未熟な王女は気合を入れる
ツエルの育ての親、リョウセンは空を見ながら編み物をしていた。
「あの子が出発してからしばらくたったけど、無事かしらねぇ」
そう呟いていると、男たちの悲鳴が聞こえた。リョウセンはため息を吐き、悲鳴が聞こえた場所へ向かった。そこには、ツタのモンスターに捕まって悲鳴を上げている城の兵士たちがいた。
「うわァァァァァ! こんなのがいるなんて聞いてないよ!」
「あの人はちょっと危険な森だから気を付けてって言ってたけど、ちょっとどころじゃないよ、この危険度!」
「助けてェェェェェェェェェェ! 俺なんて食ってもおいしくないよォォォォォ!」
リョウセンはため息を吐き、風の魔力でツタのモンスターを倒し、兵士たちを助けた。兵士たちは開放された後、頭を下げてリョウセンに礼を言った。
「ありがとうございます! あなたがいなかったら、俺たちは食われていました!」
「本当にありがとうございます!」
何度も頭を下げる兵士たちを見て、リョウセンは呆れた表情でこう言った。
「戦いのド素人が物騒な森にくるんじゃないよ。で、どうしてこんな森にいるんだい? 仕事をさぼるためのお散歩かい?」
「違います。あなたがリョウセンさんですね」
兵士の言葉を聞き、リョウセンは目を丸くして驚いた。
「驚いた。兵士の連中が私のことを知っているなんて。ドルセンの時代の兵士は、皆歳を取って引退したから、私のことを知る兵士はいないはずなのに」
「俺たちはツエル様から頼まれたのです。あなたを城に招待したいって」
ツエルの名を聞き、リョウセンは慌てて兵士に駆け寄った。
「ツエル? あの子は無事なのかい?」
「はい。勇者シアンたちのおかげです」
「ツエル様の言う通りだな。やはりリョウセンさんは今の状況を知らない。リョウセンさん、俺たちが順を追って今まで起きたことを説明します」
その後、リョウセンは兵士たちから革命のことを聞いた。リョウセンは驚いた表情をしていたが、カネズキが捕まったこと、ツエルが無事であり、次の王女としてゴルマネーを治めることを知った。
「そうかい……あの子が王女か……世間知らずだから、少し不安だけど」
「本人も言っていました。だから、あなたがそばにいてほしいと言っていました。だから、俺たちが迎えにきたんです」
兵士たちの言葉を聞き、リョウセンはやれやれと言いそうな表情をし、家の中に戻った。しばらくして、大きな荷物を持ったリョウセンが現れた。
「引っ越し準備は終わったよ。それじゃ、すぐにでもあの子のところに行こうかね」
「はい。でも、あんな危険な森を歩くつもりですか? その大荷物で?」
「大丈夫。私は強い魔力を持っているからね」
リョウセンはモップを手にし、兵士たちに渡した。
「それにまたがりな」
「は……はぁ」
兵士たちが動揺する中、リョウセンは魔力を開放してモップを操った。
「おわっ! うわっ、うわぁっ!」
「このモップ、動いた!」
「ちゃーんとモップを握っているんだよ。振り落とされるよ!」
その後、リョウセンは魔力を操り、モップを動かした。
カネズキが座っていた王の玉座だったが、今はツエルが座っている。ツエルは尻を動かしながら、むずむずしていた。
「どうかしたか? 便所に行きたいのか?」
「王女になったのよ、言葉を慎めクソババア!」
王女となったツエルに対し、とんでもないことを発言したクーアの頭に向かって、シアンは手刀を放った。頭を押さえて悶絶するクーアを無視し、ベーキウとキトリはツエルに話しかけた。
「いろいろと緊張すると思うけど、あなたは一人じゃないわ」
「皆がいるんだ。きついと思ったら、皆に頼ればいい」
「そーよそーよ。俺たちもいるから安心しなさーい」
そう言いながら、ノレパンがやってきた。悶絶していたクーアは体を震わせながら頭を上げ、ノレパンにこう言った。
