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奥の手と言うのはいざと言う時に使う


 渾身の力を込めたベーキウの斬撃と、ジャオウの斬撃がぶつかり合った。激しい音と光を発した後、ベーキウとジャオウは後ろに吹き飛ばされた。その際、ベーキウとジャオウは体を一回転させて態勢を整え、リングの上に着地した。


「音、止まった?」


「ええ。今のは激しかったわねー」


 キトリとシアンが話をする中、音を聞いたモンモたちが闘技場にやってきた。


「今のは一体?」


「ベーキウとジャオウの斬撃がぶつかったんです」


「ぶつかっただけで、あの衝撃。二人とも、本気を出している」


 ソクーリは武器を構えなおすベーキウとジャオウを見て、小さく呟いた。




 ジャオウはベーキウを見て、小さく笑っていた。最初、戦った時は自分より弱いが、強くなる可能性を秘めた剣士の一人とベーキウのことを認識していた。だが、今は違う。ジャオウはベーキウのことを、自分と同等に戦える剣士として認識した。


「強くなったな。もっと本気を出さねば、お前を倒せないかもな」


「今そんなことを言うか? 褒めてもやるものは斬撃しかねーぞ」


「それでいい。さぁ、俺はもっと本気を出すぞ」


「そうか。それじゃあ、かかってこい!」


 ベーキウはクレイモアをジャオウに向けた。それを見たジャオウは魔力を開放し、周囲に闇を放った。その闇を見たキトリは目を開いた。


「闇の魔力を使うのね。私と同等の力……ベーキウが対処できるかどうか……」


「できるわよ。ベーキウならきっとね」


 シアンはため息を吐いてこう言った。キトリはベーキウの勝利を信じ、心の中で祈った。


 ジャオウは周囲に発した闇を操り、刃の形に形成した。


「では行くぞ!」


 と言って、ジャオウは闇の刃を引き連れてベーキウの元に走り出した。ベーキウは魔力を開放し、無数の氷柱を作った。


「こっちも本気で行くぞ! 無傷でいられると思わないほうがいい!」


「そのつもりだ!」


 ジャオウはベーキウに接近し、大剣を振ろうとした。だが、その瞬間にベーキウが作った氷柱が発射された。ジャオウは闇の刃を動かし、氷柱に向かって飛ばした。


「うわっ! あんな技使うのかよ!」


「奥の手って感じ」


 リオマとモンモは猛スピードで飛んでくる氷柱の破片をかわしながら話をした。ティンクルは飛び回る氷柱の破片を手にし、かき氷機に入れていた。


「もう少し集まれば、一杯はできるベボー」


「ジャオウとベーキウさんが真剣に戦っているんで、あまりそんなことをしないでください」


 アルムは冷や汗をかきながら、かき氷のために氷柱の破片を集めるティンクルにこう言った。


 ジャオウが放った一閃は、ベーキウに当たらなかった。ベーキウはジャオウが攻撃することを予測し、どのタイミングで攻撃されてもいいように、気付かれないように自動的に伸びる氷の柱を作っていたのだ。


 俺の攻撃を予測したのか!


 いきなり現れた氷の柱を見て、ジャオウは驚いた。ベーキウは氷の刃を操ってジャオウに攻撃し、ひるんだ隙にジャオウに近付いた。


「悪いが、斬らせてもらうぞ!」


 ベーキウの言葉を聞いたジャオウは、目を開いて魔力を開放した。開放した時の衝撃でベーキウは後ろに吹き飛び、その時にクレイモアを手から放してしまった。


「さーて、できたベボー」


 戦いの真っ最中、かき氷を作ったティンクルはかき氷にイチゴシロップをたっぷりかけて食べようとした。だがその時、飛ばされたクレイモアはティンクルが持つかき氷に命中した。


