勝手に人の家に入っても許されるのはド〇クエの世界だけ
ベーキウたちが塔の前に到着した時、この塔に住んでいるリョウセンは目の前にいる少女の方を見て、うなずいた。
「いいかいツエル、私が不審者と戦うから、その間にお前は逃げるんだよ」
「分かりました。ですが、強い魔力を感じます。この呪いを使って援護を……」
「無茶なことはさせないわ。必ずあなたを守るから、今は逃げて」
と言って、リョウセンはシアンとクーアに戦いを挑んだ。
シアンとクーアは魔力を開放するリョウセンを見て、戦いの構えを取った。
「あんたらが何者か知らないけど、この塔に入ってくるならぶっ飛ばすわよ」
「話を聞くだけならいいじゃない。ケチなババアね」
「あんたらのような不審者の話は聞かないわよ! そもそも、こんな真夜中に森の中を歩くなんてバカなことをするなんて、不審者以外にいるかい?」
「それはその……とにかく俺たちの話を聞いてください」
戦いを止めるため、ベーキウが間に入った。だが、リョウセンは風を放ってベーキウを吹き飛ばした。
「イケメンでも不審者ってことは変わりないんだよ!」
転倒したベーキウを見て、プッツンしたシーアは、剣を持ってリョウセンに襲い掛かった。
「このクソババアァァァァァ! よくも私のベーキウに傷を付けてくれたわね! テメーの老いぼれた体を傷まみれにしてやらァァァァァ!」
「いや、大した傷じゃないんだけど……」
「老いぼれたババアと少し若いババア、どっちが勝つか目に見えているぞ! くたばれクソババアァァァァァ!」
「自分で自分のことをババアって言ったわね」
ベーキウとキトリのツッコミを聞き流し、シアンとクーアはリョウセンに攻撃を仕掛けた。リョウセンは風で作られたバリアを張り、シアンとクーアの攻撃を防いだ。
「グウッ!」
「このババア、なかなかやりおる!」
シアンとクーアは態勢を整え、次の攻撃を行おうとするリョウセンを睨んだ。その直後、風で作られた槍がシアンに向かって飛んできた。
「勇者に対してこんな攻撃? こんな攻撃、余裕で対処できるわよ!」
シアンは剣先に魔力を溜め、勢いを付けて振り下ろした。この一閃により、風の槍は粉砕された。だが、リョウセンは笑みを浮かべていた。その笑みの理由を理解したクーアは、慌てて叫んだ。
「シアン! 後ろに下がるのじゃ! 槍を破壊させたのはわざとじゃ! 奴の本命の攻撃は、破片を使っての攻撃じゃ!」
「だと思った。やってみなさい、クソババア!」
シアンは笑みを浮かべてこう言った。リョウセンは呆れたようにため息を吐き、手を動かした。
「強がりを言う子だねぇ……半殺しにされても知らないわよ」
リョウセンの手の動きに合わせ、槍の破片が宙を舞ってシアンに襲い掛かった。シアンは素早く剣を振り、槍の破片を消滅させた。シアンの剣技を見たリョウセンは、目を丸くして驚いた。
「すごい……こんな剣士がいるなんて……」
リョウセンが驚いた表情を見せる中、キトリは二階から人影を見つけた。それは、逃げようとするツエルだった。
「ツエル!」
ツエルの姿を見たリョウセンは、大声でツエルの名前を叫んだ。ベーキウは、リョウセンがどうして自分たちに向かって敵意をむき出しにしているのか理解した。
「あなたが戦う理由は分かった。俺たちは本当に迷っていたんだ。あの子を狙いはしない」
ベーキウの言葉を聞いたリョウセンは、ベーキウを睨んだ。シアンとクーアは勢いを付けてリョウセンに向かって走り出したが、キトリがシアンとクーアを止めた。
「とにかく戦いは止めましょう。説得はベーキウに任せて」
「あのクソババアが喧嘩を売ってきたんじゃろうが!」
「黙れクソババア。無駄な戦いはしたくないでしょ?」
キトリの言葉を聞き、クソババアと言う言葉に少し怒りながらも、クーアは魔力を抑えた。シアンはため息を吐き、剣を鞘に納めた。戦いをする気がないことを悟ったリョウセンは、逃げようとするツエルを見た。
