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敗北した後で


 悔しい。何もできなかった自分が悔しい。


 ジャオウによって攻撃を受け、倒れる寸前にシアンはこう思っていた。勇者としてそれなりに力があり、魔力も持っているシアンは、自分はどんな敵と戦っても余裕で勝てる。強敵なら、若干苦戦はするだろうけど、多分勝つだろうと思っていた。


 だが、実際は違った。ジャオウの強い一撃で気を失い、一緒に戦っていたベーキウも怪我を負ってしまったのだ。


「ベーキウ……」


 不安になったシアンは、ベーキウを探すために周囲を見回した。だが、隣のベッドにも部屋の中にもベーキウはいなかった。


 もしかして、自分より重い怪我を負ったのかと思ったシアンは、急いで立ち上がって部屋の中を探した。すると、トイレからベーキウが姿を見せた。


「おっ、目が覚めたのかシアン。心配してたんだぞ」


「ベェェェェェェェェェェキウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!」


 ベーキウの姿を見たシアンは、泣きながらベーキウに抱き着いた。その瞬間、シアンは体全体から痛みを感じた。


「イッダァァァァァァァァァァ!」


「おいおい、一応手当はしたけど、俺より怪我がひどいらしいから、あまり動くなよ」


 ベーキウは四つん這いになって悲鳴を上げるシアンを見て、ため息を吐いてこう言った。その時、買い物に行っていたクーアとキトリが戻ってきた。


「おー、やーっと目が覚めたかシアン」


「なかなか目を覚まさなかったから、不安だったの」


「一応あんたらも心配してくれてたのね……ありがと」


 シアンは腰をさすりながら立ち上がり、ベッドの上に座った。キトリはシアンに近付き、慌ててこう言った。


「ちゃんと寝ないとダメよ。怪我が治らないわよ」


「そうね……今回ばかりはちゃんと休まないと」


 その後、シアンはベッドの上で横になり、ベーキウたちからジャオウとの戦いの後の話を聞いた。


「そう……あいつの攻撃を受けて倒れた私とベーキウを、二人が見つけてくれたのね」


「私たちが到着した時は、もうジャオウとアルムはいなかったわ。多分……ジャオウも大きなダメージを負ったから逃げたんだと思う」


 キトリの言葉を聞き、シアンは深く考えた。ベーキウと二人でジャオウに戦い、ジャオウに深手を負わせるまでのダメージを与えることができた。だが、逃がしてしまっては意味がないと。


「次に遭遇したら、確実に倒さないとね」


「じゃな。じゃがまー、あいつらの居場所は分からんぞ。慌てて探しても見つからんから、今はゆっくり休むことに専念せい」


 クーアはお茶をシアンに渡してこう言った。シアンは小声でありがとうと言った後、お茶を飲んだ。一口飲んだ直後、あまりのまずさにシアンは口の中のお茶を吹き飛ばした。


「まっずゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ! 何、このとんでもなく苦いお茶? 飲める気がしないんだけど!」


「エルフ特性治癒効果のあるお茶じゃ。代々わらわエルフに伝わる治療薬をぜーんぶぶち込んだお茶じゃ。これ飲めば怪我なんて治ると思うから、一気に飲み込め」


 と言って、クーアは苦いお茶を無理矢理シアンに飲まそうとしていた。




 その日の夜、ベーキウは夜中に目を覚ました。シアンがジャオウとの戦いで負けたことにショックを受けていたのだが、ベーキウもそれなりにショックを受けていたのだ。


 俺よりも強い大剣使いがいたなんて……俺もまだまだ未熟だな。


 そう思いながら、ベーキウはもう一度寝ようとした。だが、なかなか寝付けなかったため、外に出た。風を浴びてしばらくリラックスしようと考えたのだが、ベランダにはシアンがいた。


「シアン、お前も眠れないのか?」


 ベーキウの声を聞いたシアンは、驚きながら振り返った。その目には、涙が流れていた。涙を見たベーキウは、驚きながらシアンに近付いた。


「どうしたんだよ、涙なんて流して」


「ごめん、驚かせちゃった?」


 シアンは涙を拭きながら答えた。心配したベーキウは、シアンの横に立った。


「何か悩みか?」


 ベーキウがこう聞くと、シアンは頷いた。


「うん。一度、ジャオウにコテンパンにされたから、悔しくて悔しくて……痛手を与えたって言っても、確実に倒したわけじゃないからね」


「確かにな。俺も同じだ、悔しいよ」


 ベーキウの言葉を聞き、シアンは少し間をおいて答えた。


「ベーキウも私と同じ気持ちなんだね」


「ああ。だけど、そこまで深く考えてないさ」


 この言葉を聞き、シアンは驚いた。


「どうして? 戦いに負けたんだよ? 悔しくないの?」


「悔しいさ。でも、生きている限り、ずーっと勝ち続けるわけじゃないだろ? 一度……何度も負けることがある。負けたことをバネにして、次に備えればいいさ。俺はそう思うよ」


