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城と心が溶ける時


 ベーキウたちのおかげで、モンモは着実に強すぎる魔力の扱いを学んでいた。幼い頃から強い魔力のせいで、周りを傷付けてしまうため、モンモはヒマワリやリドマーオブラザーズ以外の人とはあまり話をしなかった。成長するにつれて強くなる自身の魔力を感じ、その度モンモは恐怖心を強くしていた。


 しかし、今は違う。モンモを支配していた緊張感やストレスが和らいだおかげで、強すぎる魔力を手足のように使うコツを得ているのだ。


「うむ。このままじゃったら、あの魔力のコントロールのコツを得るのには、時間はかからなそうじゃの」


 クーアの言葉を聞いたレリルは、安堵の息を吐いた。


「とりあえず、何とかなりそうな感じってわけね」


「そうじゃな。あとは慣れじゃ。モンモ王女、一度魔力を少しだけ開放してみるのじゃ」


「は……はい」


 クーアに言われ、モンモはかなり弱く魔力を使うように努力した。いつもは恐怖心に負けて操れない魔力だが、今はモンモの思うように魔力を出すことができた。モンモの右手から小さく発する雪の結晶を見て、キトリは目を輝かせた。


「きれい」


「その感じじゃ。恐怖心を捨てれば、とりあえずのことはできる」


「は……はい」


 モンモは魔力を抑え、息を吸った。


「次は少し強い魔力を使おうと思いますが……何かあってもいいように、構えていてください」


「ああ」


 ベーキウたちは返事をし、モンモの魔力が暴走しても対処できるように身構えた。ベーキウたちが身構えたことを確認したモンモは、強い魔力を開放した。


「うおっ!」


「結構強いわね!」


 強風を浴びたベーキウとシアンは思わず叫び、アルムは吹き飛びそうになるティンクルを捕まえた。


「おわわわわわ! モンモ、抑えるベボー!」


「ご……ごめんなさい!」


 慌てたモンモは魔力を操ったが、逆に新しく小さな氷の矢を発してしまった。


「イッギャァァァァァ! 尻に刺さったァァァァァァァァァァ!」


「違う違う! そうじゃ……そうじゃない!」


 クーアは尻を抱えながら飛び回り、レリルは奇声を発した。モンモは魔力を抑えようとしたが、止められることはできなかった。


 ああ、やっぱり私じゃ無理なんだ。


 心の中で、モンモはこう思った。しかし、リオマがモンモの手を掴んだ。


「俺がどうにかする。諦めんな」


「でも……あなたも巻き込むわ」


「冗談じゃねー。好きな奴が苦しんでんだ。ほっとくわけにはいかねーだろ」


 この言葉の後、しばしの沈黙が空気を支配した。モンモはきょとんとした表情をし、クーアとレリルは笑みを浮かべていた。ジャオウは咳ばらいをし、クーアとレリルにこう言った。


「二人とも、他人の告白を聞いて笑みを浮かべるのはあまりいい趣味ではないぞ」


「ちょっと静かにしなさいよ! 今、とーってもいいところじゃないの!」


「わらわ女子たちは他人の告白が大好きなんじゃ! 何じゃお前? 恋愛漫画とか読んでなかったのか? 少年雑誌のやたらエロシーンの多いラブコメでも見てたのか?」


「きっとそうよ! ジャオウもやっぱり男だから、少年漫画のエロいラブコメばっかり読んでいたのね!」


「もしかしたら、エロシーンが描かれたコマを切り取って、大切に保存しとるかもしれんぞ!」


「誰がそんなことするか!」


 ジャオウは呆れた表情で叫んだ。モンモは我に戻り、リオマを見つめた。


「えとその……リオマ、どうしてこのタイミングで告白を?」


「い……勢いだ。悪かったな、ロマンチックな雰囲気で告白できなくて」


 リオマは顔を赤くしながらこう言った。一方で、ソクーリはため息を吐いてこう言った。


「僕もロマンチックに告白したかったけどね……」


 この呟きを耳にしたクーアとレリルはすぐにソクーリに近付き、笑みを浮かべた。


「何じゃ? やっぱりお前も誰かと付き合っているのか?」


「ヒマワリ王女? やっぱりヒマワリ王女でしょ?」


 ソクーリは厄介なコンビに絡まれたと思い、顔をそむけた。だが、ティンクルがクーアとレリルに近付いた。


「その通りベボ。でも、本当はヒマワリが発情してソクーリに……」


「あははははは! ティンクル、それ以上話すとごはん抜きにするわよー」


 ヒマワリの邪悪な笑みを見たティンクルは悲鳴を上げ、ごめんなさいを連呼しながら後ろに下がった。クーアとレリルはこのネタで話を盛り上げようとしたのだが、ヒマワリがクーアとレリルを見ていたため、話を止めた。




