いきなり青春が始まる
アルジームとパンジーの婚約パーティーが終わった翌日、ベーキウたちは次のファントムブレードの素材、自然のエメラルドを手にするために次の目的地に向かった。ジャオウたちはパーティーが終わったその日の夜中にこっそりと旅立ってしまったので、ベーキウたちは慌てて旅立ったのだ。
今、ベーキウたちは船を使って次の大陸に向かっていた。クーアがサングラスをかけ、長椅子に腰掛けながらジュースを飲み、近くにいるシアンにこう聞いた。
「次の大陸は何て名前じゃ?」
「次はトッキョーって名前の大陸よ」
「トッキョーか。これまで旅をした大陸の中では、それなりに都会な大陸じゃの」
クーアの言葉を聞き、筋トレをしていたベーキウが近付いて話しかけてきた。
「クーア、トッキョーに行ったことがあるのか?」
ベーキウは真剣な表情でこう聞いたが、クーアは汗が流れているベーキウの体と鍛えられている筋肉を見て、発情した。
「ムッホォォォォォ! やっぱりベーキウの体はエロいのー! シックスバックのところをちょっとだけぺろぺろさせてもらってもえーやろかー?」
飛びかかったクーアの動きに反応したシアンは、クーアの腰に手を回し、バックドロップを仕掛けた。クーアは後頭部が床の上に激突する前に、何とかシアンから脱出した。
「はん! 何度もお前の投げ技を喰らったせいか、どんな動きをするか大体理解したのじゃ! もーちょい投げ技のバリエーションを増やさんかーい!」
そう言いながら、シアンに向かってベロを出して挑発するクーアだったが、脱出した時の勢いが強いせいで、そのまま海へ落ちて行った。情けないクーアの叫び声を聞きながら、シアンはため息を吐いてこう言った。
「あのババア、エロゲーにはまる前にトッキョーに行ったんじゃない? 修行かなんかで」
「かもな」
返事をしつつ、ベーキウはタオルで汗を拭いて服を着た。その後、海に落下したクーアは騒動を察したキトリによって助けられました。
二日後、ベーキウたちを乗せた船は次の大陸、トッキョーに到着した。船の上に降りたベーキウは背伸びをし、周囲を見回した。
「やっぱり都会だな。いろいろと設備が整ってる」
ベーキウは上を見上げ、感心する声を出した。
「天井があるのか。これなら雨が降っても濡れることなく船から外に出られるな」
「確かに設備は整ってるし、他の大陸と比べてこの大陸は文化の力が強いわ。だけど、都会だからと言っていいことばかりじゃないわ」
ため息を吐きながらシアンはそう言った。気になったベーキウは理由を聞こうとしたが、何かを見つけたキトリがおどおどしながらベーキウの服の裾を引っ張った。
「どうした?」
「なんか変な集団がこっちに向かってくる」
キトリの視線の先には、カメラを構えた変な集団がいた。その集団は、明らかにベーキウたちの方に向かって走っているのだ。それを見たシアンは舌打ちをし、ゆっくりと船から降りるクーアを光の魔力で強く掴み、ベーキウとキトリにこう言った。
「マスコミの連中よ! あいつら、私たちがここにくるってことをどこかしらの情報で掴んだのよ!」
「どうして俺たちがマスコミに?」
「大きく新聞や雑誌で取り扱って、話題にさせて大儲けするつもりよ! あんなバカにかかわっている場合じゃないわ。早く行くわよ!」
シアンは叫びながらそう言って、魔力で空を飛んで移動した。ベーキウとキトリも慌てて魔力を開放し、シアンの後を追いかけた。
都会だからと言って、いいことばかりではない。ベーキウはシアンの言葉を聞き、確かにそうだと思った。人はたくさんいるが、その中にはあらゆる情報を掴み、面白くて話題性があれば何でも記事にしてしまうハイエナのような奴らもいるのだ。ベーキウはそのことを考え、周囲を見回した。
「マスコミのことがあるなんて、思ってもいなかったよ」
