口臭がきっかけで強敵を倒すなんて話、この作品以外であってたまるか
レリルの強烈な口臭をさんざんギャグのネタにしてきたこの作品だが、まさかその口臭が強敵を倒すきっかけになろうとはだれも思ってもいなかっただろう。そう思いつつ、シアンは気を失っているグレトールに近付き、剣を構えた。
「勇者としてやっちゃいけない行為だと思うけど……仕方ないわよね」
そう呟き、心の中でも何度でもこいつを倒さないとルーシィは解放されないし、同じような被害者が増えるだけだと言い聞かせ、シアンは倒れているグレトールの背中を剣で突き刺した。
「あがっ!」
攻撃を受けたグレトールは小さい悲鳴を上げ、上半身だけ起き上がらせた。その声を聞いたのか、ベーキウとジャオウも咳き込みながら起き上がった。
「うえっぷ! 臭いが消えてない!」
「がはっ! はぁ……はぁ……レリルの奴、口をランプに近付かせたのか……」
そう言いながら、ベーキウとジャオウは周囲を見回した。そして、グレトールに剣を突き刺しているシアンの姿を見つけた。
「シアン! 今、グレトールを倒したのか?」
「うーん……多分」
シアンは苦しむグレトールを見ながら答えた。剣が背中に突き刺さったグレトールは悲鳴を上げつつ、這いながらどこかに行こうとした。
「がっ……力が……力が抜けていく……」
そう呟きつつ、シアンから離れようとした。シアンはグレトールを逃がさないように、光の魔力で鎖を作り、グレトールの足を縛った。
「あ……足が……」
「悪いけど、あんたみたいな悪人を逃すわけにはいかないの。うえっぷ。まだ臭いが残ってるのね……口を開くだけでも苦痛だわ」
シアンはそう言って、もう一度剣をグレトールの背中に突き刺した。
「ガッハァッ!」
攻撃を受けたグレトールは大きな声で悲鳴を上げ、その場に倒れた。しばらくして、グレトールの足が塵になった。
「なっ! あいつの足が!」
ジャオウは足が塵になりつつあるグレトールを見て、驚きの声を上げた。ベーキウは魔力の探知をし、グレトールの力が弱くなっていることを察した。
「ダメージの受けすぎか? あいつの力がかなり弱くなってる」
「む? ああ、確かに」
ジャオウもグレトールの力を探知し、グレトールの最期を察した。グレトールは泣きながらベーキウとジャオウの方を振り向き、こう言った。
「なぁ頼む! あんたらの力を俺に分けてくれ!」
その言葉を聞いたベーキウとジャオウは呆れた表情になり、話を聞いていたシアンは再び剣をグレトールの背中に突き刺した。
「ガッハァッ!」
「無様なもんね。最初はあれだけ粋っていたくせに、弱くなって倒されたと思ったら今度は敵に助けを求めるとか、あんたにプライドはないの?」
「そんなこと言わないでくれよ! 頼む、私は消えたくない!」
グレトールは泣きながら命乞いをしたが、ベーキウたちは呆れたようにため息を吐き、グレトールの顔を見ていた。
「そんな……誰も私を助けてくれないのか?」
「お前みたいな外道を助ける理由が見つからない」
「どれだけ多くの人を苦しめたか考えながら消えろ」
ベーキウとジャオウの言葉を聞いたグレトールは、シアンの方を向いてこう言った。
「私を助けてくれれば、いろんな願いをかなえてやるぞ! どうだ? お前にとっても私が生きていればいろいろとお得だろ?」
「自分の願いは自分で叶えるわ。それに、自分でやったことを忘れたの? どうせ助けても、すぐに裏切るに決まっているわ」
「そん……な……」
ベーキウたちが助けてくれないことを察したグレトールは、大きな息を吐いた。その直後、グレトールの両手が塵になって消え始めた。
「なっ! あああああ! そんな、体の消滅が止まらない!」
「そりゃーよかったね。消滅の手伝いしてやるわ」
「じゃあ俺も」
「今なら踏んだだけで塵となって消えそうだな」
ベーキウたちはその場に倒れているグレトールに追い打ちの攻撃を始めた。攻撃を受けたグレトールの体は、あっという間に塵となった。