 リオマのとっさ的な告白のおかげで、モンモは魔力を抑えることができた。キトリがモンモに近付き、魔力の探知をした。


「あの告白のおかげね。魔力が安定しているわ」


「そう……ありがとう、リオマ」


 モンモはリオマを見つめたが、恥ずかしさのあまりリオマは顔を赤くしてそっぽを向いた。シアンは無理矢理リオマの顔を掴み、モンモの方を向かせた。


「ほら! 彼女がこう言ってんだから、見つめ合いなさいよ!」


「恥ずかしくてそんなことできるかァァァァァァァァァァ!」


「告白したんだからいいでしょうが! 恥を捨てないと、次の階段に進めないわよ! デートとか、夜でニャンニャンとか!」


「あの、最後の言葉はいらないと思いますが……」


 アルムは冷や汗をかきながらこう言った。ベーキウは咳ばらいをし、モンモの方を向いた。


「なぁ、魔力が安定している今なら、この天気をどうにかすることができるんじゃないか?」


「はい。やってみます」


 そう答えたモンモは、リオマの方に手を向けた。リオマは照れながらもモンモの手を掴んだ。


「何かあったらお願い」


「ああ」


 リオマの返事を聞いた後、モンモは魔力を開放した。




 外にいる人々は、この寒さがいつまで続くのかと思いながら、仕事をしていた。そんな中、激しい音を鳴らしながら吹いていた風が急に止まった。


「おい、風が止まったぞ」


「本当だ。ん?」


 住人の一人は、体中が急に熱くなってきたことを察し、急いで防寒着を脱いだ。


「あっぢィィィィィ!」


「うっひょー! 太陽が戻ってきた!」


「熱い! マジで熱い、早く脱がないとマジでやばい!」


 防寒着を着ていた人々は、急いで脱ぎ始めた。男性たちはパンツとシャツ一枚の姿になり、久々の熱さを感じて歓喜の声を上げていた。


「いやーねぇ」


「外でそんな姿にならないでよ」


「メタボ腹見ても嬉しくないわ」


 女性陣の言葉を聞き、男性陣は恥ずかしそうに脱いだ防寒着を盾にして、そそくさと自分の家に戻って行った。


 宿の主人は、暖かくなった外を見て、安堵の息を吐いた。


「やっぱり勇者様たちが……モンモ王女の心を溶かしたんだね」


 その言葉を聞き、宿の客は歓喜の声を上げた。


「主人! 今日はめでてーや! キンキンに冷えたビールと頼む!」


「今日は久々に冷えたビールで乾杯だ!」


 客の言葉を聞き、主人は呆れた。


「バカ野郎! 仕事をしろよ仕事を!」


「こんないい日に仕事なんてやってられっか!」


「今重要なのは仕事じゃなくて、冷たいビールを飲むことだ! そうだろ、皆!」


 この言葉の後、客たちは一斉に歓喜の声を上げた。呆れた宿の主人はやれやれと呟きつつ、近くにあるビールが入った大きなタルを客たちの前に置いた。


「今日だけだからな! ビール大ジョッキ百ネカ! お代わりの場合は定価にするからな!」


 主人の言葉を聞き、客たちは歓喜の声を上げた。それから、宿は飲めや歌えの大騒動が始まった。




 モンモの説得に成功したベーキウたちは、氷の城の外に出ていた。氷の城は太陽の火を浴び、ゆっくりと溶けていた。


「あーん、きれいなお城だったのにー」


 レリルは涙を流しながらこう言ったが、モンモは首を振った。


「いいえ、これでいいのです。閉じこもる場所は必要ないのだから」


 と、モンモは解けていく氷の城を見ながらこう言った。


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