元ネタが分かったとしても、あまり言わないでね
ジャオウ探しの途中で見つけた巨大な城。その不思議な威圧感や美しさに引かれ、ベーキウたちは引き寄せられるように城に向かった。
「うわー、でっかいのじゃー」
城に近付いたクーアは、思わずこう言った。同じように間近で見たベーキウもその大きさに驚いたが、次に驚いたのはその城の壁だった。
「嘘だろ。この城の壁、氷でできてる」
「氷で?」
アルムは城の壁を触り、異常なほどの冷たさを瞬時に感じ、声を上げて後ろに下がった。
「本当だ! この壁、氷です!」
「暑い日だったら、この壁を崩してかき氷にできるんだけどねー」
「人が住んでいるかもしれないのに、かき氷にしないの」
とんでもないことを言ったレリルに対し、キトリは呆れてこう言った。そんな中、シアンが城の門に近付き、叩き始めた。
「すいませーん。勇者ですー。一つ、聞きたいことがあるんですがー」
「事件を調査中の警察じゃないんだから」
呆れたキトリはシアンに近付き、門からどかそうとした。だが、その直後に大きな音を立てながら門が少しだけ動いた。
「勇者?」
と、中にいた金髪でロングヘアーの美少女がこう聞いた。あまりの美しさだったため、シアンとキトリは動揺したのだが、すぐに我に戻ったシアンは美少女に近付いた。
「実は、知り合いがこの辺りで遭難したっぽいんですよ。倒れた人を保護したりとか、倒れた人を見かけたってありませんか? 特徴としては、変な仮面を付けています」
「知りません」
と言って、美少女は門を閉じてしまった。シアンはもう一度門を叩こうとしたが、キトリが止めた。
「何も知らなそうだし、ここは下がりましょう」
「刑事ドラマ見たことないの? ああいう人が実は事件で重要なカギの一人でしたって展開が毎回毎回繰り広げられるのよ」
「それはドラマの世界でしょ? ドラマと現実を一緒にしないで。ドラマは話の都合がいいようにできているんだから」
キトリの説得を受け、渋々シアンはベーキウたちの元に戻った。
「戻ったわよー。中にいる女の子に話を聞いたけど、知らないって言われた」
「そうか。仕方ない、自力で探すしかないな」
ベーキウの言葉の後、シアンたちは一斉にため息を吐いた。
氷の城の中にいた美少女は、部屋の窓から遠ざかっていくベーキウたちを見ていた。
「あの人たち、私のことをあの子たちから教えなければいいんだけど……」
去って行くベーキウたちを見ながら、美少女は小さく呟いた。美少女は振り返り、氷でできたタンスの上にある写真立てを見て、大きなため息を吐いた。その写真には、赤い帽子をかぶった少年と、同じような緑色の帽子をかぶった少年、その緑色の防止の少年に抱き着いている美少女、そしてその横には自分自身が映っていた。
しばらくジャオウを探していたベーキウたちだったが、突如吹雪が発生した。クーアは急いで魔力の火で固めた素材を動かし、小屋を創った。ベーキウたちは急いでその小屋の中に入り、吹雪を乗り越えることにした。
「にしても、本当に温暖な地域か、ここ?」
「温暖って本には書いてありましたが、僕たちはニュースとか見ないので……」
ベーキウとアルムはほっとココアを用意しながら話をしていた。そんな中、シアンとクーアが歯を鳴らしながらベーキウに抱き着いた。
「ごめんベーキウ、ちょっと寒さが我慢できない」
「魔力を使いすぎたせいで、体力がないのじゃ。温めてくれ。性的な意味ではなくて」
「ちょっと待ってろ。キトリ、手伝ってくれー」
「うん」
キトリはリュックにしまってある寝袋を広げ、寒さで震えるシアンとクーアをその中に入れた。
「これで少しは温まるはず」
寝袋の中に入り、少しは震えが収まったシアンとクーアを見ながらキトリはこう言ったが、シアンが口をバクバク動かしているのを見て、何を言っているのか気になった。
