ハンガー海賊団壊滅の時
アユの歌声による援護により、シアンたちは優位な状況になることができた。しかし、ハンガーはシアンたちの中で、誰が一番厄介なのか把握してしまった。
あの人魚の仕業か! あいつがいなければ、勝てたのに!
ハンガーはハンドガンを構え、歌を歌い続けるアユに銃口を向けた。そのことを察したヤイバは、魔力の刃を放ってハンガーに攻撃を仕掛けた。
「俺の彼女に手を出させねーぞ!」
「おわっと!」
突如飛んできた魔力の刃を見て、ハンガーは慌てて後ろに下がった。その時、ハンガーが後ろに下がることを予測していたクーアが、ハンガーに向かって巨大な氷の塊を投げた。
「これでも受けるがいい!」
「うっわ! でっか!」
飛んでくる巨大な氷の塊を見て、思わずハンガーは叫んだ。カトラスを構えて氷を壊そうとしたのだが、途中で諦めて海の中に逃げることにした。
「あのちょび髭野郎、海に飛び込んだわよ!」
「追いかけて始末してやるのじゃ!」
「うおっしゃー! こっからは人魚の私が出番ねー!」
と言って、アユは下半身を変えて海に飛び込もうとした。その時、ハンガーの叫び声が聞こえた。
「ウワーッハッハ! バカか貴様ら? そう簡単に海に落ちるワガハイではない!」
下からハンガーの笑い声が聞こえたのだ。もしやと思い、ヤイバはシアンたちに後ろに下がるように叫んだ。その直後、魔力を開放したハンガーが、下からカトラスを振るって現れた。
「チッ! 下から奇襲をしようとしたのに!」
「魔力を感じたんだよ。強く出しすぎだっつーの」
「ふん! だがまぁいい。これでワガハイの目的は叶うのだからなぁ!」
その言葉の意味を、シアンたちはすぐに理解できなかった。だが、ヤイバはハンガーが持つかぎ爪ロープを見て察した。あれでアユを捕まえると。
「人魚はワガハイが頂いたァァァァァ!」
ハンガーは叫び声を上げながら、かぎ爪ロープを投げた。かぎ爪ロープはアユに向かって飛んで行ったのだが、その前にヤイバが立ち、アユを守った。
「ヤイバ!」
「アユ、今すぐシアンかクーアのところに行くんだ!」
ヤイバが叫んだ直後、かぎ爪がヤイバの肩に刺さろうとした。その瞬間、ロープが切れた。
「あ……あれぇ!」
「私たちがいるのよ。そう簡単にあんたのような悪人の思い通りにさせてたまるかっての」
「わらわもそれなりに鬼畜外道だと思うのじゃが、貴様はわらわ以上に鬼畜外道じゃな! 懲らしめてやるから、覚悟しろ!」
と言って、シアンとクーアがハンガーに襲い掛かった。
その頃、波に飲まれたベーキウとキトリは、波の音を聞いて目を開けた。
「あ……あれ? 私たち、波に飲まれたはずじゃ……」
「ああ。確かに飲まれたけど……」
「ファー! 間一髪やったでー! 大丈夫でっか、お二人さん!」
と、サンマの声が聞こえた。ベーキウとキトリが周囲を見回すと、そこにはサシミとその部下がいた。ベーキウは察した。溺れようとしていた自分たちを救ってくれたのだ。
「ありがとうございます。あと少しで溺れてました」
「礼などいい。溺れた人を助ける、当り前のことをやっただけだ」
サシミはウインクをしてこう答えた。その後、ベーキウは周囲を見回し、崩壊寸前のハンガーの海賊船を見つけた。
「あそこです! シアンたち、それとアユもいるはずです!」
「魔力の衝突を感じる。急ぐぞ皆の者!」
サシミの声を聞き、部下たちは威勢のいい返事をした。
ハンガーは苦戦していた。シアンの剣技は自分より上で、カトラスを使っての防御をするだけで精一杯。そして、クーアによる魔力の攻撃も時折襲ってきている。シアンの剣を防御するだけでもきついのに、クーアの攻撃がくる。そして、助けてくれる船員はもういない。
「クソッ! これじゃあきつすぎる!」
ハンガーは後ろに下がり、そのまま逃げた。
「あ! あいつ逃げやがった!」
