ジャオウの目的
ベーキウとジャオウの決闘は、ベーキウの勝利で終わった。ベーキウが放った攻撃がジャオウの仮面に命中し、仮面は割れた。超イケメンの素顔を明らかになったジャオウは、自身の目的を放すことにした。
ジャオウは大きく息を吸い、目を閉じた。
「俺の目的の前に、俺の過去を放しておく。今回、魔界の掟を破ってまで、ここにきたことに関係するからな」
「お願い」
シアンに促され、ジャオウは話を始めた。
「俺の母は、一度この世界から魔界に来訪した一人の男に口説かれた。異性を恋に落とすような感じの男だったせいで、母はあっという間にその男に惚れてしまった」
「で、その男と一晩過ごして生まれたのがお前じゃったのか」
クーアの言葉を聞き、ジャオウは返事をした。その後、ジャオウは過去のことを思い出したのか、怒りで歯を食いしばった。
「だが、母があの男に惚れたのが間違いだった。あの男は俺が生まれた直後、母に何も言わず姿を消してしまったのだ」
「ちょっと、それってワンナイトラブだけやって、後は逃げたってこと? 最低ねその男!」
「そうか、分かったぞ! お前はその男をぶっ飛ばすためにここにきた。そして、その男を倒すためにファントムブレードを求めたわけじゃな!」
「クーアさんの言う通りです。僕はジャオウから話を聞いていたので、このことに協力しました」
「私は最初からジャオウの素顔を知ってたんだけどねー」
レリルはジャオウの顔を見ながらこう言った。ジャオウは鼻を抑え、レリルから離れた。
「仮面がないから口臭が鼻に入る。気持ち悪いから少し離れてくれ」
「えー? どうしてよ? いいじゃない、もうちょっと顔を見させてよー」
「話ができなくなるほど気持ち悪くなる。話し中だから、離れてくれ。頼むから」
ジャオウはレリルに頭を下げてこう言った。レリルは仕方なく、後ろに下がった。その後、ジャオウは咳払いをして話を続けた。
「あの男が去った後、母は育児や仕事で本当に大変だった。幼い頃の俺は、母を支えるために勉強の合間、いろいろと手伝った」
「あんたやっぱり良い奴ね」
シアンの言葉を聞き、ベーキウとキトリは頷いた。クーアはジャオウに近付き、こう言った。
「話を聞いた以上、お前ら親子を見話にしたクソ野郎をぶっ飛ばさねば気が済まん! ジャオウ、その男ってどんな名前じゃ? 教えてくれ」
「だが、教えたところでどこにいるかどうか分からないぞ」
「草の根分けても探してやるわ! いいから教えてくれ! もったいぶるな」
「ああ。分かった」
ジャオウはベーキウたちの方を見て、ゆっくりと口を開いた。
「俺が殺したい相手。それはレイダーズ・シュバルティーグ。この世界では、剣聖と言われている男だ」
レイダーズ。この史上最強の剣士、そして史上最低の変態エロスケベクソジジイの名前をジャオウの口からきいた瞬間、ベーキウたちの体は固まった。
「あの……どうかしましたか? 何かあったんですか?」
固まったベーキウたちを心配したアルムは、近くにいたシアンに声をかけた。アルムに声をかけられて我に戻ったシアンははっとした表情になり、クーアとキトリの肩を叩いた。
「ちょっと、意識を取り戻して! 衝撃を受けている場合じゃないわよ!」
「すまん勇者。あのクソジジイにされたことを思い出してしまったのじゃ。殺意がわいてきた」
「あの野郎……昔っからあんなことをしてたのね」
クーアとキトリの態度を見て、心配したジャオウが近付いた。
「なぁ、レイダーズと何かあったのか?」
「あったのよ。前の大陸であの変態ジジイと遭遇して……一緒に戦ったんだけど、毎回毎回アホのようにセクハラしてくるわで大変だったのよ!」
「しかも、そいつがベーキウの……ベーキウ……の……」
この時、クーアはもう一つ衝撃的な事実を知ってしまった。シアンとキトリもそのことを知り、口を開けて驚いた表情をした。
「ねぇちょっと、何なのよ? そんな変な顔をしちゃって」
