漢の勝負は拳に限る!
魔界にきてすぐに変なモヒカンたちに囲まれたベーキウたちだったが、雑魚だった。だが、ベーキウはやたらとでかいバイクの排気音を聞き、クレイモアを再び手にした。取っ組み合いをしていたシアンたちも新たな敵の気配を察し、すぐに戦いの構えをとった。
「まーたわらわたちに戦いを仕掛けるつもりかー? バッカじゃないのー? またフルボッコにされたいのか奴らは?」
呆れたような表情でクーアがこう言ったが、キトリはクーアの頬をひねってこう言った。
「油断しないでおばさん。油断をした人がやられるものよ」
「一発でやられる雑魚にやられるわらわではないわ!」
クーアは大声でこう言ったが、遠くから迫ってくる巨大なバイクを見て、目を丸くして驚いた。
「何じゃ、あのやたらとでかいバイクは?」
「他のバイクより目立つから、ボスがきたかもね」
シアンの言葉を聞き、ベーキウは深く深呼吸をした。激しい戦いが起こるかもしれないと思ったからだ。しばらくして、巨大なバイクはベーキウたちの前に現れ、乗っていた大きなモヒカンの男がベーキウの前に迫った。
「お前か? 俺の仲間をけちょんけちょんにしたのは?」
「ああ。そうだ」
ベーキウはこう答えたが、シアンは首を振って大きなモヒカンの前に近付いて叫んだ。
「ベーキウよりも、私の方が倒したわ! あんたの相手は私がやるわ、覚悟しなさい!」
大きなモヒカンはシアンを見て、ため息を吐いた。その態度を見たシアンは、相手がやる気がないことを察し、怒り出した。
「何よ! 私は勇者よ! 相手になるんだったら、私がなってやるわ!」
「悪いが、俺は女子供を殴らない。どんなに殺気立った奴や、俺の仲間を倒した奴でもな」
大きなモヒカンの言葉を聞き、シアンは後ろに下がった。大きなモヒカンはベーキウを睨み、言葉を続けた。
「そこのイケメン! お前が相手になれ! お前が相手なら、俺も思う存分戦える!」
この言葉を聞き、ベーキウはクレイモアを両手で構え、大きなモヒカンに睨み返し、口を開いた。
「お望みなら、相手になってやる! 行くぞ!」
そう言って、ベーキウがクレイモアを振り上げようとした瞬間、部下の一部がベーキウを止めた。この様子を見ていたクーアは声を上げ、部下に向かって叫んだ。
「何よ! 一対一の戦いじゃないの? 一対多数なんて卑怯よ!」
「卑怯なのはこの男だ! 武器を使うな! 男と男の戦いと言ったら、拳だけでやるってのがルールだろうが!」
部下の叫びを聞き、ベーキウはクレイモアを鞘に納め、その状態のままシアンに渡した。
「すまん、戦いが終わるまで預かっていてくれ」
「分かった。勝ってね、ベーキウ」
「ああ。勝ってくるさ」
シアンに言葉を返した後、ベーキウは右肩を回しながら大きなモヒカンの前へ向かった。
数分後、簡易的に作られたリングの上に、上半身裸となったベーキウと大きなモヒカンのが立っていた。レフェリー役のモヒカンが、二人の間に入り、二人の顔を見てこう言った。
「では、今から無制限、一本勝負、拳のみの喧嘩を始めます。互いに勝っても負けても文句はない方向でお願いします」
「ああ」
「とりあえず……分かった」
変なルールで戦うなとベーキウは思いながら、ファイティングポーズの構えとなった。大きなモヒカンもそれに合わせ、ファイティングポーズの構えをとった。
「では始めます。レディ……ゴォォォォォ!」
レフェリーの掛け声の直後、大きなモヒカンは走り出し、ベーキウの左頬に向かって強烈な右ストレートを放った。攻撃がくると察したベーキウは、慌てて顔を動かして攻撃をかわした。
「勘が鋭いな。だが、攻撃は終わったわけじゃないぜ!」
大きなモヒカンはそう言うと、続けて左フックを放った。
「グファッ!」
ベーキウは腹に左フックを受け、悲鳴を上げた。この様子を見ていたシアンたちは、一斉にベーキウの名を叫んだ。