「追いかけるぞ! 捕まえて血祭りじゃ!」
シアンとクーアは、逃げたハンガーを追いかけ始めた。先にある角にて、ハンガーは爆弾を持って待機していた。ハンガーは待ち伏せて奇襲をしようと考えたのだ。
たとえ勇者とその仲間でも、爆発を受けたら粉々にぶっ飛ぶ! ウヒヒヒヒヒ。勇者シアンとその仲間、今から数秒後がお前たちの最期だ。
心の中でそう呟きながら、ハンガーは爆弾の導火線に着火した。しばらくして、足音が聞こえた。近付くタイミングを見計らい、ハンガーは爆弾を転がした。
「え? 何これ?」
「うっげぇ! 爆弾じゃ!」
シアンとクーアの驚く声が聞こえた。ハンガーは両耳を抑え、爆音から耳を守ろうとした。だが、いくら待っても爆発の衝撃は起きなかった。
「あり? なんで爆発しないの?」
不発弾だったかと思いながら、ハンガーは角から顔を出した。そのタイミングに合わせ、爆弾を手にしていたシアンとクーアはハンガーの顔面に向かって爆弾を投げた。爆弾はハンガーの顔面に命中し、その直後に爆発した。
「うっしゃー! 大成功!」
「卑怯なことをするからこうなったんじゃ! ザマーミロ!」
シアンとクーアは、黒焦げになったハンガーを見て、笑いながらこう言った。苛立ったハンガーはカトラスを持ち、シアンとクーアに襲い掛かった。
「このクソガキがァァァァァ! みじん切りにしてやる!」
「そうはさせるかよ!」
突如、ベーキウの声が聞こえた。それからしばらくして、上空からクレイモアを持ったベーキウが現れ、ハンガーを一閃した。
「ベーキウ!」
「無事じゃったか!」
ベーキウの姿を見たシアンとクーアは、嬉しそうな声を上げた。その後、立ち上がったハンガーの周りに、巨大な闇の剣が現れ、ハンガーに斬りかかった。
「あれは闇の魔力」
「キトリも無事だったみたいね」
シアンは後ろを見て、サシミの手に乗るキトリの姿を確認した。
猛攻撃を受けたハンガーは、立ち上がって逃げようとした。だが、海の周りにはサシミの部下が囲んでいた。
「お前がアユ様を誘拐した犯人か!」
「変な顔だ! 海賊よりお笑い芸人の方が向いているんじゃないか?」
「そんなことはどうでもいい。早く捕まえて牢屋にぶち込むぞ!」
サシミの部下たちは、ハンガーに向かって攻撃を仕掛けた。ハンガーは攻撃を避けつつ、ハンドガンで攻撃をした。しかし、ハンドガンを撃ちまくったせいで、弾切れを起こしてしまった。
「チックショォォォォォ! ここで弾切れかよォォォォォ!」
「運が尽きたな」
「大人しくすれば、少しは手加減してやるわ」
と、ハンガーの後ろに移動していたベーキウとシアンがこう言った。ハンガーはすぐに振り返り、ベーキウに攻撃をしようとした。その時、再びアユの歌声が聞こえた。
「あっはーん……いきなりいい歌が聞こえてきたぁ……まるで天国にいるような気分。極楽ってのはこのことを言うのかなー?」
うっとりしたハンガーは、そう言いながらその場に倒れた。アユはシアンの顔を見て、ウインクをしてこう言った。
「迷惑かけたから、最後くらい役に立たないとね」
その言葉を聞いたシアンは、ため息を吐いて言葉を返した。
「そうね。いろいろあったけど、最後に手伝ってくれてありがと」
こうして、シアンたちの活躍により、指名手配犯のハンガーは捕らえられた。アユの歌のおかげでハンガーの全身には力が入らず、立ち上がることができなかった。そのためか、楽にハンガーを警察に突き出すことができた。
「さーてと、一応戦いも終わったし……」
「あとは海のサファイアだけねー」
ベーキウとシアンがこう言った直後、クーアの腹から音が響いた。キトリはため息を吐き、こう言った。
「とりあえず、今日は休みましょう」
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