強い敵とのバトルは結構長引く
シアンたちの攻撃を受け、ヒーデブスに大きな隙ができた。その隙を見計らい、ツバキは剣を手にしてヒーデブスに接近した。
「うォォォォォォォォォォ!」
大声を上げながら、ツバキは剣を振り下ろした。攻撃が当たる寸前、ヒーデブスは急いで紋章を発し、戦士の手を出して攻撃を防御した。
「グッ! ううっ……」
「残念だったな。三流以下の剣士の攻撃が、僕様に通用するわけがないだろうが!」
そう言って、ヒーデブスは立ち上がってツバキの腹に蹴りを放った。だが、格闘技のド素人でも動きが見切れるくらい、ヒーデブスの蹴りは遅かった。ツバキはヒーデブスから下がり、二回目の攻撃を放った。この二回目の攻撃は、見事にヒーデブスに命中した。
「ガファッ! く……クソガキ、酷いことを……」
「あなたに酷いことをとか言われたくありません。と言うか、接近戦だと強くないですね」
ツバキはヒーデブスが接近戦にはかなり弱いことを察し、急いで接近して攻撃を仕掛けた。ヒーデブスは傷を負った体を無理矢理動かし、ツバキの斬撃をかわした。
「おわっ! ちょっ! タンマ! 僕様は怪我人だ!」
「敵が怪我をしたら追い打ちを仕掛けるのが当然だろうが!」
ツバキの後ろにいたベーキウが、この言葉とともに斬撃を放った。この斬撃を受けたヒーデブスは後ろに吹き飛び、壁に激突した。その時、ヒーデブスはリプラがいる部屋に近いことを察し、笑みを浮かべた。
「あいつ、気味悪い笑みを浮かべてますけど」
「嫌なことでも思いついたんだろう。何かする前に倒すぞ!」
ベーキウとツバキが走り出したのを見て、ヒーデブスは紋章を発して叫んだ。
「ちょっと待て! 僕様の後ろの部屋をよーく見るんだな! そこには、リプラ王女が眠っているんだ!」
「なっ!」
ヒーデブスの言葉を聞き、ツバキは思わず動きを止めてしまった。動揺するツバキの顔を見て、ヒーデブスの笑みはもっと気味が悪いものになったが、クーアがその部屋に向かって魔力の塊を放った。衝撃波によって煙が舞う中、ヒーデブスは鼻水を垂らして呆然とした様子だったが、ツバキはクーアに近付いた。
「クーアさん! あなた自分が何をやったか理解しているんですか! どうしてリプラを攻撃したんだ!」
「バカモン。落ち着け」
クーアは煙を払い、クリスタルに守られるリプラの姿をツバキに見せた。その姿を見たツバキはほっとした表情になった。
「リプラ王女は呪いによって守られておる。あんな陰キャブス野郎の攻撃で壊れるほど、やわじゃないってことじゃ。おい、ロリコンブサイク野郎! お前が無駄な小細工をしても無駄じゃ!」
クーアの言葉を聞き、ヒーデブスは苦虫を嚙み潰したような顔になった。
どうしてだ? どうして僕様の思い通りにならないんだ!
