下手な嘘はすぐばれる
アルジームとパンジーを乗せた空を飛ぶ不思議なじゅうたんは、町の上空をゆっくりと飛んでいた。パンジーは満面の笑みで上空から町を見る中、アルジームは子供のようにはしゃぐパンジーを見て心の中で安堵していた。
嬉しそうでよかった。でも、俺の下手な嘘がどこまで通じるかな。
と、アルジームは心の中でこう思った。
その一方、残業で夜遅くまで仕事をしているある男は、半狂乱で持っていたエナジードリンクの缶を社長の銅像に向けて投げつけていた。
「クソッたれがァァァァァァァァァァ! もう夜中の一時じゃねーかァァァァァァァァァァ! こんな遅くまで仕事をやっていられっかァァァァァァァァァァ!」
この叫びを聞いた別の社員は、鬼のような笑みを浮かべ、机の上の缶や飲みかけのジュースを手にし、社長の銅像に向かって投げた。
「クソ社長がァァァァァァァァァァ! 自分は定時で上がりやがって!」
「そのくせ、俺たちに仕事を押し付けやがって!」
「確かにまぁ、ほとんど一日中仕事をさぼってた俺らも悪いんだけどさ、にしても仕事を終わらせるまで帰るなってざけんじゃねーぞォォォォォ!」
と、半ば自業自得だが、怒りが爆発した社員たちは社長の銅像に向かってゴミを投げていた。そして、一人の社員が銅像にドロップキックを仕掛けて転倒させた。
「今だ! このクソな銅像をゴミにしてやれ!」
この叫びの後、社員たちは怒りに任せて社長の銅像を踏む蹴るライターの火であぶる、落書きで額に放送禁止用語を書きまくるというとんでもない行為を始めた。そんな中、目の下に大きなクマを作った男性社員が、タバコを吸いながら外を見ていた。
「あはは……今日も晴れ。明日も晴れ……ずっとずっとずーっと晴れ……俺の気持ちはずーっと土砂降りだってのにねぇ……」
その様子を見た別の社員が、小さな声で話を始めた。
「あの人、頭がぶっ飛んだんじゃないの?」
「三徹目だって」
「三日徹夜? 何をやらかしたの?」
「仕事をさぼってキャバクラ行ったり、ラブホでデリヘル嬢呼んでたみたいよ」
「死ねばいいのに」
その時、窓にいた社員が空を飛ぶじゅうたんを見つけ、叫んだ。
「ギャァァァァァァァァァァ! じゅうたんが空を飛んでいる! 俺はもうだめかもしれない! 変な幻を見た以上、休まないといけないかもしれない!」
と言って、窓から外に飛び降りた。それを皮切りに、さぼって徹夜作業になってしまった自業自得な作業員たちは窓から外に飛び出した。その様子を見た冷静な社員は、ため息を吐いてこう言った。
「俺、転職しようかな」
町の下ではじゅうたんが空を飛んでいるという騒ぎになっていることを知らずに、アルジームとパンジーはのんびりと空中デートを楽しんでいた。アルジームは時計を見て、パンジーにこう言った。
「ではそろそろお城に戻りましょう。皆が心配しているかもしれません」
「皆が心配しているのはいつものことよ。それよりも、どうして下手な嘘をついてお城に入ってきたの?」
パンジーの言葉を聞き、アルジームは言葉を失った。動揺した表情のアルジームを見て、パンジーはいたずらっ子のように微笑んだ。アルジームはしばらく考えごとをした後、ため息を吐いた。
「いつから気付いてたんだ?」
「最初からよ。ドコカーノなんて国はないし」
「最初からか。でもどうして、その時点で何か言わなかったんだ?」
「面白そうなことが起こりそうだったからね」
「おいおい……そんな考えでいいのか?」
「いいのよ。お城の暮らしはつまらないから、少しはスリルを味わいたいの」
「王女様がそんなこと言っていいのかよ……」
アルジームはため息を吐いてこう言った。パンジーはアルジームに近付き、こう聞いた。
「で、どうやってあんな派手な格好になったの? 私と別れてから数時間ですぐに用意できる物じゃないわ」
