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怪盗ノレパン颯爽登場


 夜のパトロールを開始したベーキウたちは、不審者がいないか目を凝らしながら周りを見回していた。


「改めて周囲を見回したが、街灯が少ないのう。これだけ暗ければ、奴らも動きやすい」


 クーアは街灯の少なさを指摘するように言った。その言葉を聞いたカネガタはため息を吐いた。


「私もそう思います。ですが、カネズキ王はそんなことを気にするなと返答を……」


「そんなこと? 街灯があれば犯罪率が減ると思うけど」


「カネズキ王はそんなこと気にしていないんだ。あの人は、自分や周囲にいる親密な人たちとのことしか考えていない」


 シアンの言葉に対し、カネガタはため息を吐きながらこう言った。この言葉を聞き、ベーキウはカネズキ王が、一部の人には人気がないことを察した。


「あの王様、結構嫌な奴なんだな」


「ええ。でもどうして、あんな奴が王様になれたのかしら?」


 小さな声でベーキウとキトリが話をしていると、突如悲鳴が聞こえた。


「今の声は!」


 カネガタは腰のベルトから十手を取り出し、急ぐように走り始めた。ベーキウたちもその後を追い、走り始めた。悲鳴があったと思われる屋敷の前に到着すると、屋敷の窓が一部割れていた。


「見て、窓が割れてるわ!」


「じゃああいつらがあそこから侵入して……」


「違うんだなぁそれが。お仕事はちゃーんと終ったもんねー」


 と、聞いたことのない声が聞こえた。ベーキウたちが上を振り向くと、そこには紫色のジャケットを着た男性と、黒いライダージャケットを身に着けた女性、そしてリボルバーを持つ男性と刀を持つ少年がいた。


「あああああ! 見つけたぞ、ノレパン!」


「よー、カネガタのとっつぁん。ん? あらま、今日は珍しいお客さんがいるじゃないの」


「勇者パーティーと組むとは、予想外だ」


「ぜひ一度、剣の手合わせをしたいが……」


「何言ってるのよゴエゲート。今は逃げることを専念するわよ」


 カネガタと男性たちの話を聞き、ベーキウたちは目の前にいるのがモンパ一味であることを把握し、武器を持って飛び上がった。


「あ! いきなり動くのはまずいぞ!」


 カネガタは攻撃を始めるベーキウたちを見て、大声で警告した。だが、その直後にノレパンは煙玉を破裂させた。


「ブエッフェ!」


「こんなの持ってるなんて聞いてないわよ!」


「目が! 目がァァァァァ!」


「皆、離れ離れにならないように注意して!」


 煙の中から、ベーキウたちの声が聞こえた。しばらくして煙は消えたが、モンパ一味の姿は消えていた。


「あいつら消えたわね! まだ近くにいると思うから、捕まえてとっちめるのよ!」


「了解!」


 ベーキウたちは返事をすると、モンパ一味を探しに個別行動を始めた。それを見たカネガタは、ため息を吐いた。


「あの調子じゃ、ノレパンの罠に引っかかるぞ……」




 シアンは屋根から屋根へ飛び移りながら、上からモンパ一味を探していた。


 人がいないから、人影がいたら高確率でモンパ一味の誰かだ! とにかく探そう!


 そう思いながら、シアンは周囲を見回していた。すると、人のような影が動くのを目にした。シアンは急いで下に着地し、影の元へ向かった。


「止まりなさい! 下手な抵抗をしないことをおススメするわよ!」


 シアンはそう言うと、剣を持って陰に近付いた。モンパ一味の誰かだと思いながらシアンが近付くと、ベーキウが顔を見せた。


「シアン。いいタイミングだ」


「何だ、ベーキウだったの。でも、どうしてここにいるの? 別の方向に向かって走ったんじゃあ……」


「どうでもいいだろ、そんな細かいこと」


「確かにそうね」


 シアンがそう言うと、ベーキウはいきなりシアンに顔を近付けた。いつもの真面目なベーキウが絶対にやらないであろう行為を受け、シアンは動揺した。


「ちょっと……どうしたのベーキウ? いつもはそんなことしないのに」


「俺だって、野獣になるときがあるんだぜ?」


 いい声で、こんなことを言われたシアンの心は急にときめきし始めた。


 え? 何これ? 今忙しいんだけど……何か恋に関して急展開な感じ! ああ、もうモンパ一味のことはどーでもいーやァァァァァ!


