初めての場所に向かう時は、その場所の歴史を最初に知るべき
道中の茶店で休憩中のベーキウたちは、お茶を飲みながら今後のことを話していた。茶店に入った時、シアンは個室で休みたいと頼み、その願い通りに個室で休むことができた。
「私たちだけだったら、難なくあの国に入ることができそうね」
シアンはこう言ったが、どこか落ち着かないベーキウはシアンにこう聞いた。
「なぁ、どうして個室を頼んだんだ? 確か、別料金がかかるんだろ?」
「ベーキウの言う通りじゃ。金の無駄じゃろうが」
クーアは水を飲んでこう言ったが、キトリは口を開いた。
「どこかにゴルマネー国の兵士や密偵がいるか分からないんでしょ? もし、そいつらの口からツエルが生きていたと知ったら、あいつの耳に流れるわ」
「そうか。情報漏れを防ぐためか」
「そのためなら、金は使うわ。それよりも、今後のこと」
シアンはそう言って、話を続けた。ベーキウは少し考えながら、こう言った。
「変装するしかないだろうな。俺の推測だけど、カネズキ王はツエルが生きていることを知らない。そもそも、どこにいるか把握していない可能性が高い」
「把握していない? 私が生まれた時、結構大きなニュースになったと思いますが」
と、ツエルは手元の電子メニュー表を珍しそうに見ながらこう聞いた。ベーキウは電子メニュー表を受け取り、ツエルが変なメニューを注文していないか確認しつつ、答えた。
「もし、カネズキ王がツエルのいる場所を把握していたら、暗殺を企む可能性が高い」
「ベーキウの推測通りね。前国王の娘が生きていたとしたら、王の座は娘が受け継ぐのがルールだから」
キトリは周囲を見回しながらこう言った。シアンはベーキウから電子メニュー表を受け取り、注文する品を見ながら口を開いた。
「とにかく、今はどうやって国に入るか。ツエルのことが奴らに知られていない状況なら、変装作戦は成功する。それに、ツエルがどんな風に育ったか、奴らは知らない」
「下手に動かなければ、楽に国に入ることができるんですね」
「そう。もし、何か聞かれたら途中で知り合った人と言えばいいわ」
「簡易的じゃが、今は国に入る確率が高い方を選ぶ方が得策じゃろう。あ、わらわはチョコレートパフェでお願い」
「おばさんが糖分高いものを選ぶんじゃないわよ。あんたは水だけで十分よ」
シアンはそう言って、キトリに電子メニュー表を渡そうとしたのだが、クーアはそれを奪い取ろうとした。
「たまにはパフェの一つくらい食べさせろ!」
「休むだけって言っているでしょ? パフェなんて後で山ほど食わせてやるから我慢しなさい!」
「あのー、パフェって何ですか?」
ツエルのこの言葉を聞いたシアンとクーアは、思わず喧嘩を止めてしまった。ベーキウは少し考えながら、ツエルにこう言った。
「食後のデザートや、おやつで食べるんだ」
「お菓子みたいなものですか……」
「ただのお菓子じゃないぞー。アイスやクリーム、果物やチョコがモリモリに盛った……何と言うか……まぁ、とにかくすごいデザートじゃ」
「何なのよ、その説明……」
シアンはクーアの説明を聞いて呆れていたが、ツエルは目を輝かせていた。
「まぁ! そんな素晴らしいデザートがあるのですね!」
「そうか……ツエルは何も知らないんだった……」
ベーキウがこう言うと、シアンは深いため息を吐いてこう言った。
「しょうがないわねー。ツエルの社会勉強を兼ねて、パフェを頼みましょう」
「うおっしゃー! やはり勇者、胸はないが太っ腹!」
「一言余計なのよクソババア!」
シアンはクーアの言葉を聞き、魔力を開放しながらこう言った。
一休みした後、ベーキウたちは再びゴルマネー国の前に到着した。ベーキウたちの姿を見た門番は驚き、こう言った。
「シアン様! どこに行っていたのですか?」
「昨晩、策を飛び越えて森の方に走って行ったから、我々は驚いたんですよ!」