「うーん……これから話すことは真実だ。決して絵本のような話じゃないってことを頭に入れてくれ」
「分かったわ」
その後、アルジームは洞窟で魔法のじゅうたんを貰ったこと、そしてルーシィのことを伝えた。話を聞いたパンジーは、何かを察したような表情をした。
「ああ! あの女の子! あの女の子が願いを叶えたのね!」
「ドジっ子だから、間違えることもあるけど」
「ドジっ子の魔人かぁ。面白いじゃない。明日、その子と話させて」
「その前に、俺のことを話さないと。嘘をついたままじゃあ、話が進まないと思うから」
この言葉を聞き、パンジーは少し考えてこう言った。
「そうね。ま、皆も嘘だーってこと把握してると思うから、そんなに難しく考えないでよ」
「そうか? 俺は嘘をついたんだぜ」
「大丈夫よ。さっきも言ったでしょ、把握してるって。ま、なんかあったら私が権力を乱用して助けるから」
「王女の言う言葉じゃないだろ……」
「あっはっは! 気にしないで! それじゃあ、お城に戻りましょう! じゅうたん、お願い!」
じゅうたんはパンジーの言葉を聞き、城に向かって飛んで行った。
同時刻、アルジームがいる部屋ではランプだけがベッドの上に置いてある状況だった。しばらくして、ランプからルーシィが現れた。
「はぁ……やっぱりランプの中じゃあ息苦しくて寝れないです」
と言って、ルーシィはベッドの上で大の字になって横になった。
「ふぁぁ……ベッドの上で寝るのが一番です。いい夢が見られそうですねぇ……」
そう呟いた直後、あっという間にルーシィは寝息を立てて眠った。扉の外では、ドレミーファがこっそりとその様子を見ていた。
翌日、アルジームは緊張した表情で城のロビーに向かったが、ロビーでは町の人々やクーアが騒いでいた。
「な……何かあったんですか?」
近くにいた兵士に聞くと、兵士は慌ててこう言った。
「実は、町の人や勇者パーティーのクーアさんが空を飛ぶじゅうたんを目撃したーって騒いでいるんですよ。それで、町の監視カメラを利用して確認しているのですが……丁度半数以上のカメラが点検中で、まともに映像を確認できないんですよ」
「だーかーらー! 俺は本当に空を飛ぶじゅうたんを見たんだって!」
「いやァァァァァ! きっと、天の国からの使者がこの国のどこかにいるんだわ! 誰かが悪いことをやったから、天罰を下すのよ!」
「天罰だって? 俺はやってねーぞ!」
「わしもじゃ! 確かにまぁ、若い頃は下着窃盗、盗撮、痴漢、わいせつなどいろいろやったが、今は二次元に夢中じゃ!」
「おい! 誰かこの性癖が乱れたクソジジイを捕まえろ!」
などと、町の人たちは騒いでいた。アルジームは騒動の発端が自分であることを察し、急いでパンジーの元へ向かった。
「王女、昨日のデートで大変なことになってます」
「そうねぇ。ニュースでも騒いでいるわ」
パンジーは部屋の扉を開け、無理矢理アルジームを部屋に押し込んだ。ニュースでは、空を飛ぶじゅうたんのことが話題になっており、専門家が難しい表情でこんなことを言っていた。
「これは何かが起きる前兆だと思います。風の魔力を使って浮いていたとしても、いずれ魔力切れを起こして落下します。ですが、この映像を見る限り三十分は宙を飛んでいます。並外れた魔力の持ち主でも、何かを乗せてじゅうたんのような物を長時間浮かすのは困難でしょう」
この言葉を聞いたパンジーは、笑い始めた。
「あっはっは! 何カッコつけながら言ってんのよこのおっさん! 何の専門家か分からないけど、世の中には不思議なじゅうたんがあるのよ! 私がそれを言ったら、このおっさんがどんな表情をするか楽しみねー!」
この騒動を楽しんでいるパンジーを見て、アルジームは早く説明しなければと思った。
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