「おーっと! 強烈な左フックが命中! これは痛い!」
「攻撃をかわして気が緩んでいたんでしょう。腹に力を入れていないようですね」
シアンたちの横にいた実況と解説役のモヒカンがこう言った。いきなり出てきた実況と解説を見て、シアンはちょっとだけ驚いていた。
「あんたら、いつの間に」
「実況と解説がいたら盛り上がるじゃないですか。おーっと! ボスの攻撃がまだ続く!」
実況の声を聞き、シアンは試合の方を見た。大きなモヒカンは攻撃を受けて隙だらけのベーキウに対し、早い攻撃を仕掛けていたのだ。
「オラオラ! 俺の攻撃は止まらないぞ!」
大きなモヒカンは大声で叫びながら、ベーキウに攻撃を続けていた。ベーキウは攻撃を防御しながら、隙ができるのを待った。しばらく攻撃を耐えていると、大きなモヒカンの攻撃に、少しだけ間があった。
今だ。
今がチャンスだと思ったベーキウは、力を込めて大きなモヒカンの鼻に向かって左ストレートを放った。左ストレートは命中し、殴られた大きなモヒカンは後ろに倒れた。
「やった! 顔面に一発命中じゃ!」
「これは強烈でしょ! きっとあのデカブツ、鼻から血が滝のように流れているわ!」
シアンとクーアは喜んでいるが、キトリだけは冷や汗を流し、戦いの様子を見ていた。
「喜ぶのはまだ早いよ。あのでかいモヒカン、まだ立ち上がる!」
キトリがこう言った直後、大きなモヒカンは立ち上がり、流れている鼻血を吹いた。
「いいパンチじゃねーか。最高だ」
「結構力を込めてはなったつもりなんだが……」
ベーキウが動揺していると、大きなモヒカンはベーキウに接近し、強烈な右ストレートを放った。渾身の一撃はベーキウの腹に命中し、大きく吹き飛ばした。
「いいパンチを持っているようだが、まだ俺を倒せるレベルじゃないようだな」
地面に倒れたベーキウを見て、大きなモヒカンは勝ち誇ったかのようにこう言った。レフェリーは立ち上がらないベーキウを見て、近付いてカウントを取り出した。
「今の攻撃は強烈! やっぱり立ち上がることが困難か?」
「あばらの一本折れたんじゃないですかね? ストレートが当たった時の音、聞きました? 大きな風船が割れたような音でしたよ」
実況と解説も、大きなモヒカンが勝ったと思い、こう言った。だがその直後、ベーキウが立ち上がった。
「ベーキウ!」
「おお! ベーキウが立った!」
「まだ……ベーキウは勝つつもりでいるわ!」
立ち上がったベーキウを見て、シアンたちは歓喜の声を上げた。だが、大きなモヒカンは察していた。次に強烈な攻撃を当てたら、勝つことができると。
「立ち上がったのはいいが、ボロボロじゃないか。次の一発で倒してやるぜ!」
大きなモヒカンはベーキウに接近し、再び強烈な右ストレートを放とうとした。この時、ベーキウは大きく体を動かし、大きなモヒカンが放った右ストレートをかわした。
「何!」
「二度も同じ攻撃は……通じねーよ」
驚く大きなモヒカンにこう言うと、ベーキウは体内に残っている体力、そして気合を込めて、強烈な右アッパーを放った。
「おーっと! ここで右のアッパー! ボスのあごに命中! これは痛い!」
「いやー、これは痛いですねー。もろにあごに入りましたからね」
ベーキウの力を込めた右アッパーが、大きなモヒカンに命中し、大きなモヒカンは高く吹き飛んだ。シアンたち観戦者は、大きく口と目を開きながら、吹き飛んだモヒカンを見つめていた。
「ぐ……うう……」
アッパーを放った後、ベーキウはその場で片膝をついた。しばらくして、大きなモヒカンが地面に倒れる音が響いた。
もう起きないでくれ。
ベーキウはこう思いながら、地面の上で横になっている大きなモヒカンを見ていた。
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