「お前、どうしてここにいるんじゃ?」
「スカウトされたんだよ。新しい王女様にね。俺とイジゲンは密偵。ミーネちゃんは周りのサポート、そんでもってゴエゲートは……」
「拙者はこの人の騎士となった」
ゴエゲートはツエルの横に立ち、剣を構えてこう言った。
「拙者、ゴエゲートはあなたの剣となり、生涯あなたのそばにいると誓います」
「ありがとう、ゴエゲート」
と言って、ツエルはゴエゲートに微笑んだ。ツエルの笑みを見たゴエゲートは顔を赤く染め、緊張のあまりその場に倒れた。音を聞いたカネガタは、急いでゴエゲートの元に向かった。
「大丈夫か!」
「大丈夫よとっつあん。ゴエゲート、女の子に慣れてないのよ」
「そうか……それでツエル様の護衛を務めることができるのかなー?」
「ま、いざとなったら私がいろいろとします」
と、ツエルがこう言った。その言葉を聞いたシアンは、冷や汗をかいた。
「いろいろって何よ?」
「大人なこととかね」
「王女が言うセリフじゃない!」
ベーキウが大声でツッコミをした後、窓からリョウセンがやってきた。
「ツエル! ああ、無事でよかった」
「リョウセンさん! 久しぶりです!」
「久しぶりって、数日だよ? 久しぶりって言葉じゃないよ。とにかく元気そうでよかったよ」
リョウセンはそう言って、ツエルを抱きしめた。その後、ベーキウたちを見てこう言った。
「この子を守ってくれてありがとうね。本当に感謝するよ」
「いえいえ、勇者として当然のことをやっただけです」
シアンは照れながらこう言った。そんな中、ノレパンは何かを思い出したかのように手を叩いた。
「そうだそうだ。あんたら、これが欲しいんだろ?」
と言って、袋をシアンに渡した。その中身を見たシアンは、目を丸くして驚いた。
「これって、金粒の魔石?」
「そう。いろいろと情報を手にしていたからね。あんたらがこれを手にするために、ここにきたってこと、知ってたのよ」
ノレパンは笑みを浮かべてツエルの方を振り向いた。ツエルはノレパンが何を言いたいのか察し、頷いた。
「シアン様。いろいろとありがとうございます。この金粒の魔石はお礼です。どうか、受け取ってください」
ツエルの言葉を聞き、シアンは金粒の魔石が入った袋を受け取った。それを見たキトリは、安堵の息を吐いてこう言った。
「これでまた素材が集まったわね」
「これで集まったのは……」
「焔のルビー、純白のガラス玉、海のサファイア……そして金粒の魔石。半分素材が集まったな!」
クーアの嬉しそうな声を聞き、ベーキウは拳を握って思った。これで、この冒険も折り返し地点にきたのだと。シアンたちが歓喜の声を上げていると、ノレパンがこう言った。
「それで、次はどこに行くんだい?」
「ここから近くだと、デザトスミスに行こうと思っているわ」
デザトスミス。この言葉を聞いたベーキウは驚いた。デザトスミスは砂漠の大陸として有名であり、昼はかなり熱いと聞いている。そして、生息するモンスターも気性が荒いとも聞いている。
「物騒な大陸に行くんだな。準備はしておかないと」
「そうね。しばらく準備のためにここにいるから、念入りに準備するわよ!」
「デザトスミスかー。年寄りにクソ熱い場所は酷じゃのー」
「自分に不利な時だと思ったら、年寄りみたいなことを言うのはよしなさい」
ベーキウたちの会話を聞き、ツエルは立ち上がった。
「皆様、今回は本当にお世話になりました。本当にありがとうございます。この国の代表として、礼を申し上げます」
この言葉を聞いたベーキウはツエルの方を振り返り、笑みを作ってこう言葉を返した。
「冒険が終わって落ち着いたら、また会いましょう」
「ええ。その時がくるのをお待ちしています」
と言って、ツエルは笑顔でこう答えた。
この作品が面白いと思ったら、高評価とブクマをお願いします! 感想と質問も待ってます!




