スリルを求める男
「あー、またこの砂漠を走るのかー」
と、クーアは嫌そうな声を上げてこう言った。今、ベーキウたちはホバーに乗って砂漠を走っていた。嫌そうな顔をするクーアの横にいるキトリは、ため息を吐いた。
「仕方ないでしょ。プラチナの砂鉄があるかもしれないから、我慢してよね」
「そりゃーそうじゃがのー。じゃが、本当にあるかどうか分からんぞ」
「そん時はまた別のどこかを探せばいいのよ。それに、今回の探検を考えたドレミーファ大臣に話を聞けばいいし。大臣だから、何かしら知ってるでしょ」
ホバーの操作をしながら、シアンがこう言った。ベーキウは周囲を見回し、別のホバーの乗っているジャオウたちを見ていた。ジャオウが操作するホバーは、初心者が運転していると思うような動きをしていた。
「あいつ、ホバーの操作分かっているのかな?」
「ジャオウのことか? 事故ったらライバルが減るだけじゃから、いいんじゃないかー?」
クーアは笑いながらこう言ったが、キトリがクーアの頭を叩いてこう言った。
「他の人に被害が及んだら大変でしょうが」
「まぁ……そうじゃの。その時は敵であろうとも、助けるしかあるまい」
クーアは自身のぶっ飛んだ発言を反省しながらこう言った。
それから数分後、ベーキウは不審に思いながら周囲を見回していた。モンスターの気配はするのだが、なかなかその気配の主が姿を現さないのだ。
「ベーキウ、クレイモアを構えてて」
シアンが操作をしながらこう言った。この言葉を聞いたキトリは、魔力を少し開放して周囲を見回した。
「モンスターがいるのね」
「多分砂の中に潜ってるわ。あいつ、下から襲ってくるわ。攻撃のタイミングが分からないけど。それと、私はホバーの操作で、戦えないから」
「ああ。操作に集中しててくれ。敵は俺たちがどうにかする」
ベーキウはクレイモアに手をかけてこう言った。そのすぐ、ベーキウの前に砂から巨大な魚のようなモンスターが現れた。そのモンスターを見たクーアは、ため息を吐いてこう言った。
「あいつは砂の中に住む魚のモンスター、デザートフィッシュ。サメのように凶暴じゃから、気を付けることじゃ」
「説明はいいから、クーアも戦って」
「日光を浴びすぎたせいか、頭がくらくらするのじゃ。すまん、無理」
と言って、クーアは横になった。ベーキウとキトリは仕方ないと思いつつ、襲ってくるデザートフィッシュに攻撃を仕掛けた。
「おらっ!」
ベーキウは勢いを付けて襲ってくるデザートフィッシュの口に向かって、クレイモアを突いた。だが、デザートフィッシュは間一髪のところでベーキウの攻撃をかわした。
「クソッ!」
「大丈夫。私の闇でどうにかするわ」
キトリはそう言って、闇の魔力を放ってデザートフィッシュを攻撃した。放たれた闇はデザートフィッシュに命中し、遠くへ吹き飛ばした。
「まず一匹」
「大量にいるのか。魚釣りだったら、嬉しい状況だったんだけど」
「あいつら、サメの仲間だけど食べられないのよ。釣り人でもあいつを釣るのは絶対にしないって」
シアンはため息を吐いてこう言った。その直後、無数のデザートフィッシュが現れた。デザートフィッシュはベーキウたち以外にも、周囲にいるジャオウや戦士たちに襲い掛かっていた。
「クッ! アルム、操作を頼む!」
「え? うん、分かった!」
ジャオウはホバーの操作をアルムに任せ、大剣を手にしてデザートフィッシュに攻撃を仕掛けた。戦い慣れた戦士は果敢にデザートフィッシュに攻撃を仕掛けたが、戦い慣れていない未熟な戦士は、デザートフィッシュのエサとなっていた。
「あいつら、何人か食ったな」
「肉が好きって書いてあったわね。今の状況、あいつらからしたら、大好物の肉が居場所を知らせるために轟音を鳴らして走っているようなもんよ」
ベーキウとシアンが短い会話をしている中、突如目の前からデザートフィッシュが大きな口を広げて現れた。シアンはホバーのレバーを動かそうとしたのだが、急転回するには遅かった。
