剣聖VS地上最強の家族ッ!
怨念こもったスノウの攻撃は、レイダーズには届かなかった。だが、次の攻撃を行うためにデレラたちがレイダーズに近付いた。デレラからあふれ出る強者のオーラ、そして背後にいるユージロコ、ジャクミ、バキコを見たレイダーズは思わず悲鳴を上げた。
「た……助けて……殺される」
この瞬間、レイダーズは思わず本音を吐いた。剣聖であるレイダーズは長年厳しい修行を行ったため、人並外れた運動神経を手に入れた。それと同時に、今後の展開を予想する探知能力もそれなりに鍛えられていた。その察知能力が、レイダーズに何をやっても無駄。殺される可能性があるとうなりのような声を上げていた。
「さて、見た目は老いぼれジジイだけど……」
「ヤッテイルコトハ許サレナイコトヨ」
「一発殴ってやるから、そこで大人しくしてなさい」
ユージロコたちはそう言うと、高く飛び上がったレイダーズに襲い掛かった。
「ふんぬっ!」
上空から、ユージロコの強烈な拳がレイダーズに迫った。反射的にレイダーズは横に富んでかわした。ユージロコの拳は地面にめり込み、その衝撃で周囲に地割れを起こした。
「うわァァァァァ!」
「ちょっと、やりすぎよ!」
周囲にいたスノウやシアンは、突如発生した地割れを見て驚いた。
「すまんねぇ。ちょっとやりすぎたわ」
攻撃を終えたユージロコは、ゆっくりと立ち上がって頭を下げた。その直後、ジャクミが猛スピードでレイダーズに迫った。
「ガァァァァァ!」
ジャクミは口を大きく開け、レイダーズの左肩に噛みついた。
「アッギャァァァァァ!」
いきなり噛みつかれたため、思わずレイダーズは魔力を開放し、ジャクミを吹き飛ばした。後ろに吹き飛んだジャクミは立ち上がり、口をもごもごと動かし、中のものを地面に吐き捨てた。
「コレデアノジジイハ攻撃デキナイハズ」
この言葉を聞いたスノウは、何を吐き出したか見ようとしたが、シアンとジャオウは急いでスノウの目を隠した。
「ちょっと! どうしたんですかいきなり!」
「見ちゃダメよ!」
「過激すぎる!」
ジャクミが吐き出したのは、レイダーズの肉片である。ギャグファンタジーにはふさわしくない大人チックなグロイ光景のため、二人はスノウの目を隠したのである。
「イッデェェェェェェェェェェ! あのデカブツ、やりやがったァァァァァ!」
レイダーズは魔力で左肩を治療しながら、ジャクミを見た。治療をしているが、食いちぎられた左肩は治りが遅かった。
「うそーん! 深くやられたってこと? こんな時に……」
「ドゥゥゥゥゥルルルルル!」
そこに、バキコが体を回転させながらレイダーズに攻撃を仕掛けた。バキコは勢いのある右足の回転蹴りをレイダーズの頭に命中させた。
「グアッハ!」
蹴りを受けたレイダーズは体を回転させながら宙に舞い、後ろに吹き飛んだ。
「デレラ! 追撃するなら今のうちよ!」
「分かりました、バキコお姉様!」
デレラは腰を深く落とし、右手に全身の力を込めた。込めた力が強すぎるせいか、デレラの足元の地面がめり込んだ。
「うわ、ちょっと。何をするつもりなのあの人?」
「全力の攻撃を仕掛けるつもりよ。鍛えに鍛えたその力、発揮するつもりね」
シアンの問いに対し、ユージロコは笑みを浮かべてこう答えた。レイダーズは逃げようとしたのだが、ジャクミとバキコから受けたダメージが重く、体が動かなかった。
「痛い! あ、これマジでやばいかも」
「私の全力、受け止めなさい!」
と言って、デレラは瞬間移動かと思うほどの速度でレイダーズの懐に移動し、右手でレイダーズの腹を殴った。攻撃が当たった瞬間、周囲に巨大な風船が勢い良く破裂したと思わせるような爆音が響いた。
「え……ちょま……」
「す……すごい音」
