消耗する戦士たち
シアンは本気を出し、グレトールに攻撃を仕掛けた。本気のシアンの猛攻撃を受けたグレトールだったが、隙を突いて傷を治してしまう。余裕の表情をしていたグレトールだったが、アルムの治療を受けているジャオウは心の中でこう思った。
余裕の顔をしているが、完全に傷は治ったわけではない。俺たちの傷が癒えれば、一気に猛攻を仕掛けて倒せるかもしれない。
そう考えたジャオウだったが、横にいたベーキウは治療が終わったと思い、クレイモアを構えた。
「体が楽にあった。よし、行くか」
ベーキウの言葉を聞き、ジャオウはゆっくりと立ち上がって手首を回した。
「ありがとうアルム。さっきよりかなり楽になった」
ジャオウはそう言うと、ベーキウの方を向いてこう言った。
「同時に仕掛けるぞ。行けるか?」
「ああ。合図、任せていいか?」
「任せろ」
ジャオウはグレトールの姿を見て、タイミングを合わせてこう言った。
「行くぞ!」
ジャオウの合図の直後、ベーキウとジャオウは同時に走り出した。強い殺気を感じたグレトールはベーキウとジャオウの方を振り返り、嫌そうな顔をした。
「チッ。回復するのが速いなー」
「うるせぇ!」
「このままお前を倒してやる!」
グレトールに向かってそう叫ぶと、ベーキウとジャオウは同時に攻撃を仕掛けた。グレトールは避けようとしたのだが、後ろからシアンが光の魔力を発し、グレトールの動きを封じていた。
「んなっ! がっ!」
「悪いわね、このままあの二人に斬られてもらうわよ」
「ケッ……嫌だね。今斬られると、痛いんだもん」
「子供みたいなことを言うんじゃないわよ」
シアンがこう言った直後、ベーキウとジャオウの攻撃がグレトールに命中した。攻撃を受けたグレトールは悲鳴を上げながら上空に舞い、しばらく飛んで後ろに倒れた。
「ガハッ! ウガァッ!」
グレトールは荒く呼吸をしながら、急いで立ち上がった。だが、急に立ち上がったせいで、体のバランスを崩して再び倒れてしまった。
「ぐ……うう……」
苦しむグレトールは、何が何でも後ろに下がろうとした。だが、シアンが再び光の魔力による攻撃を仕掛けた。光の魔力はビームのような形となり、グレトールの体を貫いた。
「ぐああああああああああ! この野郎がァァァァァァァァァァ!」
「本性を晒したな」
「汚い声だ。このまま消えろ!」
苦しい声を上げるグレトールに対し、ベーキウとジャオウはそう言って武器を振り下ろした。だが、攻撃を受ける寸前にグレトールは笑みを浮かべた。
「私の下手な演技に引っかかるなんてねぇ。君たちはまだまだ純粋だ」
この言葉を聞いたベーキウとジャオウは驚き、ほんの一瞬だけ動きを止めてしまった。その隙を突いたグレトールはベーキウとジャオウの武器を触り、力を発して吹き飛ばした。
「なっ!」
「しまった!」
吹き飛んだ武器を手にしようとしたベーキウとジャオウだったが、その前にグレトールが両手を突き出してこう言った。
「治療したばっかりなのに、再び傷を付けるようなことをしてゴメンねー」
その後、激しい衝撃波がベーキウとジャオウを襲った。衝撃波の中では見えない小さくて無数に存在する刃があり、それがベーキウとジャオウに深い傷を与えていた。
「ベーキウ! ジャオウ!」
シアンはベーキウとジャオウを助けようとしたが、攻撃を受けても意識があったベーキウがシアンの方を見て叫んだ。
「俺たちのことは大丈夫だ! グレトールに気を付けてくれ!」
ベーキウの言葉を聞き、はっとした表情でシアンは剣を構えてグレトールの方を振り向いた。シアンに攻撃を仕掛けようとしたグレトールは、シアンが攻撃に察したことに気付き、ため息を吐いた。
「あーあ、隙を突いて一発殴ってやろうかと思ったんだけどなー」
「残念だったわね。自分の思い通りにはなかなかいかないわよ」
シアンはそう言うと、素早く剣を振るった。シアンの剣はグレトールの右手に無数の傷を作ったが、傷を見たグレトールの表情は変わらなかった。