昔も今も、ヒーデブスは心のど真ん中でこう叫んでいた。ヒーデブスは一応魔力の才能があった。だが、酷い顔のせいでいろいろと罵倒され、もともと酷い性格のせいで人望もなかった。自分が人生のドン底に落ちる中、同年代の人は真面目に働き、家庭を持ち、明るい未来を歩んでいる。ヒーデブスの周りには、何もなく、真っ暗に近い状態だった。変わろうと努力をしても、マイナス状態の人望や酷い顔のせいで、ヒーデブスの思い通りの結果にならなかった。そのせいで、ヒーデブスはかなり深い闇に落ち、外道な行為に手を出すようになった。
「どうして! どうして僕様の思い通りにならないんだ! 僕様には才能がある! お前たちより魔力を使える! この古の力だって上手に使えるんだ! なのにどうして! 僕様はこんなに落ちぶれるんだ!」
ヒーデブスの叫びを聞いたシアンは舌打ちをし、剣を手にしてヒーデブスに向かって飛びかかった。
「そんなん誰だって分かるわよ! お前は顔も酷ければ、心も酷いのよ! 人を見下し、自分のことを棚に上げるような奴の思い通りになるわけがないでしょうがァァァァァァァァァァ!」
シアンは叫び声を上げながら、剣を振り下ろした。シアンの斬撃はヒーデブスの体の中央に傷を作った。
「が……ああ……」
ヒーデブスは傷から血を流しながら、その場に倒れた。シアンは倒れるヒーデブスを見て、呆れたように鼻を鳴らした。そんな中、キトリが恐る恐るシアンに近付いた。
「やりすぎじゃない? 結構傷が深いわよ」
「そのくらい強い攻撃を与えないと、このバカは理解しないわ。それに、こいつは死んでない」
シアンがこう言った後、ヒーデブスは奇妙な魔力を開放しながら立ち上がった。血を流しながら立ち上がるヒーデブスを見て、キトリは恐怖を感じた。
「こいつ、立ち上がるけど……」
「変な力のせいじゃろう。そう簡単にくたばらない体になっちまったようじゃ」
呆れてため息を吐きながら、クーアがこう言った。ベーキウとツバキも剣を持ち、シアンたちの横に並んだ。
「お前ら……許さん。絶対に殺してやる」
ヒーデブスは低い声でこう言うと、大量の紋章を作った。ベーキウたちはナイトパンチが飛んでくると思い、身構えた。その直後、大量の紋章から予想通りにナイトパンチが放たれた。
「皆、あいつの攻撃を対処するのよ!」
シアンが叫んだ後、キトリは闇の魔力を開放して無数の槍を放った。だが、ナイトパンチはキトリの闇の槍を粉砕し、ベーキウたちに迫った。クーアが魔力を開放して風の刃を放ったが、それでも一部のナイトパンチしか破壊できなかった。
「こうなったら、俺たちで何とかするぞ!」
「え? あ、はい!」
ベーキウに声をかけられ、動揺しつつもツバキはベーキウと一緒に前に出て、ナイトパンチの対処をした。最初、ツバキは素早いナイトパンチの攻撃を対処できるか不安だった。だが、ナイトパンチの動きを簡単に見切り、脳内では対処法もすぐに自分で見つけられた。
「あれ? 対処できてる」
「強くなってる証拠だよ」
と、ベーキウはツバキにこう言った。
ナイトパンチを対処されたヒーデブスだったが、攻撃を受けた後はすぐに熱くなることはなかった。
変だな。自分でも変だと思うくらい、冷静になってるよ。
自分がかなり冷静であることを動揺しつつも、ヒーデブスは心の中でこう思った。その後、ヒーデブスはナイトパンチの対処で四苦八苦しているベーキウとツバキを見て、気付かれないようにベーキウとツバキの足元に紋章を発した。その時、剣を構えたシアンがヒーデブスの横にいた。
「あんたが何をするか、大体理解できてんのよ!」
と言って、ヒーデブスに攻撃を仕掛けた。ヒーデブスはジャンプしてシアンの斬撃をかわし、上空で紋章を発した。
「どうしてだか分からないけど、君が近くにいるってことをすぐに理解できたよ」
「気持ち悪いことを言うな!」
シアンは盾を構えてこう言ったが、新たに発した紋章からは巨大な刃が現れた。シアンの盾は攻撃を受け止めたのだが、勢いを止めることはできず、刃に押されたシアンはそのまま遠くの壁に向かって飛んでいき、激突した。
「ガハッ!」
「シアン!」
シアンが攻撃を受けたことを察したベーキウは、この一瞬だけ動きを止めてシアンの方を振り返ってしまった。
「ベーキウ、前を見て!」
キトリの声を聞き、ベーキウはすぐにヒーデブスの方を見た。だがその前に、ナイトパンチがベーキウの顔面に命中した。
「命中した。けど」
ヒーデブスは小さくそう言って、上を見上げた。そこには、闇の魔力で作られた巨大な剣を手にしたキトリがいた。
「よくもベーキウとシアンを!」
叫び声を上げながら、キトリはヒーデブスに攻撃を仕掛けた。
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