一方その頃、城に戻ったカネガタはモンパ一味に逃げられたことをカネズキに伝えていた。
「うーむ……やはり勇者パーティーでもモンパ一味を捕らえることができなかったか」
「はい。奴らは私たちの行動の一手先を読んで行動しています。まさか、勇者シアンが恋する少女だとは、思ってもいなかったです」
「確かにな。だが、奴らはまた現れる。勇者パーティーがいない今、頼れるのはお前たちだけだ」
「はっ」
カネガタは敬礼して頭を下げた後、王の間から去って行った。一人ぼっちになったカネズキはため息を吐いた。
勇者パーティーも役に立たなかったか。にしても、義賊のモンパ一味……厄介な奴らだ。もし、奴らが私のあのことを知ったら、確実に愚民の連中に話すだろう……。
そう思いつつ、カネズキは再びため息を吐いた。そんな中、カネズキはあることを思い出した。
そうだ……確か私が毒殺したドルセンには、娘がいたんだったな。名前を付ける前に、ドジでバカな魔女が間違えて呪いをかけて、その呪いを解呪する前に死んだから、そいつの友人が解呪するためにドルセンのガキを預かったんだった……あれから十七年か。まだ、ここに現れていないから、死んだんだろう。深く考えることではないな。
ドルセンの娘のことを思い出したカネズキは、小さく笑った。そして、近くのワイン棚から飲みかけの赤ワインを取り出し、お気に入りのワイングラスに注いだ。
翌朝、ベーキウは大きなあくびをしながら目を開けた。周囲を見回すと、シアンたちはいなかった。
「そうか……あの後、何とか一晩休めることになったんだったな……」
そう呟き、再び大きなあくびをした。あの後、何とかリョウセンに話をした結果、リョウセンはベーキウの言うことを信じてくれたのだ。
その後、ベーキウはシアンたちと合流するため、着替えをして廊下に出た。その時、何かに引っかかって転倒した。
「いつつ……」
「ああ! すみません! ちょっと待っててください!」
と、近くからツエルの言葉が聞こえた。ベーキウは足元を見て、足に当たった何かを見て驚いた。
「これって……髪の毛?」
「そうです。今から私たちのことを話しますので、下のリビングにきてくださいね」
ツエルはそう言って、階段を下りて行った。ベーキウは周囲にあるクモの巣のようなツエルの髪を見て、何かしらの事情があると察した。
ベーキウがリビングに到着すると、テーブルの周りにはすでにシアンたちがいた。
「おはようベーキウ」
「珍しいのう、ベーキウが寝坊なんて」
「昨日は疲れたのよ。クーアもついさっきまで寝ていたのに」
シアンたちの言葉を聞き、ベーキウは遅くなって済まないと言いながら、空いている席に座った。ベーキウが座った直後、分厚くまとまったツエルの髪が、食器類を持って近付いた。
「おわっ! その髪、動くのかよ!」
「ええまぁ」
「不思議な髪じゃのう。魔力で動いていると思ったのだが、魔力は感じぬ」
クーアはツエルの髪を触りながらこう言った。リョウセンはコーヒーを一口飲んだ後、口を開いた。
「今から話すわ。まず、昨日はすまなかったね。てっきり、この子をさらいにきたんだと思ったわ」
「そんなわけないわ。私たちがそんなことをするように見える?」
「人は見た目でだまされる生き物だからね。さて、まず自己紹介をしないとね。私はリョウセン。この森に住む魔女だよ」
「私はツエル。わけあって、赤ん坊のころからリョウセンさんに育てられています」
「実はこの子ね……ゴルマネー国の王女なのよ」
この言葉を聞き、コーヒーを口に含んでいたベーキウたちは、あまりの驚きに吹き出してしまった。
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