氷の城へ
予想外の実力者が現れた。リドマーオブラザーズの双子の弟、ソクーリは火と水と雷の三つの魔力を使いこなす若い達人だった。猛攻を受けたベーキウは感電して動きを取ることができず、大技のために飛び上がったソクーリを見ることしかできなかった。
「では、終わりにします」
と言って、ソクーリはベーキウに向かって急降下を始めた。蹴りの構えをしているため、急降下の勢いを使って威力の高い蹴りを使うのだろうとベーキウは考えた。考えはしたものの、感電のせいで体は動かせない。相手を感電させて動きを封じ、大技で相手を倒すのがソクーリのやり方だろうとベーキウは察した。そして、ソクーリの蹴りがベーキウに命中した。
「ベーキウ!」
激しい音が響いたため、大きなダメージを受けたと思ったシアンはベーキウの名を叫んだ。ベーキウの体は後ろに吹き飛び、激しく壁に激突した。
「ガッ……ぐう……」
壁にめり込んで嗚咽するベーキウを見て、ソクーリはため息を吐いた。
「勇者パーティーの一員で、大きな事件も何度も解決したから実力者だと思いましたが、あまり強くないですね、あなた」
「このクソガキがァァァァァァァァァァ! テメーカッコつけてんじゃねーぞ! 次はわらわが相手になるぞ、かかってこいやァァァァァァァァァァ!」
ベーキウを格下に見た態度のソクーリに対し、クーアは罵倒しながらソクーリに向かって叫んだ。ソクーリは呆れてため息を吐き、クーアの方を見た。
「では、次はあなたが相手になりますか? まだ余力と時間がありますので」
「だったらやってやろうじゃないか! 覚悟しろよ、半殺しにしてやる!」
クーアは憤りながら魔力を開放し、ソクーリの方へ向かおうとしたが、キトリがクーアを止めた。
「ちょっと待ってよ。年下に挑発されたからって怒らないでよ」
「んなぁんじゃとぉ? キトリ、お前はベーキウが罵倒されて悔しくないのか?」
「ベーキウはまだ戦えるわ」
キトリがこう言った直後、ソクーリの背後にベーキウのクレイモアが迫っていた。瞬時にベーキウの殺気を感じたソクーリは急いで後ろに下がり、ボロボロになりながらも呼吸をして体制を整え、クレイモアを構えているベーキウを見て、ソクーリは冷や汗をかいた。
「恐ろしい根性ですね。殺気を攻撃が当たる寸前まで隠していたのは驚きましたよ」
「どうだ? 俺はまだ、やれるぜ」
ベーキウの顔を見たソクーリは、ため息を吐いてこう言った。
「一応と言う形ですが、あなたの実力を認めます。これだけ攻撃を与えてもしぶとく立ち上がるのなら、戦力と言ってもいいでしょう」
ソクーリの言葉を聞き、レリルは嫌そうな顔でこう言った。
「あくまであのイケメンを格下と見てるのね、あのガキ。なんか嫌な奴」
その後、ふてくされたリオマを無視し、シアンたちはベーキウの治療をしていた。
「さてベーキウ、わらわの魔力でお前を治療してやるからなー」
と言いながら、下着姿になった挙句、ローションまみれになったクーアが治療中のベーキウに近付いた。シアンとキトリの治療を手伝っているアルムは呆れてため息を吐きながら、クーアに近付いた。
「今僕たちがやっているのは治療です。夜のお店ごっこではありません」
「これを見れば、ベーキウの全身がビンビンに元気になるじゃろう!」
「あんたの汚い下着姿を見たら、元気になるどころか全身萎えてへなへなになるっつーの」
シアンはクーアに近付いて蹴りを放ち、扉を閉めた。蹴り飛ばされたクーアは立ち上がろうとしたが、全身に塗ったローションのせいで立ち上がることができなかった。
「あ、ヤベ。ローション塗りすぎた。ギャァァァァァ! 助けて、誰かわらわを止めてェェェェェ!」
全身のローションのせいで、クーアは廊下をものすごい勢いで飛んでいた。しばらくして、勢いを付けたクーアは窓から外に出てしまった。
