愛と絆が起こした奇跡
呪いの大剣、イートソウルはシアンの光の魔力によって消滅した。騒動の元凶であるゴガツは一応我に戻り、ゴールドエイトの愛の往復ビンタを受けた。
「ギャァァァァァァァァァァ! 助けて! 助けてェェェェェ!」
ゴガツはベーキウたちに向かってこう叫んだが、ベーキウたちはその悲鳴を聞き流していた。今、ベーキウたちはゴガツの一撃によって深い傷を負ったアグレリオを心配していた。
「どう? 傷は治りそう?」
シアンはアグレリオを治療しているアルムに聞いたが、アルムはうつむいて目をつぶり、何も答えなかった。アルムに魔力を送っているレリルは苦痛の表情をしながら、シアンにこう答えた。
「はっきり言うけど……どれだけの魔力を使っても治る気配はないわ」
「そんな!」
レリルの答えを聞いたベルリアは、急いでアグレリオの元へ向かった。クーアは止めようとしたが、ジャオウは目をつぶって首を振った。
「彼女をアグレリオの元へ行かせてくれ……」
「傷の手当は……くっ、こんな結果になるとは」
最悪の結果になると察したクーアは、悔しそうに呟いた。
ベルリアは倒れているアグレリオに近付き、右手を触った。右手は氷を触っているかのように冷たく、毛先もしおしおになっていた。
「アグレリオ! 目を覚まして!」
目をつぶっているアグレリオに向かって、ベルリアは泣き叫んだ。どれだけベルリアがアグレリオの名を叫んでも、目を開けることはなかった。
「そんな……」
「待ってなさい! まだ、まだ終わっちゃいないわ!」
レリルは体内に残っているすべての魔力をアルムに注いだ。アルムは驚き、レリルの方を振り向いた。
「レリルさん! これ以上魔力を注いでも」
「いいから治療しなさい! こんなオチ、私は絶対に嫌よ!」
「俺もだ」
と言って、ベーキウはアルムに近付き、魔力を注いだ。
「俺の魔力も使ってくれ! 何が何でもアグレリオを治すぞ!」
「は……はい」
必死な表情のベーキウを見て、アルムは治療を続けた。ベルリアはアグレリオの右手を力強く握り、目を開けてと祈った。その祈りが通じ、アグレリオの目が少しだけ動いた。
「あ! 目が動いた!」
「よっしゃ!」
アルムとベーキウは喜んだのだが、治療をしているキトリは目をつぶって首を振った。それを見たアルムとベーキウは、アグレリオが目を開けたのは奇跡であり、生命の終わりが近いという事実には変わりないと察した。
「ベル……リア……」
「アグレリオ、私が分かる? 私が見える?」
ベルリアは涙を流しながらこう言ったが、アグレリオは苦しそうに言葉を返した。
「うっすらと……君の顔が見える……泣かないでくれ」
「死なないで! あなた、呪いのせいで死なないって言ってたじゃん!」
「どうやら……あの大剣の呪いの力のせいで……無効にされたみたいだ」
「そんな……」
ベルリアは察した。今、アグレリオと話ができているのは奇跡。少し時間が経てば、アグレリオの命は消えることを。
「嫌だ……嫌だ! 死なないでアグレリオ! あなたが死んだら、私はまた一人に……」
「君には……君を想ってくれる人がいる」
アグレリオは心配そうにこの状況を見ているオーガツカ、ケンマツを見ながらこう言った。だが、ベルリアは首を振った。
「だけど……あなたの想いの方が強い。私も……ずっとあなたのことを想ってた!」
「ベルリア……」
「あなたが死んだら、私はまた一人ぼっち……あなたと話ができなくなるなんて、絶対に嫌だ……」
ベルリアは大きな泣き声を上げながら、ベルリアに抱き着いた。アグレリオは震える左手でベルリアの頭に優しく触れ、こう言った。
「これが……運命なんだ。私は古の人間……人の寿命を超えて……生きてきた存在。今、運命の時がきたんだ……」