「何かあったんですかって……うわぁ!」
アルムは体中が真っ白になり、猛スピードで震えているベーキウを見て驚いた。
「ベーキウさん! ちょっと、一体何があったんですか!」
アルムはベーキウに近付いて声をかけたが、ベーキウは悲鳴を上げ、答えることはしなかった。その様子を見たアルムはシアンに近付いた。
「何か察したんですか? 教えてください!」
「じ……実はね、あの時にベーキウの実父がレイダーズってことが判明したのよ」
「へ? と、いうことは……」
話を聞いたアルムとレリルは今聞いたことを頭の中でまとめた。しばらくして、アルムとレリルはシアンたちと同じように驚いた表情になった。先に事実を知ったジャオウは、口を開けて体中を震わせていた。
「まさか……まさかまさかまさか!」
「ちょっと待って、え? 噓でしょ? レイダーズってエロジジイがジャオウとそのお母さんを残して去った。それで……あのイケメンの実父がレイダーズってエロジジイってことは……」
「ベーキウさんとジャオウは……腹違いの兄弟ってこと?」
「マジかァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!」
ジャオウの凄い声量の叫び声が、闘技場に響いた。
その後、ベーキウたちは闘技場の外に移動していた。衝撃的な事実を知って、まだ頭の中で整理ができていなかったのだ。一部を除いて。
「いやー、まさかベーキウとジャオウが腹違いの兄弟って……こんなことがあるんじゃな」
「ホントそうね。でも、これからどうするの?」
レリルがクーアにこう聞いたが、クーアはため息を吐いた。
「分からん。とりあえずジャオウとの決着は終わらせたが……とんでもなく大きな問題ができちまったのー」
そう言って、クーアは体中が真っ白になっているベーキウとジャオウに近付いた。
「とりあえず、どこかゆっくりと話せる場所に移動するか? 今後のことについて話したいし」
「あ……あ……」
「い……い……」
ベーキウとジャオウからは、精気の抜けた声が返ってきた。何を放しても今は無駄だと判断したクーアは、ジュースを買いに行っていたシアンとキトリとアルムが戻ってくるまで待つことにした。
数分後、シアンたちがジュースを買って戻ってきた。
「まだ調子を取り戻さないのね」
「そりゃそうよ。今まで戦ってきた因縁の相手が、腹違いとはいえ兄弟なのよ。誰だって驚くわ」
「僕もまだ衝撃が抜けていません」
シアンたちはまだ白いベーキウとジャオウを見て、話をした。ジュースを飲んでひと段落したが、それでもベーキウとジャオウは調子を取り戻さなかった。
「どうしよう。まだ白い」
「うーん……やっぱり衝撃が強すぎたか。なら、別の衝撃を与えればどうにかなるじゃろう」
と言って、クーアはキス顔をし、ベーキウに近付いた。その直後、シアンとキトリの飛び蹴りがクーアの右のこめかみに命中した。
「イッデェェェェェ! こめかみに一点集中して飛び蹴りを放つな!」
「あんたがバカなことをしようとしたからよ!」
「あんたがキスをしたら、ベーキウが死ぬわ」
「わらわの口づけがそんなに殺傷力があるわけないじゃろうが!」
「ババアのキスよ! 誰だってそんな言葉聞いたら吐き気はするし、寒気も感じるわ!」
「なぁーにぃー! 見た目は美少女じゃからええじゃろうが! ベーキウとキスさせろー!」
「させるか! ちょっと、力貸して」
シアンはそう言って、ジャオウにキスをしようとするレリルの顔を掴み、ベーキウに接近しようとするクーアの方を向けた。レリルの口臭を鼻にしたクーアは、悲鳴を上げて倒れた。
「うっし。これでいい」
「いいのかな……」
アルムは目の前で起きたドタバタ劇を見て、呆れていた。
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