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醜き者の運命


 嫌だ。あんな雑魚に負けるなんて嫌だ。


 ツバキに斬られた瞬間、ヒーデブスは心の中でこう思った。あんな格下の攻撃、すぐに治療して反撃してやろうとも考えたが、ツバキの一閃で受けた傷はヒーデブスの予想より深かった。強い魔力を使えばすぐに治療できるのだが、ベーキウたちとの戦いでかなりの魔力をヒーデブスは消費していた。


 地面の上に倒れたヒーデブスを見て、ツバキは剣を構えて荒く呼吸をしていた。ベーキウたちもヒーデブスが起き上がって反撃しても対処できるよう、武器を構えたり、魔力を開放していた。だが、レイダーズだけは構えをとらなかった。


「エロジジイ、あんたもすぐに動けるように構えなさいよ」


「いーや。あいつに立ち上がる力はあっても、ワシらに反抗する力は残っておらん。この喧嘩、ワシらの勝ちじゃ」


 レイダーズはクーアにそう答えると、ヒーデブスに近付いた。


「お前さんも強情なやっちゃのー。諦めて倒れればいいのに」


「ふざ……けるな……僕様は、まだ戦えるぞ……」


「血だらけなのに粋がる根性は素晴らしいと認めてやるが、時には観念することも必要じゃ。まぁ、お前さんの場合は犯罪者だから、どんな運命が待ち受けているか想像できるが」


 レイダーズの言葉を聞き、ヒーデブスは拳を震わせた。


「まだだ! 勝手に勝負を終わらせるな!」


 叫び声を上げながらヒーデブスは立ち上がり、ベーキウたちを驚かせた。


「あいつ、立ち上がった!」


「こっちも魔力も体力も結構使ったってのに!」


 ベーキウとシアンは嫌そうな顔をしていたが、キトリはヒーデブスの様子を察し、魔力を抑えた。


「これ以上の戦いは無意味ね。弱い者いじめはしたくない」


「キトリの言う通りじゃ。こいつに戦う力は残っておらん」


 クーアはベーキウとシアンにそう言って、ヒーデブスに近付いた。


「おーい。無駄に張り切るのは得策ではないぞ。少ない寿命を縮めるだけじゃ」


「諦めて捕まりなさい」


 キトリはヒーデブスを指で突っついて、後ろに転倒させた。転倒したヒーデブスは尻を抑えつつ、再び立ち上がろうとした。


「まだ……僕様は戦える! 喰らえ、ナイトパンチ!」


 紋章を発して攻撃しようとヒーデブスは考え、行動に移した。だが、紋章は出なかった。


「クソッ! ナイトパンチ! ナイトパンチ! ナイトキック!」


「魔力がないから、技も出せない。詰んだのじゃよ、お前さんは」


 呆れ果てたレイダーズが、ため息を吐いてこう言った。ヒーデブスはレイダーズを睨んだが、突如ヒーデブスの周りに紫色に光る紋章が現れた。


「んなっ! なんだ!」


「新しい技でも使うつもり?」


 ベーキウとシアンは武器を構え、クーアとキトリは後ろに下がった。渾身の一閃を放って体力を失っているツバキは、荒く呼吸をしながら立ち上がろうとした。


「そんな……まだ……」


 自分の攻撃で戦いが終わっていないことを察し、ツバキは少しショックを受けていた。だが、ヒーデブスも突如現れた喪章を見て驚いていた。


「何が起きるんだ?」


 ヒーデブスがそう呟いた瞬間だった。紋章の隅から緑色のスーツを着たモンスターらしき生物が現れ、ヒーデブスに近付いた。そのモンスターらしき生物は手元のタブレットとヒーデブスの顔を交互に見て、頷いた。


