赤く染まったこのサメを止められる奴はいるのだろうか?
シアンとヒデッキーは釣り竿を垂らし、クレナイザメが引っかかるのをひたすら待っていた。そんな中、クーアは屋根の上で横になって昼寝をしていた。
「おーおー、船の揺れがハンモックみたいで結構快適に寝れるのー」
と、クーアはあくびをしながらこう言ったが、屋根に上がったシアンに叩かれた。
「あんたも手伝いなさいよ! ベーキウとキトリが船酔いでダウンしてるんだから、頼れるのあんたしかいないのよ!」
「お前に頼られるのは意外じゃったのー」
「人が少ないんだから、あんたみたいなオババの手でも借りたい気分なのよ。ほら、さっさとこれ持って下に降りて!」
シアンに釣竿を渡されたクーアは下に降り、周囲を見回した。
「シアン、どこで釣ればいいんじゃ?」
「どこでもいいわよ。とにかく早く釣竿を垂らして」
「へーい」
クーアは釣り竿を海の上に垂らし、魚が引っかかるのを待った。だが、数分待っても釣り竿に動きはなかった。
「本当に引っかかるのか? ぜーんぜん魚が餌に食いつかんぞ。本当にここに魚がいるのか?」
「釣りの基本は待つこと。待たないと、魚は釣れないわよ」
目の前の釣り竿を凝視しながら、シアンはこう言った。クーアは釣り竿を見て呟いた。
「何でもいいから引っかかってくれんかのー」
そう呟いた直後、クーアの釣り竿が大きくしなった。いきなり動いたため、クーアは慌てて釣り竿を手にした。
「うォォォォォい! シアン、ヒデッキーさん! 助けて、ヘルプ! ヘェェェェェルプ!」
クーアの声を聞いたシアンとヒデッキーは、急いでクーアの釣り竿を握った。
「このまま引っ張るわよ! ヒデッキーさん、糸を巻くことってできる?」
「もちろんだ!」
ヒデッキーは糸を巻こうとしたのだが、魚が引っ張る力が強いせいか、糸を巻くことができなかった。
「こいつは大物だ! このままだと、こっちが海へ落ちてしまうかもな!」
「そうはさせないよ!」
そう言って、シアンは魔力を解放した。それに続くようにクーアの魔力を解放し、力を込めて釣り竿を振り上げた。
「おおっ! あれは……クレナイザメだ!」
クーアが釣り上げたのはクレナイザメだった。他のサメとは違い、赤い皮膚で、怒り狂ったかのように真っ赤に染まっている目、そして新品のノコギリかと思うような鋭い牙が生えていた。
「こいつはでかいぞ! 最初の一発目でこれだけ大きなクレナイザメが釣れるなんて予想してなかったよ!」
大きなクレナイザメを見たヒデッキーは、笑いながらこう言った。しかし、シアンとクーアは笑顔を作っていなかった。
「ヒデッキーさん、喜んでばかりではいられませんよ」
「あいつの仲間に囲まれたようじゃな」
クーアがこう言った直後、三匹のクレナイザメが海面から飛び上がり、船に向かって襲い掛かった。クレナイザメの攻撃は船に当たり、大きく揺らした。
「ウギャァァァァァァァァァァ!」
「これ以上動かさないでェェェェェェェェェェ!」
揺れのせいで、船酔いが悪化するベーキウとキトリは悲鳴を上げた。二人の悲鳴を聞いたシアンは、早くクレナイザメを倒すことを決心した。
クレナイザメの攻撃から数分後、海面から泡が発した。それを見たクーアは魔力を解放して氷の槍を作り出した。
「こいつで一突きじゃ!」
と言って、クレナイザメが攻撃のために飛び上がるタイミングを見計らい、反撃をする構えを取った。その直後、一匹のクレナイザメが飛び上がった。
「喰らえ!」
クーアは力を込めて氷の槍を投げた。氷の槍はクレナイザメに命中し、大きく破裂した。
「ハッハッハ! たかがサメがわらわに敵うなどと、一千万年早いのじゃ!」
海面に浮かぶクレナイザメを見て、クーアは勝ち誇ったかのように笑い出した。それを見たのか、クレナイザメの群れは一斉にクーアに向かって飛びかかった。
「え? あのサメって知能があるの? わらわに向かって一斉攻撃を仕掛けるように見えるんだけど」
