夢の中じゃ口臭キャラって位置づけなのねー! 加齢臭もあって口臭もあるんじゃ、だれだって寄ってこないわアッハッハー!」
「クソがァァァァァァァァァァ! 目を覚ませベーキウ! 夢の世界にい続けてはいかんのじゃー!」
と言って、クーアは無理矢理ベーキウに近付いてキスをしようとした。それをいち早く察したスノウはベーキウの顔面を覆うように抱きしめた。
「あなたみたいな老害がベーキウお兄様にキスをしては、ベーキウお兄様がかわいそうです! あなたはそこら辺にいる小汚いおっさんの尻にでもキスしてなさい!」
「うるせェェェェェェェェェェ! お前はわらわのことを何じゃと思っておるんじゃァァァァァァァァァァ!」
「今、王女に向かってお前って言いましたね? 権力を最大に使えばあなたみたいな性格の悪いエルフなんて一発で処刑にすることができるのよ! ギロチン台に上りたくなければ、今すぐあの窓を突き破って外に飛び出しなさい!」
「今飛び出すのはあなたよ! いい加減ベーキウの頭から離れなさい!」
シアンはスノウをベーキウの顔から引き離そうとしたが、スノウはベーキウの頭を抱いて叫んだ。
「いーやーでーすー! ベーキウ様とチューどころかにゃんにゃんするまで離れませーん!」
「おい」
「うるさいから出て行ってもらえませんか?」
と、寝起きで半分目が開いているジャオウとアルムが声をかけた。二人の機嫌の悪そうな声を聞き、シアンたちはいそいそと部屋から出て行った。
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