音を聞いたシアンとジャオウは驚き、スノウはあまりのうるささに耐え切れず、両耳を抑えていた。
攻撃を終えたデレラは、レイダーズの腹からゆっくりと右手を抜いた。レイダーズの服は腹部分が散り散りに敗れ、腹筋部分が見えていた。
「とんでもない腹筋ですね。私の全力の攻撃の三割ほど、ダメージを抑えたんじゃありませんか?」
デレラは年老いた割にはバッキバキに鍛えられたレイダーズの腹筋を見てこう言った。レイダーズは小さくうめき声をあげ、片膝をついた。
「とんでもねー嬢ちゃんじゃ……ゲホッ!」
「ま、これでも私はあなたの隠し子ですからね」
「そりゃー強いわけじゃよ」
その時、レイダーズは笑みを浮かべた。その笑みを見たデレラは自分がやらかしたことに気付いた。レイダーズはこの一瞬の会話の隙に、殴られた腹を治療し、噛みつかれた左肩の治療を終えたのだ。
「しまった!」
デレラは急いで回し蹴りを放ったが、レイダーズは防御し、後ろに下がった。
「今のパンチは痛かったぞ。じゃが、まだまだわきが甘いの」
「クッ!」
レイダーズの言葉を聞き、デレラは悔しそうな表情をした。レイダーズは逃げるチャンスだと思って振り向いたが、そこにはアルムの援護を受け、パワーアップしたベーキウがクレイモアを構えて迫っていた。
「ギャァァァァァァァァァァ! ベーキウ!」
「喰らえ!」
ベーキウは勢いよく二度、クレイモアを振るった。だが、レイダーズは体を動かして攻撃をかわし、後ろに下がった。
「ふひー」
「隙ありですわ!」
背後からレイダーズに迫ったデレラはレイダーズの腰を掴み、そのままバックドロップを仕掛けた。大きい音が周囲に響き、シアンはレイダーズの首が折れたのではと思った。だが、レイダーズの首は結構頑丈であり、バックドロップを受けたすぐにレイダーズは立ち上がった。
「酷いことをするのー」
「お前が一番えげつないことをやってんだよ!」
「大人しくしてください」
ベーキウとアルムがこう言った直後、ヤイバが剣を持って現れた。
「あんたが俺の親父ってわけか! 見境なしに女を襲うってのは、外道のすることだぜ!」
「えええええ! お前もワシの隠し子?」
「その通り!」
ヤイバはレイダーズに向かって剣を振るったが、防御された。防御するだろうと予測したヤイバはレイダーズの腹を蹴り、後ろに飛ばした。
「ヤイバ。援護ありがとう」
「いいってことよ。それよりも、もっといい援軍がこっちに向かっているぜ」
と、ヤイバはベーキウにこう言った。
近くの港にて、一人の男性がのんびりと釣りをしていた。
「はぁ、釣れねぇなぁ」
ピクリとも動かない糸を見て、男性はあくびをした。その時、男性は空を飛ぶ魚の群れを目撃した。夢かと思った男性は目をこすり、もう一度空を見上げた。確かに、空の上で魚が空を飛んでいた。
「俺、疲れてるんだな」
そう呟いた男性は急いで釣り糸を引き上げて道具をしまい、家に帰った。
上空にて。空を飛ぶ魚の先頭にいるサンマは後ろに魚たちに声を上げていた。
「皆はん! アユ様からのお呼び出しやで! 悪いエロジジイを懲らしめるためにワシらの力が必要らしいんや! どんなエロジジイかは分からないけど、とにかくお呼び出しを受けた以上、ワシらも動かなあかん! ベーキウはんたちやその知り合いの人たちもいるから、ワシらが援護してエロジジイに天誅を与えるんや! 天誅って天のお仕置きやな。ワシらは海やから、天誅って言ったらおかしいな。ナハハハハハ!」
サンマは一人で爆笑しながら話をしていたが、一緒に空を飛ぶ魚はその言葉を聞き流し、適当に返事をしていた。サンマは誰も話を聞いていないことに気付かず、ベーキウたちと合流するまでずーっと口を動かしていた。
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