宿命の対決の前に
ファントムブレードの素材がついに集まった。だが、その時にジャオウは素材を賭けて決闘しようと言い、ベーキウたちはそれに応えた。ベーキウとジャオウの決闘は二日後。その期間を使い、ベーキウはジャオウとの決闘に備えようと考えていた。
ベーキウは借りている宿の部屋のベッドの上に座り、自身の戦い方を考えていた。
「ふぅ……今の戦い方から、どう変えるか」
そう呟くと、扉を叩く音が聞こえた。ベーキウが返事をすると、お茶を持ったキトリが部屋に入ってきた。
「今、大丈夫?」
「ああ」
「紅茶、持ってきたの。リラックスできるから、一緒にどうかなって」
「ありがたい。考えすぎて、頭がパンクしそうだったんだ」
ベーキウはベッドから降り、近くの座布団の上に座った。その後、ベーキウは紅茶を一口飲んだ。飲んだだけで、頭の中がすっきりしたような感覚を覚えた。
「ふぅ……リラックスするのも大事だな」
「ずっと考えごとをしてたの?」
不安そうな表情でキトリがこう聞いた。ベーキウは頷き、口を開いた。
「ああ。ジャオウは俺と似た剣を使っている。はっきり言って……勝てるかどうか分からない」
この言葉を聞き、キトリは初めてジャオウと遭遇した時のことを思い出した。ベーキウとシアンがジャオウと戦ったが、結果は敗北だったのだ。だが、この時よりもベーキウは強くなっている。そのことを、キトリは知っているのだ。
「ベーキウ。周りも言っているように、あなたは強くなった。最初のころよりも、ずっと強いわ」
「確かにな。でも、まだまだ俺は弱い」
「そんなに悲観しないでよ」
「そのくらいがちょうどいい。弱いってことは、強くなるチャンスがたくさんあるってことだ。勝てるかどうか分からない。だけど、勝つためには体も頭もフルに動かす。それしかないかもな」
ベーキウはキトリの目を見ながら答えた。その目は、迷いが一切ない目をしていた。キトリはその目を見て、安堵の息を吐いた。
「不安だったのは私かもしれない。ベーキウが負けたら、素材が全部持ってかれるって話だから……」
「何が何でも勝つよ。はは、なんだか二人とも、いろいろと不安だったんだな」
「ええ。でも、ベーキウの目を見てたら不安が吹き飛んだわ」
「何じゃそら」
「あなたの目は自信であふれてるからよ」
キトリは笑みを浮かべてこう言った。
その日の夜。イメージトレーニングを終えたベーキウは宿の温泉に入っていた。モンモの騒動で銭湯は入れなかったのだが、騒動が終わってからは普通に温泉に入ることができた。
「はぁ……温泉に入るのも久しぶりだなー」
そう呟きながら、ベーキウは周囲を見回した。温泉が解禁されたから客で賑わっているとベーキウは思っていたが、今は一人だけだった。
「ちょっと早すぎたか?」
ベーキウは呟いた後、湯船から出ようとした。だがその時、何かがベーキウの左足を掴んだ。慌てたベーキウは、湯船に何かがいるのではと考え、急いで湯船を見た。そこには髪の長い得体の知らない化け物がいた。
「う……うわァァァァァァァァァァ! 化け物だァァァァァァァァァァ!」
いきなりホラー展開になったため、ベーキウは思わず悲鳴を上げた。悲鳴を聞いた得体の知らない化け物は立ち上がり、髪を上げた。
「だーれが化け物じゃ! わらわじゃ! わらわ!」
その化け物の正体はクーアだった。そのことを察したベーキウは、急いで温泉から出ようとした。
「待たんかい! どうして温泉から出ようとするのじゃ!」
「異性と混浴なんてできるか! そもそも、ここ男湯だぞ! どうしてクーアがいるんだ!」
「混浴できる理由じゃと? そりゃーそうじゃ。わらわが宿のスタッフにベーキウと温泉でニャンニャンしたいって言いながら金を渡したから、自由に出入りできるようになったのじゃ」
「汚い手を使うんじゃねェェェェェェェェェェ!」
「そうでもしないと、ベーキウの疲れを癒すことができぬからのー」
