魔王様のお言葉
ベーキウの渾身のアッパーを受けた大きなモヒカンは、空を見ながら小さく笑っていた。しばらく時間が流れた後、大きなモヒカンはゆっくりと立ち上がった。
「おいおい……まだ立つのかよ」
片膝をついていたベーキウは、立ち上がった大きなモヒカンを見て動揺していた。大きなモヒカンはベーキウに近付き、手を差し伸べた。
「俺の負けだ。テンカウントはもう終わっただろ?」
その言葉を聞き、ベーキウは戦いが終わったと察した。
戦いが終わった後、ベーキウはシアンたちの治療を受けていた。
「大丈夫ベーキウ? 殴られた跡が結構あるよ」
「ああ、問題ない。皆のおかげで痛みは引いたよ」
心配するシアンの顔を見ながら、ベーキウはこう言った。返事を聞いたシアンは、安堵の表情を見せていた。そんな中、ベーキウの上半身を見たせいで、クーアは荒く呼吸をしていた。
「クーア、息が荒いけど」
キトリは心配そうにクーアにこう言った。その直後、クーアはベーキウの体を抱きしめ、胸板に顔を沈めた。
「ムッホォォォォォ! ベーキウの体に包まれるゥゥゥゥゥ! いや、このままわらわを包んでェェェェェ!」
「こんな状況で発情するんじゃないわよ、八十超えたババアが!」
シアンは叫びながら、キトリと協力してクーアにバックドロップを仕掛けた。その後、地面に頭がめり込んだクーアを無視し、ベーキウの治療を続けた。治療をする中、シアンはキトリにこう聞いた。
「ねぇ、ここからあんたの家……魔王の所までどのくらいかかるの?」
「徒歩だと一日はかかるかもしれない」
「一日か。さっきの戦いで結構時間を使ったし、どこかで休まないと」
「休む場所……この辺りにはないの」
キトリの言葉を聞き、シアンは嫌そうな声を上げた。
「えー? この何もなさそうな荒野で野宿?」
「するしかないな。覚悟を決めるしかないようだ」
ベーキウたちが会話をする中、大きなモヒカンが近づいた。
「どこかに行きたいなら、俺たちがバイクに乗せて連れて行ってやるよ」
その言葉を聞いたシアンは、少し考えてこう言った。
「本当に?」
「ああ、本当だ。俺たちはあんたたちと戦って負けたんだ。あんたたちに仕返しをしようなんて考えてないよ」
その言葉を聞いたベーキウは、大きなモヒカンに向かってこう言った。
「それじゃあ頼むよ」
その後、ベーキウたちは大きなモヒカンたちのバイクで魔王の城、キトリの家まで向かった。歩いて一日かかると言われていたが、バイクのおかげで数時間後に到着した。
魔王の城に到着した後、去って行く大きなモヒカンたちに礼を言った後、ベーキウたちは魔王の城へ向かった。
「ん? あんたら、魔界の人じゃないな」
城の前にいる門番が、ベーキウたちを見て不思議そうにこう言った。だが、ベーキウの横にいるキトリを見て、悲鳴を上げた。
「キトリ様! 戻ってきたんですね!」
「ええ。この人たちは私の仲間。心配ないわ」
「そうですか。魔王様も心配でいられます。すぐに城の中へ向かって、顔を見せてあげてください!」
と言って、門番は急いで門を開けた。城の中へ入ったベーキウたちは、中にいた兵士に案内され、魔王、キトリの父の元へ向かった。
数分歩いた後、ベーキウたちは大きな扉の前に到着した。この奥に魔王、キトリの父がいるのだろうと思ったベーキウは、少し緊張しながら扉を開けた。扉の向こうには、うつ伏せで横なっている大きな人物がいた。その人物はキトリの顔を見て声を上げた。
「おおキトリ、戻ってきたか」
「はい、お父様」
キトリは丁寧に頭を下げた。この人が魔王なのだろうと思ったベーキウとシアンは、慌てて頭を下げた。魔王はベーキウとシアンを見て、驚いて声を上げた。
「ほお。勇者を連れて戻ってきたか。それで、そのイケメン君は?」
「私の彼氏です」
「いいえ違います! 私の彼氏でございます!」
シアンがベーキウの前に立ち、大声でこう言った。だがその直後、遠くからクーアの声が響いた。