「心配かけてごめんね。実は、ノレパンの野郎の罠に引っかかったのよ」
シアンは笑いながらこう言うと、兵士たちは難しそうな表情でこう言った。
「ノレパンの奴、勇者シアンをも罠に引っかけてしまうのか」
「やはり、奴は手強い」
門番の言葉を聞き、シアンは難しそうにしないでと言った。そんな中、門番は帽子をかぶったツエルを見てこう聞いた。
「この少女は?」
「知り合った女の子です。名前はツエルと言います」
キトリがこう言うと、門番はそうかと呟き、ペンと紙を持ってきた。
「では、ここに自分の名前と、携帯電話の電話番号か、住んでいる家の電話番号、そして住所を書いてください」
門番がこう言うと、ツエルは何言っているか分かんないと言うような仕草をした。シアンは慌ててツエルに近付き、門番にこう言った。
「すみません、この子いろいろとあって、社会勉強が欠けているんですよ! それに、携帯電話は持っていないし、実家は……その、住んでいる親御さんが超機械音痴で、使い方は分からず、何でもぶっ壊しちゃうんですよ。おほほほほほ」
「そうか。まぁ今回は名前だけでいいにしよう」
門番の言葉を聞き、ベーキウとキトリは安堵の息を吐いた。
その後、何とかゴルマネー国内に入ったベーキウたちは、ツエルに国のことを話していた。
「そんな……酷い国ですね」
「あまり大声でそんなこと言わないほうがいいわよ。前国王の娘って皆は知らないから、兵士たちは問答無用であなたを捕まえるわよ」
「了解しました。では、今からどうしますか?」
「一度、カネズキのところに行きましょう」
「あいつが何か言うか?」
クーアは呆れたようにこう言ったが、シアンはため息を吐いた。
「報告よ。一応、ノレパンの罠に引っかかって外に出ちゃったことを伝えないと」
「何じゃ、そんなことのために城に向かうのか。律儀じゃのう」
「それと同時に、城の中を調べるのよ」
「あの王様が許してくれたらいいんだけど」
キトリは小さくこう言った。それから、ベーキウたちはカネズキがいる城に向かった。その途中、シアンは何かを見つけた。
「ノレパンの指名手配所……」
「昨日はあいつらのせいで、大変な目に合った。ちょっと落書きしてやれ」
クーアは油性ペンを取り出し、ノレパンの手配書に落書きしようとした。だが、シアンが止めた。
「バカなことをしないでよ。兵士がいたら、大変なことになるわよ」
「別にいいじゃろうが。今はあいつらに対しての怒りが爆発しておる!」
「あいつらに対して……確かに、ベーキウへの恋心を罠にして利用されたんだ。思い出しただけで、腹が立ってきた」
シアンはそう言うと、油性ペンを取り出した。ベーキウがバカ二人を大人しくしようとしたが、兵士がシアンたちを見つけた。
「勇者シアン様、何をしようとしているんですか?」
「あ、すみません! シアンとクーアがノレパンへの怒りをぶつけるため、手配書に落書きをしようとしているんです!」
ベーキウが説明をした後、兵士はポケットからある物を取り出し、シアンとクーアに渡した。
「これを使ってください。多色の油性ペンです」
「あの、落書きを推奨するのは止めてください」
「我々もあの猿野郎には怒りが爆発しているんです。シアン様、やっちゃってください」
「兵士から了解を得た! やるぞシアン! 徹底的にこいつの顔に落書きしてやるのじゃ!」
「覚悟しなさい、猿野郎!」
その後、シアンとクーアはノレパンの指名手配所に落書きを始めた。ベーキウが呆れる中、キトリはツエルにこう言った。
「いい? いくら怒りが爆発したとはいえ、あんなことはしちゃいけないわ」
「はい。十分に理解しました。今のお二人は、みっともないです」
と、ツエルは頬を膨らませながらこう言った。
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