「余計疲れるわ!」
「文句を言うな! 歳はあれだが見た目は超絶美少女のわらわが癒してやるっつーんじゃ! さぁ、身も心もわらわがリラックスしてやるのじゃ!」
そう言いながら、クーアはどこから持ってきたか分からないが、ピンク色のビニールマットと変な液体が入ったボトルを手にしてこう言った。
「何をするか分かるんだが! そんなことをしたら余計疲れるんだが!」
「なーにを言うか! 超絶美少女の手によって極楽気分を味わうのじゃー!」
「極楽気分を味わえるのはあんただけじゃないのよ、このクソエロババアがァァァァァァァァァァ!」
事態を把握したシアンが、飛び蹴りをしながら温泉に乱入し、クーアに向かって飛び蹴りを放った。飛び蹴りを受けたクーアは悲鳴を上げながら吹っ飛び、柵を乗り越えて外に飛び出した。
「うわァァァァァ! 全裸の女の子が飛んできた!」
「貧相な体だな。あまり興奮しねーや」
「ちょま、加齢臭がするんだけど」
「とりあえず警察に連絡しよーぜー」
などと、町の人の言葉が聞こえた。ベーキウはため息を吐いた後、シアンの方を向いた。
「ありがとな。下手したらまた変な騒動が起きてたよ」
「そりゃそうよ。あんなババアがベーキウに極楽な気分を味わわせることなんてできはしないのよ」
と言いながら、シアンはいつの間にかバスタオル一丁になっていた。しかも、シアンはわざと胸元が半分見えるくらいにバスタオルを巻いていた。
「おい! お前もクーアと同じようなことをしてんじゃねーか!」
「私は違うわよ。あんなババアと一緒にしないで」
「一緒にしか見えないが!」
「大丈夫よ。私がベーキウに極楽気分を味わわせてやるわよ。さぁ、身も心も私にゆだねなさい」
シアンは黄金のちょっとあれな椅子をその場に置き、無理矢理ベーキウに座らせた。そして、ない胸をベーキウに押し当てた。
「おい、乳首が当たってる!」
「当ててんのよ。ふふ? 少しはリラックスできた?」
「できるか!」
「そう。それじゃあ……」
シアンは無理矢理ベーキウが腰のあたりで巻いてあるタオルをはぎ取り、股間部分に自身の手を動かした。
「何が何でも無理矢理やらせてもらうわよ! 私もスッキリ、ベーキウもスッキリ! それなら互いにウインウインでしょ!」
「得をしているのはお前だけじゃねーか!」
「おほほほほほ! 何を言っているのかしら? 私は正ヒロイン! 主人公が宿命の敵と戦う前に、主人公とヒロインがなんかいい感じになるって展開はどの作品でもあるお決まりの展開! だから、私もベーキウと一線超えていいってわけ!」
「そんな理屈が通じるわけねーだろ!」
「通じなくても無理矢理通じさせるのよ! さぁベーキウ! 私と一緒に」
「うるさい」
騒動を察したキトリが温泉に入り、バカをやらかそうとしたシアンを闇の魔力で吹き飛ばした。吹き飛ばされたシアンは策を超えて外に出てしまった。その時、体に巻いていたバスタオルが柵に引っかかった。その後、シアンは起き上がろうとしたクーアの上に落下した。
「おいおい、また全裸の女の子が落ちてきたぜ」
「まーた貧乳かよ。嬉しくないなー」
「やっぱり警察に連絡しようぜ」
またまた町の人々の声が聞こえた。その後、クーアの怒鳴り声が響いた。
「クソ勇者! わらわが先にベーキウと一線超えようとしたのに! 邪魔をするでない!」
「うっさいわねおばさん! ヒロインと主人公が宿敵とのバトル前に結ばれるって展開は王道なのよ!」
「だーれがヒロインじゃ! わらわがこの作品のヒロインじゃ!」
「あんたみたいなババアがヒロインなわけないでしょうがァァァァァァァァァァ!」
その後、シアンとクーアの口喧嘩が始まった。ベーキウは大きなため息を吐き、呟いた。
「こんなんで決闘前に、リラックスなんざできねーよ……」
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