「あああああああああああああああ! 僕のかき氷がァァァァァァァァァァ!」


 地面に落ち、秒で溶けていくかき氷を見て、ティンクルは嘆いた。そんな中、ベーキウはリングの外に落ちたクレイモアを拾ってすぐにリングの上に上がった。


「リングアウトで敗北ってルールはないよな?」


「ああ。あったら戦いがすぐに終わってつまらないだろう」


 魔力を開放したジャオウはそう答えた。ベーキウはその時のジャオウを見て、冷や汗をかいた。闇のオーラを発しているジャオウからは、凄まじいほどの威圧を感じたからだ。だが、威圧感に負けてはいけないとベーキウは思い、クレイモアを構えた。


「もういっちょ行くぞ」


「やるがいい」


 短い会話の直後、ベーキウは魔力を開放してジャオウに向かって突っ込んだ。その速度は離れていた距離が、あっという間に縮むほどの速度だった。


「は……早い!」


「結構距離があったのに、すぐに縮まった!」


 ベーキウの速度を見たアルムとレリルは、驚いて声を上げた。クーアはレリルの口から漂うニンニク臭から鼻を守るため、鼻を抑えながら口を開いた。


「あれがベーキウの本気じゃ。魔力を開放すれば、すぐに遠くの敵に接近できる」


「鼻をつまんで喋っているから、何言ってんのか分からないわ」


 レリルは冷ややかな目をして、クーアにこう言った。その言葉に少しだけイラっとしたクーアは、再びレリルにこう言った。


「お前が口臭ケアをしないから、こうでもしないと鼻を守れないのじゃ!」


「口臭ケア? したわよ! 今日もちゃんと歯磨きしたし!」


「すみません……レリルさんは言う通り、ちゃんと歯磨きをしているんですが……それでも口臭が落ちないんです」


「お前、少しはニンニク食べるの自重せい」


「だって好きなんだもん」


「しょーもない話をしている場合じゃないわよ!」


 シアンはクーアたちにそう言って、再びベーキウとジャオウの戦いを見た。ベーキウは攻撃を仕掛けたのだが、ジャオウは左手でベーキウが放った攻撃を受け止めていた。


「グッ!」


「この程度か?」


 ジャオウは右手で大剣を持ち、素早く振り下ろした。危機を察したベーキウは、素早くジャオウの腹を蹴って後ろに飛び、ジャオウとの距離を開けた。ジャオウの斬撃に当たることはなかったが、斬撃の際に発した衝撃波がベーキウに命中した。


「ぐわァァァァァァァァァァ!」


 ベーキウは攻撃を受けて吹き飛び、リングの外の壁に激突した。その時の勢いで、ベーキウは深く壁にめり込んだ。


「ベーキウ!」


「うわ、結構やばい攻撃じゃの」


「そんな……」


 壁にめり込んだベーキウを見て、シアンたちはベーキウが大きなダメージを受けたと確信した。一方、レリルはジャオウの攻撃が当たって喜んでいた。


「いやっほー! あの一発はでかいわ! 続けて追い打ちを仕掛ければ、勝てるんじゃない?」


「そう簡単に言いますが、決して楽ではありませんよ」


 レリルの声を聞いたアルムは、小さくこう言った。どうしてかとレリルは思ったが、ジャオウの魔力を感じてすぐにアルムの言った言葉の真意を理解した。


「あの一撃に、結構な魔力を込めたのね」


「そうです。それに、常に全開でいられるようにジャオウは持っている魔力を全部開放しています。普通の魔力解放とは違い、この魔力解放は大きく魔力を消費します」


「でも、動けば……」


「少しでも動けば、その動きに合わせて魔力も大きく消費します。普通なら、攻撃を終えて魔力解放を止めますが……相手はベーキウさん。攻撃を受けても反撃を仕掛ける可能性が大きいです」


 アルムはこれまで目にしてきたベーキウの行動を思い出しながら、レリルにこう言った。レリルは壁にめり込んだベーキウの魔力を探知し、声を上げた。


「マジで! あのイケメン、まだ戦うつもりよ!」


 レリルの声を聞いたシアンたちは、はっとした表情になった。その直後、壁にめり込んだベーキウは一気に魔力を開放し、リングの上に立つジャオウに向かって飛び出した。


「まだ俺は倒れてねーぞォォォォォォォォォォ!」


 叫び声を上げながら、ベーキウはクレイモアを構えた。


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