「あいつら、私たちがいろんなところで事件を解決したから、話題性のために取材をするつもりなのよ。あいつら、しつこいから嫌いなのよ」
「確かにね。私もしつこい奴は嫌い」
キトリはそう言って、ため息を吐いた。そんな中、シアンの光の魔力で引っ張られながら移動していたためか、床や壁に顔をぶつけたシアンが鬼のような形相でシアンを睨んだ。
「お前はもーちょいわらわのことを考えんかい! お前のおかげでわらわの美しい顔がジャガイモみたいにボコボコになってしまったではないか!」
「自分で自分の顔を美しいって言えるの? 自意識過剰にもほどがあるわ」
「お前、まじでマスコミの連中に突き出してやろうか?」
クーアが魔力を開放しながらこう言った。キトリはクーアのうなじを叩き、気を失わせた。ベーキウはやっと静かになったと思いつつ、改めて声を出した。
「じゃあ自然のエメラルドの情報を集めよう。ジャオウたちも動いているはずだ」
ベーキウがこう言った直後、話を聞いていたおじいさんが近付いた。
「あんたら、自然のエメラルドが欲しいのかい?」
「はい。わけあって探しているんです」
「自然のエメラルドはわしの母校にあったのー」
おじいさんの言葉を聞き、シアンは驚いた。
「ちょっと、なんか都合のいい展開になってるけど、話を聞いてもいいわよね?」
「聞くだけ聞いてみましょう」
キトリはそう答えると、おじいさんに近付いた。
「あの、あなたの母校ってどこですか?」
「わしの母校はアマザラシ高等学校じゃ。皆は縮めてアマ高と言っているよ」
「そのアマ高はどこにあるんですか?」
シアンの問いに対し、おじいさんはメモでアマザラシ高等学校の場所を書いて説明した。
「ここからだと、バスや電車を使っての移動になる。まだ自然のエメラルドがあればいいんじゃが」
「ありがとうございます! あなたのおかげで情報を掴めました!」
「ほっほっほ。悩める若者の助けになったのなら、それでいい」
そう言って、おじいさんは笑いながら去って行った。その後、ベーキウたちはおじいさんのメモを頼りに、アマザラシ高等学校へ向かった。
一方その頃、別ルートでトッキョーに到着したジャオウたちは、アマザラシ高等学校周辺にいた。
「な……何だ、ここは?」
周りの光景を見て、ジャオウは驚いていた。周りには地面に付きそうなくらい長い裾の学ランを着たリーゼントの学生、手に鎖分銅を持って歩く黒いマスクの学生、そして改造されたバイクの乗ってヒャッハーと叫んでいるモヒカンの学生が町の中を我が物顔で歩いていた。
「何ここ? まるで世紀末じゃない」
レリルは暴れる学生たちを見てこう言った。学生たちの一人がジャオウに気付き、ガンを飛ばしながら近づいた。
「おいおいおいおいおいおいおいおい、誰だテメーらはよぉ? ここが誰の縄張りか知ってんのかァ?」
「知らんな」
「だったら教えてやんよ」
「教えなくても結構だ」
ジャオウの返事を聞き、学生は機嫌が悪そうに声を上げた。
「あぁん? テメー調子乗ってんのか? ぶっ殺すぞ?」
「調子に乗っているのはお前ではないのか? 弱いのに自信を強く見せるような似合わない服装と、その口調をやめた方がいい」
ジャオウは呆れながらそう言って、アルムとレリルを連れて去ろうとした。だが、その学生はジャオウの肩を掴んで殴りかかった。
「俺様に説教をするなんざ一億万年はえーんだよ! いっぺん死んであの世で後悔しやがれクソ野郎!」
「そんな拳で倒されるほど、俺は弱くない」
ジャオウは学生の拳を片手で受け止め、そのまま強く握った。骨が折れたのか、学生は悲鳴を上げながらその場に倒れた。あほらしいと思いながら、ジャオウは先に行こうとしたのだが、仲間らしき学生がジャオウたちを囲んでいた。
「あーあ、変なことになりそう」
呆れたレリルは、ため息を吐いてこう言った。
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