「うわっ! 寒い! ちょっと、誰か助けて! ローションのせいでまともに動けぬ! 誰かァァァァァ! わらわに救いの手をォォォォォォォォォォ!」
クーアの情けない声を聞き流し、ベーキウはため息を吐いた。
「あのおばさんが情けなくて呆れているのね」
「違う」
シアンの問いに対し、すぐに答えたベーキウは続けてこう言った。
「俺はまだ弱い。まだあんなに強い奴がいるなんて思いもしなかった」
「私もよ。この旅で強くなったと思っていたけど、この世の中は広いってことね」
シアンはそう言ったが、まだ自信を取り戻せないベーキウを見て、背中を叩いた。
「大丈夫よ。強さを知る一歩目は、己の弱さを知ること。負けを知ることっていろんな人に言われたわ。まだ強くなれるチャンスがあるってことよ」
この言葉を聞いたベーキウはしばらく考えた後、小さく笑った。
「ああ。その通りだな。もうちょっと、修行しないとな」
「ベーキウなら強くなれるわ」
キトリはそう言って、ベーキウの治療を続けていた。そんな中、リオマは鼻を鳴らした。
「テメーみたいなのがいくら修行しても無駄だ。俺もあいつに勝つために何年も鍛えた。だけど、勝てない」
「あんたが弱いだけよ」
シアンはそう言ってリオマを睨んだ。そんな中、ジャオウたちを連れたヒマワリがやってきた。
「皆さん、モンモ姉さんについての話があります」
「いよいよあの人の城に行くってか?」
ベーキウの問いに対し、ヒマワリは頷いた。シアンたちは治療道具をしまい、立ち上がった。ベーキウは服を着て、心の中でこう思った。いよいよ今回の騒動の大本のところへ行くのだと。
氷の城の中心部、そこにはヒマワリの姉であるモンモが一人で座っていた。彼女の両手からは、青白いオーラが発していた。これは魔力を使った時に発するオーラであり、ヒマワリはあらゆることを考え、実行に移しても魔力のオーラを止めることができないのだ。
「まだ……止まらない」
モンモは小さく呟き、己の力を恐れた。そんな中、ひっそりと氷の城の周囲に潜ませていた侵入者センサーが鳴り響いた。モンモは魔力で作った鏡で外を確認した。氷の城の外には、ベーキウたちを連れたヒマワリがいたからだ。
「あの子、また私を……」
何も対策がないのに、ヒマワリが自分を連れ出すと察したモンモは、感情に任せて両手を地面に押した。その瞬間、部ぞろいな形の鎧の戦士を生み出した。
「皆! ヒマワリたちを追い返して! 私は……絶対に人前には出ない!」
モンモの命令を受けた鎧の戦士は敬礼し、外に向かって歩き出した。再び誰もいなくなった部屋の中で、モンモの叫びが響いた。
「もう私に関わらないで! この力がある限り、私は人を傷つける! この力があるから! 私は人じゃない! 私は……私は……」
叫ぶ力を失ったモンモは、枯れたのどで嗚咽し、泣き始めた。
ベーキウたちは氷の城に向かっていた。クーアは大きなくしゃみをし、鼻をすすった。
「あーあ。まーたこんなクソ寒い中を歩くことになるとはなー」
「仕方ないだろ。この状況をどうにかしないといけない。空色の勾玉はあとでいいよ」
「ベーキウが言うならしゃーないのー」
クーアはベーキウに抱き着いてこう言ったが、シアンとキトリがクーアの頭を叩き、クーアの体を転がしながら雪だるまを作り始めた。ジャオウは呆れてため息を吐いた。
「おい、遊んでいる場合じゃないぞ。早く氷の城に行くぞ」
「ちょっと待ってて。あと少しでクソダルマができるから」
「だーれがクソダルマじゃァァァァァ!」
クーアがシアンに向かって叫んだ直後、ベーキウとキトリは何かが近付いてきていると察し、魔力を開放した。
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