「何か要望があるの?」
「寝袋の中に、ベーキウも入れて」
「バカ言わないの。これ以上人が入ったら寝袋が壊れちゃう。我慢しなさい」
キトリはそう言って、バカ二人から離れてベーキウに近付いた。ベーキウとアルムはほっとココアを飲みながら呆れた表情でシアンとクーアを見ていたが、レリルがいないことを察したアルムは周囲を見回した。
「あれ? レリルさんは?」
「ここよ。ここ」
と、体育座りで寒さを耐えているレリルがこう言った。アルムは急いで寝袋を広げ、レリルを寝袋の中に入れた。
「レリルさんも寒ければ寒いって言ってください」
「口の中が冷えてて動かせない。ホットココア、ちょーだい」
「分かりました。できたばかりなので、ゆっくり飲んでください」
異常な寒さのせいで、シアン、クーア、レリルがダウンしてしまった。実力者であるシアンとクーアが寒さで倒れてしまったため、ベーキウはジャオウが生きているのかどうか不安になった。
雪は相変わらず降っていたが、風が弱くなったのでベーキウたちはジャオウ捜索を再開することにした。歩く中、シアンは自身の体の臭いを嗅いでいた。
「加齢臭が移ってないかしら」
「おい、さっきの凍った川に無礼な勇者をぶち込んでいいかー?」
「止めてください。面倒ごとを増やさないでください」
とんでもないことを言い、そのあといつものように喧嘩をおっぱじめたバカ二人を無視し、ベーキウは周囲を見回した。そんな中、ベーキウはアルムにこう聞いた。
「なぁ、川の中に誤って入ったってことは……ないよな?」
「ないと思い……たいです」
ベーキウとアルムは額に汗をかきながら、横の川を見た。地面は雪で埋まっている。川は凍っているのだが、一部は凍った川の上に雪が積もり、普通の地面と同じだろうと錯覚を受けてしまう。方向音痴のジャオウのことである。地面だと勘違いし、雪が積もった凍った川の上を歩き、氷が割れて落ちてしまったのではないかとベーキウとアルムは考えたのだ。
「一度、割ってみよう」
「お願いします、ベーキウさん」
ベーキウは魔力を開放し、渾身の力でクレイモアを振り下ろし、凍った川を割った。大きな音を立てながら、氷は吹き飛んだ。その際、衝撃で川の水も一部が吹き飛んだ。少しの間だが、川の底が見れた。その底に、凍った人影があった。
「あれは……」
それを見たアルムは、ショックのあまり言葉を失った。それを見たレリルは奇声を上げ、急いで翼を広げた。
「ジャオウ! あいつ何で川の中にいるのよ! とにかく連れてこないと!」
翼を広げたレリルは急いでジャオウの元へ近付き、回収してベーキウたちの元へ戻った。氷漬けになったジャオウを見て、ベーキウたちは驚いた。
「ジャオウがこんな姿になるなんて……」
「大剣までカッチカチじゃ」
「そんなこと言ってる場合じゃないわよ。クーア、あなたの火でジャオウを溶かして」
「あいあい」
クーアは魔力を開放し、氷漬けになったジャオウを溶かした。しばらくして、ジャオウは完全に解凍されたのだが、まだ意識を取り戻さなかった。
「どうしよう、解凍したのにジャオウが意識を取り戻さないよ!」
ジャオウが意識を取り戻さないことを知ったアルムは、手足をばたつかせた。ベーキウたちも頭を抱え、辺りをきょろきょろ見回しながら動揺していた。そんな中、レリルはため息を吐いてジャオウに近付いた。
「ここは私の出番ってわけね」
「変なことをしないでくださいよ!」
「まぁ黙ってみてなさい。一か八か、やってみる価値はある」
と言って、レリルはジャオウに向かって息を吐いた。その瞬間、ジャオウは悲鳴を上げて目を覚ました。その様子を見たベーキウたちは、レリルの口臭がどれだけ恐ろしいか、改めて実感した。
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