 勝ち続けるわけじゃない、何度も負けることがある。この言葉を聞いたシアンは、心の重荷が少し落ちた気がした。


「ありがとうベーキウ。私は勇者だから、ずーっと勝たなきゃいけないって思ってたよ」


「深く考えすぎだ。あまり気を負うなよ」


 と言って、ベーキウはシアンの頭を撫でた。シアンは嬉しそうにベーキウの手を握り続けた。しばらくし、ベーキウはあくびをした。そろそろ眠気が出てきたころだろうと思い、ベーキウは立ち上がろうとした。だが、シアンがベーキウの手を離すことはなかった。


「なぁ、そろそろ部屋に戻りたいんだが……」


「戻らなくていいよ。このまま朝を迎えようよ」


 シアンは笑みを浮かべると、無理矢理ベーキウを押し倒した。


 こいつ、発情していやがる!


 シアンの顔を見たベーキウは、すぐにこう判断した。シアンの手から抜け出そうとしたベーキウだったが、すでにシアンはいろいろとやる気であり、焦っているベーキウの顔を見て笑った。


「さぁ……このまま本ヒロインと一線を……」


「超えさせるかァァァァァァァァァァ!」


 騒動を知ったクーアが乱入し、発情したシアンをベランダの外に向かって、大きく投げた。




 一方、大ダメージを受けたジャオウは、人が寄り付かないような深い森の中で、アルムの治療を受けていた。


「一応手当は終わったけど、まだ動かないほうがいいね」


「ああ……すまない、アルム」


 ジャオウは怪我を負った自身の体を見て、ベーキウたちがかなり強い戦士であると把握した。


「今回の戦いには運よく勝利したが……次はないかもしれない」


「そんなこと言わないでよ。負けると思ったら負けるもんなんだよ」


 アルムはジャオウの包帯を変えながらこう言った。その言葉を聞いたアルムは、ジャオウがベーキウたちのことをどれだけ危険視しているか把握した。


「ジャオウが気にするほど、強い人たちだったんだね」


「ああ。一度負けた奴は次に勝つため、鍛えるはずだ。油断していられないな……」


 ジャオウがこう言った直後、後ろから草の動く音が聞こえた。誰かがいると察知したアルムは、ナイフを構えて叫んだ。


「誰だ! 姿を現すんだ!」


「ちょっと待った! タンマタンマ! 私は怪しい人じゃないって!」


 両手を上げながら姿を現したのは、シアンたちから逃げているレリルだった。


「何だ、その辺にいるサキュバスか……」


 レリルの姿を見たアルムは、危険性がないことを把握し、ナイフをしまった。この言葉を聞いたレリルは、不服そうな顔をしてこう言った。


「何よ? その辺にいるサキュバスで何が悪いの? あんただってインキュバスじゃないの」


「すみません、怒らせるために言った言葉じゃないんです」


 アルムはレリルに頭を下げながらこう言った。この時、レリルはアルムの股間を見て、よだれを垂らした。


「あんた、女みたいな顔をしている割にいいモノを持っているじゃん。どう?」


「やりませんよ! こんな変な森の中で変なことをするのはバカだけです!」


「取り込み中悪いが……アルム、顔に違和感があるんだ。仮面を外すから、傷の有無を見てくれ」


「うん。分かった」


 アルムはレリルを無視し、ジャオウの仮面を外した。その時、ジャオウの姿を見たレリルのハートは奪われた。


「うっはァァァァァァァァァァ! 何? あんた超イケメンじゃん! ギャップ萌え? なんでそんなへんちくりんな仮面を付けてるの? そんなのないほうが何百倍もいいのに!」


「うるさいサキュバスだなぁ。そんなの俺の勝手だろうが。アルム、傷はあったか」


「大丈夫。なかったよ」


 ジャオウはアルムから仮面を受け取り、すぐに顔に付けた。その時、レリルはジャオウに近付いて口を開いた。


「何で付けるのよ! イケメンがもったいないじゃない!」


「俺の勝手だと言っただろうが! ふぐぅ、口を閉じろサキュバス! ニンニク臭がする!」


「えー? そんなこと言うのひどくなーい? まぁ確かに、ニンニク料理は食べてきたけど」


「口臭ケアをしろ!」


 その後、叫ぶレリルを見ながら、アルムは嫌な予感がした。この人、僕たちの旅についていくつもりなのかと、心の中で思っていたのだ。


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