「あなたが今回の契約者様、ヒーデブス様でございますね」


「あ……ああ。そうだが、あんたは?」


「申し遅れました。私はジャーマネ。エスタクラフトの守護者的な存在です」


「守護者的な存在が何の用だ?」


「実は、あなた様が数々の契約違反を働いていると確認できましたので、報告をしに参りました」


 そう言うと、ジャーマネは手にしているカバンを下に置いてカバンを開け、中に入っている資料をヒーデブスに見せた。


「えーと。エスタクラフトを作った魔術師は、この力が悪用されること、封印しても第三者がどこかしらのタイミングで封印を解く可能性があると考え、生前に私を魔力やら不思議な技術を使って生み出し、エスタクラフトの守護者としたのです。ルール違反としては、この力を使って他者を傷付ける行為、そして多数の犯罪行為を確認しました」


「おい! そんなの僕様は知らないぞ! あの力を手にするために入った洞窟には、何も書いていなかった!」


 ヒーデブスの言葉を聞き、ジャーマネはうなり声を上げながらこう言った。


「一応看板とか作っておいたのですが……まぁ、前に封印が解除された時よりかなり時間が経っているから、劣化して文字が見えなくなってしまったんでしょう」


「契約違反なんてルールがあること、僕様は知らない。だから、契約違反にはならないはずだ!」


 ペナルティを避けるため、ヒーデブスはこう言ったのだが、ジャーマネはため息を吐いて言葉を返した。


「ですが、ルールはルールです。いくら文字が見えなかった、警告文がなかったと言っても、ルールは絶対です。屁理屈を言わないでください。そもそも、悪意を持って使う力じゃないんですよ、エスタクラフトは。この技を生み出した魔術師は、善意でこの力を作ったんですからね」


 ジャーマネはヒーデブスに近付き、右手をヒーデブスの腹に付けた。それを見たベーキウはとんでもないことが起きると予想し、ジャーマネに近付こうとした。ベーキウの存在に気付いたジャーマネはベーキウの方を振り向き、魔力を開放した。


「すみませんが、ルールは絶対なのです。だから、この人を処罰します」


「こいつは俺たちがどうにかしますよ。そんな力を使わなくても……」


「いいえ。こいつは私が処罰します。悪意を持ってエスタクラフトを使った者を罰するために、私は生まれたのですから」


 ジャーマネはベーキウにそう言うと、ヒーデブスの方を振り向いて大声を発した。その瞬間、ヒーデブスの腹が塵となった。


「う……うわァァァァァ!」


「ルールを守らない人、悪意を持って行動する人はこの世に存在してはいけません。体が完全に塵となるまで、後悔しなさい」


 悲鳴を上げるヒーデブスから目をそらし、ジャーマネは紋章の元へ戻り、中に入った。ジャーマネが紋章の中に戻った瞬間、その紋章はすぐに消えた。呆然としているベーキウたちだったが、腹から徐々に塵となっているヒーデブスの声を聞き、すぐにヒーデブスに視線を戻した。


「た……助けてくれェェェェェ! 僕様は、まだ死にたくない!」


「死にたくないっつっても、ワシらにはどーしよーもできんぞー」


「わらわたちでは対処できん。まぁ、対処できたとしても、お前みたいなクソ野郎を助けることはしないがな」


 レイダーズとクーアは呆れながらそう言った。誰も助けてくれない。絶望したヒーデブスは、ゆっくりと自分の体が塵になるのを待つしかなかった。




 数分後、ヒーデブスの体は完全に消滅した。ヒーデブスのあっけない最期を見たベーキウはため息を吐いた。


「一応、これで終わったってことでいいんだよな」


「まぁ、一応ね」


 シアンは軽くストレッチをしながら、静かになった部屋を見回した。ツバキは急いでリプラの元へ向かい、様子を見た。


「リプラ、大丈夫?」


 眠っているリプラを見て、ツバキは声をかけた。だが、その声はリプラには届かなかった。


「どう? 何か反応した?」


「いえ、全然……」


 キトリの質問に対し、ツバキは小声でこう言った。その様子を見たレイダーズはリプラに近付き、笑みを浮かべた。


「ほう。ワシの予想以上に結構エロい体しとるの。さて、ちょっと……」


 レイダーズがバカなことをすると察したベーキウ、シアン、クーアはエロジジイに向かって同時に飛び蹴りを放った。クーアは壁にめり込んだレイダーズを見て、呆れてため息を吐いた。


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