呪われた姫君と一緒に
ベーキウたちが出会ったのは、呪いを解呪するために生まれた時から隔離生活を送っているゴルマネー国の姫君、ツエルと魔女のリョウセン。今までの情報を知らなかったリョウセンは、怪しいと思っているカネズキが王になったことを不審に思い、ベーキウたちに調査を頼むが、ツエルが同行したいと言い出す。結果、ベーキウたちと一緒にゴルマネー国に向かっていたのだが、蛇のモンスターに襲われた。長文失礼。
今、ツエルは髪を利用して蛇の動きを止めていた。驚きのあまり、立ち尽くしているシアンを見て、ツエルが叫んだ。
「今のうちに攻撃をお願いします!」
「わ……分かったわ!」
シアンは剣を手にし、蛇を一閃した。蛇が倒されたことを察したツエルは、息を吐いてぴんと張っていた髪を元に戻した。戦いが終わった後、クーアはツエルの髪を触った。
「すごい髪じゃのう。自由自在に操られるって言ってたような気がしたが、本当じゃったのか」
「ええそうよ。それに、もし髪が抜けても秒で生えてくるわ」
「すごいわね。髪がない人がこのことを知ったら、喜んでこの呪いを受けるわね」
シアンはそう言って笑い始めた。そんな時、ベーキウとキトリは何かに気付き、戦闘の構えになった。
「気を付けて、まだ何かいる!」
「あの蛇の仲間か? 別の奴かもしれないけど」
ベーキウとキトリの言葉を聞き、クーアは魔力を開放した。だが、ツエルに止められた。
「ここは私に任せてください」
「いやちょっと、少しはわらわも動かないと」
「大丈夫。とどめは任せますので」
と言って、ツエルは髪を動かした。しばらくして、いろんなところから獣たちの悲鳴が聞こえた。
「え……な……何? いろんなところから化け物の悲鳴が聞こえるんだけど」
「何をやったんだ?」
ベーキウに尋ねられた後、ツエルはどや顔でこう言った。
「私の髪を針のように固くした後、モンスターに向かって伸ばしたのです。弱いモンスターなら、この攻撃でイチコロです」
ツエルの説明を聞いたキトリは、小さな声で呟いた。
「呪いを上手に武器として扱ってる……解呪の必要ないんじゃない?」
その後、ベーキウたちはゴルマネー国に向かって歩き始めた。だが、頻繁にモンスターが襲ってくる。雑魚のモンスターは相手にせず逃げたいという考えを持っていたベーキウたちだったが、ここは森の中。逃げようにも木が周囲に生い茂っているせいで狭く、逃げてもすぐに追いつかれてしまうのだ。
「はぁ、面倒じゃのう。雑魚の相手をしていたら、ゴルマネー国に到着するのが遅くなってしまうぞ」
「おばさんの言う通りね。無駄に体力も魔力も使いたくないし」
シアンはクーアの言葉に賛同しながら、目の前にいる斬り倒したモンスターを見た。ベーキウはクレイモアを背負い、周囲を見回した。
「あちらこちらから鳴き声や足音が聞こえている。でも、こんなにごちゃごちゃした状態じゃあどこに何がいるか分からんぞ」
「そうですねぇ……ひらめいた」
と言って、ツエルは髪を伸ばし、周囲に放った。その行動を見たキトリは疑問に思い、ツエルに聞いた。
「何をしたの?」
「私の髪を探知機にするのです。もし、モンスターや獣が私の髪に触れたら、どこにいるのか分かります」
「へぇ、その髪って触れられたら感覚が走るのね。意外と便利だけど、痛くないの?」
「ご安心を。そこまで痛くありません」
ツエルはキトリとシアンにそう答え、歩き続けた。しばらく歩いていると、ツエルが突如動きを止めた。
「気を付けてください。何かが私の髪に触れました」
「近くにモンスターがいるってことか」
「ええ、その通りです」
ツエルの言葉を聞き、ベーキウたちは身構えた。すると、大きな紫色のカマキリが飛んで襲い掛かった。
「あいつはアサシンカマキリ! 周囲の色に擬態して獲物の目をごまかし、隙を見て両手の鎌で切り裂く嫌なモンスターよ!」