 シアンは心の中でこう言うと、ベーキウに顔を近付けた。だが、ベーキウはいきなり後ろに下がった。


「おっと、次のステップはまた今度だ」


「えー? いいじゃない。一回チューした仲なんだし」


「もし、本気で次のステップに進みたかったら、俺の言うことを聞いてくれ」


「了解!」


「じゃあ、走って元の場所に戻ってくれ」


「了解しました!」


 と言って、シアンは猛スピードで走り出した。その様子を見たベーキウは笑みを浮かべ、高くジャンプしてどこかへ去った。




 クーアは空を浮かび、上からモンパ一味を探していた。


「うーむ。やはり簡単に見つからないか」


 そう呟き、クーアは下に降りた。すると、目の前にベーキウがやってきた。


「どうしたベーキウ? 確か別の場所を探していたが……もしや、わらわにプロポーズ?」


「正解だ」


 返事を聞いたクーアは、テンションが上がりすぎて変な声が出た。ベーキウは白いバラを差し出し、クーアにこう言った。


「互いのことはいろいろと知っているから、付き合っていると同じだろ? 結婚しよう」


 結婚しよう。クーアが人生の中で一番言われたかった言葉である。その言葉がベーキウの口から出たことにより、クーアはテンションが上がりすぎて変な言葉が出た。


「ちょま! ちょまちょまちょま嘘じゃろ? え? 嘘じゃない? これ、夢? 現実?」


「現実さ」


 ベーキウはポケットから小さな箱を取り出した。それが結婚指輪だと察したクーアはすぐに手を伸ばしたが、ベーキウはその箱を上に上げた。


「これが欲しければ、俺の言うことを聞いてくれ」


「うんうん! 分かったのじゃ!」


「じゃあ、さっき俺たちがいた場所に戻ってくれ」


「うんうん! 今すぐ戻るのじゃ!」


 テンションが上がったクーアはそう返事をすると、魔力を使って空を飛びながらも解いた場所に戻って行った。その姿を見たベーキウは笑みを浮かび、小さく呟いた。


「恋する乙女は簡単に操られるねぇ」


 と言って、ベーキウは手を顔に近付けた。そして、マスクを剝ぐように顔を取った。このベーキウは、ノレパンの変装だったのだ。




 あっさりとノレパンに騙されたシアンとクーアは、元逝った場所に戻っていた。シアンとクーアは互いの顔を見て、目を丸くして驚いた。


「お前、何でここに戻っているのじゃ?」


「それは私のセリフよ。どうして戻っているのよ?」


「それはその……あれじゃ。あれあれ」


「あれって何よ?」


「あれはあれじゃ! それよりシアン、お前もどうしてここに戻ってきているのじゃ?」


「それはその……あれよ。あれあれ」


「わらわと同じセリフを言うなァァァァァ! わらわはここに戻ってきたらベーキウが結婚してくれるって言うから戻ってきたんじゃ!」


「はぁ? おばさんどこかで眠ってたんじゃないの? ベーキウがそんなこと言うわけがないでしょうが! と言うか、十九歳があまりにも歳が離れたババアに求婚するわけがないでしょうが!」


「何じゃとー! 確かにこの耳で聞いた! わらわに求婚する声を!」


「耳の中腐ったんじゃないの? 八十五歳のエルフだから無理しないでよね!」


「このクソガキがー! なら、どうしてお前もここにいるんじゃー!」


「ベーキウが私を抱こうとしているのよ!」


「そんなエロティックな展開が起こるわけないじゃろ! お前こそ夢を見ていたんじゃないのか!」


「何をー!」


「何じゃとー!」


 その後、シアンとクーアは大喧嘩を始めた。モンパ一味は遠くの家の屋根の上からその様子を見て、笑みを浮かべていた。


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