「痛いね。また私の右腕が傷ついたじゃん」
「腕の傷を見るのが嫌なら、切り落としてやりましょうか?」
「それは勘弁。欠損した部位を元に戻すのに時間がかかるんだよ」
グレトールは両腕をクロスするようにし、力を開放した。
「さーて、こいつは避けられるかなぁ!」
と言って、勢いを付けて両腕を振り下ろした。クロス状に放たれた衝撃波はシアンに向かって放たれたのだ。
「こんな攻撃、余裕でかわせるわよ」
「一つ教えとくね、追尾機能があるんだよ」
「厄介な機能を付けたもんね、嫌らしい」
シアンはそう言って、その場に立った。床の上に倒れているジャオウは、シアンがこの攻撃をどうかわすか気になり、傷付いた体を起こしつつこの様子を見ていた。
「避けないつもりかい? それじゃあそのままズタズタになりな」
動かないシアンを見て、グレトールは笑みを浮かべてこう言った。しばらくして、クロス状の衝撃波はシアンに近付いた。その時、シアンは横に飛んで衝撃波をかわした。
「ほう。空いている場所を確認してジャンプして避けたか。だけど、追尾機能があるよ」
床の上に着地したシアンを見て、グレトールは笑みを浮かべてこう言った。シアンは後ろを見て、衝撃波が自分に向かって迫っていることを察し、グレトールに向かって走り出した。
「おいおい! 何を考えているんだい? 私を倒してあれを消すつもりかい? はっきり言って無駄だよ!」
「黙ってなさい。あんたの声を聞くたび、イライラがたまる!」
シアンはそう言うと、グレトールをジャンプして飛び越え、背後に回った。グレトールが振り返る前に、シアンはグレトールを衝撃波に向かって蹴り飛ばした。
「へぇ、私を衝撃波に向かって蹴り飛ばすかぁ……考えたねぇ」
蹴り飛ばされたグレトールは、感心した声を上げながら衝撃波を見つめた。
ベーキウとジャオウの治療を終えたアルムは後ろに下がり、兵士が用意してくれたお茶を飲んでいた。
「今、ランプの中はどうなっているんですか?」
「暗くて分かりません。中から力を感じるのですが、まだ強い魔力のぶつかり合いを感じます」
「戦いは終わっていないのか……」
兵士はランプを見て、中では激しい戦いが繰り広げられていると思い、緊張感が強くなった。そんな中、自分では何かできないかと思い、レリルがランプに近付いた。
「おい、何をするつもりじゃ?」
「応援するのよ! 何もしないよりかはましでしょ!」
「確かに、仲間の応援や喝があればそれなりに気合が入るかもしれないわね」
キトリの言葉を聞き、クーアは呆れた表情をした。
「そんな根性論が今の時代に通用するかー? まぁ確かに、わらわの萌え萌えボイスでベーキウが回復し、覚醒してグレトールの奴を倒してくれれば万々歳じゃがの」
この言葉を聞いたキトリとレリルは冷ややかな目をし、ひそひそ声で話を始めた。
「ねぇ聞いた? あのおばさん、自分で自分の声を萌え萌えって言ったわよね?」
「聞いたわ。仲間の私でもガチで引く発言だわ」
「見た目相当の声だとは思うけど、さすがに自分で自画自賛するってありえないわよね?」
「声に関しての評価は、第三者が決めるでいいと思うのに……仲間として恥ずかしいわ」
「おい! 聞こえておるぞ! 別にいいじゃろーが! 自分で自分の声を褒めても!」
クーアがキトリとレリルに対し、怒りをぶちまける中、アルムが暴れるクーアに近付いた。
「落ち着いてください! こんな状況で暴れるのは止めてください!」
「うるさい! 一度こいつらに痛い目を見せないと気が済まないのじゃ!」
「ああもう、仕方ない、すみません!」
アルムは近くにあった分厚い本をクーアの頭に向かって振り下ろし、殴ってクーアを気絶させた。申し訳ないと思っているアルムの表情を見て、キトリはアルムの肩を叩いてこう言った。
「大丈夫よ。この程度でこのおばさんは死なないから」
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