「その通りだね。クレナイザメはそれなりに知能があるって話だから」
ヒデッキーの話を聞いたクーアは、ため息を吐いて魔力を解放した。クレナイザメに攻撃される直前、クーアは雷のバリアを発してクレナイザメを吹き飛ばした。
「言ったじゃろうが。わらわに敵うなど一千万年早いと!」
クーアの言葉を聞いたのか、クレナイザメは急に周囲を見回し始めた。そして、船酔いでダウンしているベーキウとキトリを見た。クレナイザメの群れがベーキウとキトリの方へ動いたのを察したシアンは、急いでベーキウとキトリの元へ向かった。
「ベーキウ、キトリ! 攻撃の目標にされてるよ!」
シアンの叫びを聞いたベーキウはゆっくりと立ち上がり、クレイモアを手にした。
「そうか……だったら……返り討ちにしてやる!」
と言って、飛び上がって襲ってくるクレナイザメを睨み、ベーキウはクレイモアを振るった。クレイモアによる攻撃はクレナイザメに命中し、攻撃を受けたクレナイザメは宙を舞いながら海へ落ちて行った。
仲間がやられたことを察した別のクレナイザメは、キトリに向かって飛びかかろうとした。しかし、それより先にキトリは魔力を解放し、海に向かって闇の球体を投げた。
「船酔いで威力を抑えられないから」
と言って、キトリは闇の球体から無数の刃を発し、クレナイザメを倒した。船酔いで苦しむ中、クレナイザメを倒すベーキウとキトリを見たシアンは驚きの声を上げた。
「すっごーい! すごいよ! 船酔いで苦しむ中、クレナイザメを倒すなんて!」
そう言ってベーキウとキトリに近付こうとしたのだが、シアンに向かって無数のクレナイザメが現れた。
「え? 私を狙うってわけ?」
シアンは動きを止め、剣を手にして襲ってくるクレナイザメの群れに攻撃を仕掛けた。
「私は勇者よ。あんたらみたいなサメに倒されるわけがないわ」
宙を舞うクレナイザメを見ながら、シアンはそう言った。ヒデッキーは、強いと言われるクレナイザメを相手に善戦するシアンを見て驚いていた。
シアンが無数のクレナイザメを相手に無双する姿を見ていたのはヒデッキーだけではなかった。遠く離れた海の上で、露出度があまりにも高すぎる服を着た女性が、背中から悪魔のような翼を生やして宙に浮き、望遠鏡でヒデッキーの船の上を見ていた。
「へぇ。あれが今、噂の勇者パーティーねぇ……」
女性はそう言って、剣を振り回すシアンと、魔力を解放して暴れるクーアを見た。
「結構強そうなのが二人いるわねぇ。剣を持っているのが、勇者の一族、シアン。あのエルフのおばさんは誰だか分からないけど」
そう呟きながら望遠鏡を動かすと、座っているキトリの姿を見て驚いた。
「そうだったわね、写真で見たのを忘れてた。確か、魔王の娘のキトリもあいつらの仲間になってたわね。驚いて損した。でも、やはり小娘ね。船酔いでダウンするなんて」
船酔いでダウンしているキトリの姿を見て、女性は小さく笑った。その時、横にいるベーキウを見て声を出した。
「ちょっ、すごいイケメン!」
ベーキウの顔を見て、あっという間に心を奪われたその女性は、望遠鏡でベーキウの顔を見続けていた。
「あんなにかっこいい人がいるなんて私聞いてないわよ。あー、どうしてあんなにかっこいいイケメンが小娘と年増のロリババアのパーティーの一員なのよ。ああいうイケメンに釣り合うのは私ような美人だってーのに」
そう言っていると、クレナイザメが女性に向かって襲い掛かった。
「あん? たかがサメが私に襲い掛かってくんじゃねーよ!」
女性は魔力を解放し、飛び上がったクレナイザメの腹部に向けて強い蹴りを放った。蹴り飛ばされたクレナイザメは、物凄い勢いで遠く離れた岩盤に命中した。
「ケッ、私の目の保養を邪魔した罰があったのよ。さてと……どうやってあのイケメンを独占しようか考えないと」
その女性はおっさんのような笑い声を出しながら、どこかへ飛んで去ってしまった。
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