「ちがーう! わらわの旦那じゃァァァァァァァァァァ!」
そう言いながら、クーアが現れた。クーアは息を切らせながら、シアンに近付いて叫んだ。
「このクソ勇者ァァァァァ! わらわを忘れるなァァァァァ!」
「ごめん、忘れてたー。めんごー」
「反省しとるのかお前はァァァァァ!」
騒ぎ始めたバカコンビを見て、クーアはため息を吐いていた。
バカコンビが静かになった後、ベーキウたちは魔王に近付いた。
「お父様、腰の様子はどうですか?」
この言葉を聞いたベーキウは、魔王がぎっくり腰であることを思い出した。
「まさかねぇ、ゴルフの練習をしてたらやるなんて、思ってもなかったよ。あてて……」
「と……とりあえず安静にしてください」
「ごめんね。君、優しいね」
魔王はベーキウにこう言うと、咳払いをして口を開いた。
「勇者シアンとその仲間たちよ。この魔界にきたのは、あのことを知るためだろう?」
その言葉を聞き、ベーキウはシアンが勇者として動き出した理由を思い出した。魔界からきたジャオウと言う男が、何かをするからである。
「ジャオウは、どんな人物なのですか?」
シアンの質問を聞き、魔王はゆっくりと口を開きながらこう答えた。
「魔界でも有名な剣士じゃ。多分、剣の腕に関してはわしより上かもしれない」
この答えを聞き、ベーキウはジャオウが強い剣士であること、そしていずれ、戦いになるだろうと察した。
「それと、奴は友人のアルムと言うインキュバスと行動をしている。奴らが何をするか分からない。本来なら、魔界の王であるわしが動きたいのじゃが、腰をやったから動けない」
「情けない理由じゃのー」
とんでもないことを口走ったクーアに対し、シアンはアイアンクローを放った。そんな中、魔王の言葉は続いた。
「わしの娘、キトリ。そして、勇者シアンとその仲間たちよ、わしに代わって、ジャオウを止めてくれ」
「もちろん! そのつもりです!」
シアンは胸を叩いてこう言った。その様子を見て、クーアは小さな声でこう言った。
「小さな胸を張ってそんなことを言われても、説得力がないぞー」
「うるさいわよクソババア!」
その後、バカコンビの喧嘩が始まってしまった。ベーキウとキトリはバカコンビの喧嘩を無視し、魔王との話を続けた。
「きつい旅になりそうだけど、頑張って……としか、言えないのう。我ながら情けない」
「仕方ないよお父様。年なんだから無茶しないで」
「そうじゃのー」
魔王は返事をした後、あることを思い出した。
「そうじゃ。確か、君たちのいる世界には、なんでも斬れる剣があるって聞いたぞ」
その言葉を聞き、ベーキウとキトリは目を丸くして驚き、喧嘩をしていたバカコンビも喧嘩を止めた。
「確か……なんでも斬れる伝説の剣、ファントムブレードがあるらしい。詳しいことは分からないけど……もし、ジャオウとの戦いになったら、それが必要かもしれないな」
「ファントムブレード? そんな名前の剣、わらわは聞いたことがないの」
クーアはそう言っていた。魔王はクーアの顔を見て、キトリにこう聞いた。
「聞いたことがないって、あのエルフの小娘は、キトリと同い年かちょっと上か下くらいじゃろ? 知るわけがないのに……」
「あの人、ああ見えて実年齢は八十五。このパーティーで年長者なの」
「八十五! 嘘じゃろ? わしより年齢が上じゃないか!」
クーアの実年齢を聞いた魔王は、驚きのあまり起き上がってしまった。その結果、さらに腰を痛めたのか、魔王の顔色が変わった。
「あ……ギャァァァァァァァァァァ! またやっちゃったァァァァァァァァァァ! 誰か、誰でもいいから魔力で治療してェェェェェェェェェェ!」
叫び始める魔王を見て、ベーキウとシアンとキトリは慌てて治療を始めたが、実年齢のせいで腰を痛めたと察したクーアは、すまなそうに頭を下げていた。
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