「まずい、食べられる!」
「ギャァァァァァァァァァァ! わらわなんて食べても美味くはないぞ!」
クーアが悲鳴を上げたその時だった。一台のホバーが猛スピードで突っ込んできて、操作をしていた若い戦士がデザートフィッシュの腹に剣で攻撃を仕掛けた。攻撃を受けたデザートフィッシュは傷から血を流しながら、宙を舞って砂の中に入った。
「ふぃー、間一髪だったな、あんたら」
若い戦士はベーキウたちにホバーを近付かせ、付けていたゴーグルを上に上げた。シアンは若い戦士が操作するホバーと同じ速度で走り、口を開いた。
「ありがとう。あなたがいなかったら、私たちは奴のエサになっていたわ」
「どうってことないよ。噂の勇者様も、隙を突かれるってことがあるんだね」
「私は人間よ。そこまで完璧じゃないって」
「確かにな」
若い戦士は笑ってこう言った。その直後、何かを忘れてたと思うような顔をし、咳ばらいをした。
「自己紹介がまだだったな。俺はアルジーム。城下町で暮らしている戦士だ。あんたらのことはニュースでよーく知ってるぜ」
「じゃあ、自己紹介はいらないわね」
「ああ。有名人と知り合うなんて思ってもいなかったよ」
アルジームは笑いながらこう言った。
ホバーを使って移動を始めて、数分が経過した。一部の戦士はデザートフィッシュのエサとなり、また一部の戦士はデザートフィッシュに勝てないことを察し、命が欲しいと思って逃げ出した。その結果、戦士の数は最初の三分の一に減ってしまった。
「戦士の数が一気に減ったなー」
「力ない奴は去ることをおススメしたいのー。エサになりたくなければの話じゃが」
そう言いながら、クーアは立ち上がった。キトリはクーアを見て、驚いた表情をしてこう言った。
「体調はいいの?」
「少し休めば回復する。じゃが、まだ戦う体力はない」
クーアはそう言って息を吐き、アルジームの方を向いた。
「なかなかのイケメンじゃの。アルジームと言ったか。わらわからも礼を言わせてくれ」
「ははは、堅苦しいこと」
「礼儀じゃ。それよりお主、何の目的で洞窟探検に参加した?」
「答えは簡単。金になる仕事かもしれないし、それよりもスリルを味わいたい」
アルジームの答えを聞き、クーアはため息を吐いた。
「金は誰だって必要じゃから欲しい理由は分かるが、スリルは分からんの。そんなもんを味わうよりか、わらわはベーキウの体を味わいたい」
クーアがこう言った直後、キトリはクーアの頭を砂の中に入れた。そのことを察したシアンは、猛スピードで回るようにホバーを操作した。
「ブッバァァァァァ! 何をするんじゃ貴様ら!」
「バカなことを言わないで」
「次にバカなことを言ったら、デザートフィッシュのエサにするわよ」
シアンとキトリは殺意と怒りがこもった目で、クーアにこう言った。呆れる表情のベーキウをよそに、アルジームは笑いながらこう言った。
「確かにスリルを求めるのはバカだけだってよく言われるよ。だけど、たまには刺激があることをしたいだろ?」
「刺激的なことねぇ……」
ベーキウはそう言うと、今までの旅のことを思い出した。
「刺激的と言うか……ぶっ飛んだことが多いような気がする」
「刺激的なことをしたいなら、旅をしたら?」
シアンがそう言うと、アルジームは小さく笑った。
「金がないんだよ。それと、俺はこの国が好きだから、離れることはしたくないのさ」
そう答えると、キトリは感心した表情でこう言った。
「この国が好きなのね」
「ああ。どこかに行くってことは、あまり考えてないさ。それよりも、あれが洞窟じゃないか?」
アルジームが前を見ると、遠く離れた岩山の下に、穴のようなものが見えていた。
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