キトリの説明を聞いたクーアは、魔力を開放して周囲に風の刃を放った。
「これだけ風の刃を放ったんじゃ! どこに姿を隠してわらわたちの目をごまかそうが、意味がないぞ!」
と、クーアは笑いながらこう言った。だが、アサシンカマキリはクーアが放った風の刃に向かって両手を振り下ろし、風の刃をかき消した。
「んにゃにー!」
「あいつの両手の鎌は高度な鋼で作られた剣のように鋭いわ! 弱い魔力じゃあ消されるわ!」
「意外と強いモンスターだな。擬態するし、鎌は剣並みの威力か……」
「皆、気を付けて! あいつの姿が消えかかっているわ!」
シアンはアサシンカマキリの体を見て叫んだ。アサシンカマキリは変色し、姿を消してしまった。ベーキウたちは集まり、周囲を見回した。
「いくら変色してごまかすって言っても、空間の揺れでどこにいるか分かるはずじゃ!」
「いいえ、あいつは動きが素早いわ。クーアの言う通りに空間の揺れがあると思うけど、それも一瞬」
「アサシンって名前が付いている理由が何となく把握したわ」
「ああ。本当にそうだな」
ベーキウたちが話をしていると、殺気を感じたベーキウはクレイモアを前に出した。その直後、金属がぶつかる音が響いた。
「ベーキウを狙っていたのね!」
「じゃが、どこにいるか……」
「攻撃を終えて、すぐにどこかに移動したわ!」
キトリの言葉を聞き、クーアは魔力の開放を止めた。その直後、シアンは殺気を感じて後ろに下がった。
「おわっと! いきなり後ろに下がるな!」
「目の前にいたのよ!」
シアンはクーアにこう言った。クーアは周囲を見ると、アサシンカマキリの攻撃によって、一部切られたシアンの服の切れ端が宙に舞っているのを目にした。
「卑怯なカマキリじゃ! 本来じゃったら、ここを火の海にして丸焦げに……」
「余計なことをしないで。だけど……本当に厄介ね」
ベーキウたちが苦しそうにこう言う中、ツエルは再び髪を伸ばした。
「髪の探知をするの?」
「いえ、今回はただの探知じゃありません。しばらくお待ちを……」
ツエルがこう言って少しの時間が経過した。ベーキウたちは、ツエルの髪に絡まって動きが鈍くなったアサシンカマキリの姿を見つけた。
「そこか!」
「そうか、いくら変色して姿をごまかしても、髪が体に絡まれば!」
「その通り、いずれどこにいるか把握ができます! 皆さん、一気にやっちゃってください!」
ツエルの言葉を聞き、ベーキウたちは一斉にアサシンカマキリに攻撃を仕掛けた。
一方その頃、ジャオウたちはゴルマネー国の貧民街のとある家にいた。その家の中では、子供たちがジャオウたちをおもちゃにして遊んでいた。
「変な仮面。どうしてこんなダサい仮面付けてるの?」
「アルムお姉ちゃん、おままごとして遊んでー」
「おいおい、この人はお姉ちゃんじゃなくてお兄ちゃんだぜ。見ろよ、こんなにでっかい〇ン〇ン!」
「俺もいつかこのくらいでかくなるのかな?」
「ギャハハハハハ! このおばさんニンニク臭がすげーぜ!」
「ゲェー! ニンニクサキュバスだ! 近寄ったら臭くなるー!」
「何だとこのクソガキ! 捕まえて精気を奪ってやろうかァァァァァ!」
罵倒されたレリルは激怒し、笑いながら逃げる子供を追いかけた。子供に仮面を叩かれているジャオウは、ため息を吐いてアルムの方を振り向いた。
「なぁ、どうして俺たちはこんな目に合っているんだ?」
「そりゃぁ……ねぇ……」
「こうなったのも仕方ないじゃない。いろいろあったんだから」
そう言いながら、ミーネが大きな料理皿を持って部屋に入ってきた。料理を見た子供たちは、一目散に机に向かった。
この作品が面白いと思ったら、高評価とブクマをお願いします! 感想と質問も待ってます!