アグレリオがこう言うと、左手の動きが止まり、崩れるように下にうなだれた。アグレリオを治療していたアルムは目をつぶり、首を振った。アルムに魔力を注いでいたベーキウとレリルも助けられなかったことを察し、魔力を止めた。
「そんな……嫌だ……嫌だァァァァァァァァァァ!」
ベルリアは動かなくなったアグレリオに抱き着き、大きな涙を流した。
その時だった。突如アグレリオの体から光が放たれた。
「おわァァァァァァァァァァ! 何じゃ!」
「何なの、この光?」
いきなり発した光を見て、クーアとキトリは驚いて後ろに下がった。ベーキウは急いでベルリアに近付いたが、ベルリアは光を見つつ、アグレリオから手を放さなかった。
「何が起こるか分からない、離れた方がいい!」
「いい、私はここにいる!」
ベルリアはベーキウの手を払い、アグレリオの体を見ていた。ベーキウはどうしようかと思っていると、アグレリオの体の異変を見つけた。
「あれ? 体毛が短くなってる」
ベーキウの言葉を聞いたベルリアは、アグレリオの体を見た。モンスターのような毛並みだったアグレリオの体毛が、徐々に小さくなっているのだ。シアンはアグレリオの手を見て、驚きの声を上げた。
「ちょっと! アグレリオの手が人の手っぽくなってる!」
シアンの言う通り、アグレリオの獣のような手が、人のような手の形となり、鋭い爪も小さくなっていった。
しばらくして、アグレリオから放たれる光が徐々に弱くなっていった。それに伴い、アグレリオの体が人の体になっていった。
「これってもしかして……」
「ああ。呪いが解けたんだ」
ベーキウとジャオウはこう話をし、アグレリオの様子を見た。光が収まり、アグレリオは人の体に戻っていた。イートソウルによって傷付けられた傷も、戻った際に塞がっていた。
「あ……アグレリオ?」
ベルリアは恐る恐る倒れているアグレリオの名を呼んだ。ベルリアの声が聞こえたのか、アグレリオの体がちょっとだけ動いた。そして、アグレリオは上半身を起こし、ベルリアの顔を見た。
「ベルリア……私は一体……」
「あなた、人に戻っているわよ」
ベルリアの言葉を聞いたアグレリオは、急いで自分の顔を触った。その後、腕や足、腹を触って笑みを浮かべた。
「本当だ。呪われる前の私の体だ……」
「呪いが解けたのね」
「ああ。もしかしたら、ベルリアのおかげかもしれないな」
笑みを浮かべるアグレリオにシアンは近付き、咳払いしてこう言った。
「かもしれないじゃないわよ。誰かを想う気持ちが、呪いを解くきっかけだったのよ。とりあえずよかったわね」
その後、ベルリアとアグレリオは歓喜の声を上げながら抱き合った。ベーキウたちは騒動が終わったと思い、安堵の息を吐きながら抱き合うベルリアとアグレリオを見ていた。
皆がベルリアとアグレリオに注目している間、ゴガツは誰にも気付かれないようにこの場から逃げようとした。
「何が何だか分からないけど、逃げるなら今ね。こんなことやって刑務所行きだなんて私、絶対に嫌よ」
そう呟きながら動いていた。何とか外に出ることができ、ゴガツは背伸びをした。
「ふぃー、何とか逃げられたわねー。部下の連中はどっか行ったし、私もどこかに雲隠れしようかなー」
そんなことを呟いていると、騒動を察した警察がゴガツに近付いて肩を叩いた。
「話はケンマツさんからぜーんぶ聞いている。ゴガツ・ナガーノ。いろいろと話を聞きたいから、署の方に移動しようか」
「え……嫌です」
「これは任意ではない、強制だ!」
その後、逃げようとしたゴガツだったが、結局警察に捕まった。パトカーに乗せられたゴガツはそれでも何とか逃げようと動いたのだが、結局無駄に終わり、ゴガツを乗せたパトカーはサイレンを鳴らしながら走り出した。
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