「た……助けて……」
「誰もあんたみたいな外道を助けないっての! もう二度と、その汚い口を開くな!」
シアンは叫びながら、グレトールの頭を踏んだ。その瞬間、グレトールの体が塵となって消えた。
「勇者よ……今の攻撃は非道すぎないか?」
「今回は俺もジャオウと同じ意見だ。やりすぎだと思う」
シアンの頭を踏みつける攻撃を目の当たりにしたベーキウとジャオウは、引きつつシアンにこう言った。シアンはやりすぎたと思い、テヘペロした。そんな中、突如周りの壁にひびが走った。
「なっ! 何だ! 何が起きているんだ!」
「壁にひびが?」
「主が消えたから、このランプも消滅するのか?」
ジャオウの言葉を聞き、ベーキウとシアンは顔を青く染めながらこう言った。
「なぁ、俺たちはどうなるんだ?」
「楽に外に出られる……よね?」
言葉を聞いたジャオウは目をそらし、体を震わせた。
「無事だと……いいんだが」
その直後、壁全体にひびが走り、強烈な閃光が走った。
レリルは手にしているランプにひびが走ったことを見て、悲鳴を上げていた。その悲鳴を聞いたクーアたちはランプを見て、驚きの声を上げていた。
「お前、何かしたのか?」
クーアがこう聞くと、レリルは顔を左右に振るって何も知らないと返事をした。そんな中、突如ルーシィの悲鳴が聞こえた。
「どうかした?」
キトリはルーシィの方を振り向き、突如ルーシィの体が光り出したことを見て驚きの声を上げた。
「ふェェェェェ! 急に体が光りました! ど……どうなるんですかァァァァァ!」
「ルーシィ!」
ドレーミファはルーシィの名を叫び、ルーシィの手を握った。
「何があっても大丈夫だ! お父さんがいる!」
「え……あ……その……」
戸惑うルーシィだったが、突如脳裏に思い出らしき映像が流れた。ルーシィは誰かと手をつなぎ、笑みを浮かべながら話をしていた。その話をしている相手は、若い頃のドレーミファだった。
「お父さん」
ルーシィがお父さんと言ったことを聞き、ドレーミファははっとした表情となった。その直後、破裂音を響かせながらランプが割れた。
「なっ! ランプが割れた!」
アルジームの声が響き、誰もがランプがあった場所に注目した。ランプが割れ、その中にあった紫の煙が周囲に充満した。しばらくして、その中からベーキウたちが現れ、じゅうたんの上に落ちた。
「いてて……」
「私たち、出られたの?」
「助かったのか?」
ベーキウたちは周囲を見回し、クーアたちの姿を見て無事に戻ってきたと察した。
「よかった、何とか出られたみたいだ」
「ベーキウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!」
泣き叫びながら、クーアが勢いよくベーキウに抱き着いた。シアンはすぐにクーアを引っぺがし、床の上に叩きつけた。
「いきなり抱き着くな! いきなり抱き着かれたから、ベーキウが受けた傷が開いたかもしれないじゃないの!」
シアンの言葉を聞いたキトリは、ベーキウたちを見て驚いた。
「酷い傷、きつい戦いだったのね」
「でも、何とか勝てたみたいでよかった。今から治療するから」
「私も手伝うわ」
キトリとアルムは魔力を開放し、ベーキウたちの傷の手当てをした。そんな中、シアンはレリルを見てため息を吐きつつ、こう言った。
「私にもプライドはあるけど……今回ばかりは仕方ないわね」
「何が言いたいのよ?」
レリルはシアンの方を見てこう言うと、シアンはちょっとだけレリルの方を向いてこう言った。
「あんたの口臭でグレトールを倒せたわ……ありがと」
その言葉を聞いたレリルは、驚いて目を丸くした。
「え? 何? 私のおかげで敵を倒せたの?」
「そうだ。まぁ……そんなとこだ」
治療を受けながら、ジャオウはレリルにそう言った。
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