ようこそ海の国へ
キトリの秘策により、ベーキウたちは海の国に向かうことができた。海の底に到着すると、ベーキウは周囲を見回した。
「ここが海の底か……何もないな」
ベーキウの独り言を聞き、アユは近付いてこう言った。
「上の人がここをどう思っているか分からないけど、海の底はこんな感じよ。太陽の光はまともに届かず、辺りを照らしているのは私のお父さんが作った、魔力で光る球体よ」
「ほう。これは魔力の球体なのか」
クーアはそう言って、海の底を照らしている光の球体に触れた。その時、クーアは少し痺れを感じた。
「ちーっと痺れた。バカな奴がバカなことをしないように細工してあるのか」
「その通りよ。痺れたくなければ、触らないことをおススメするわよ」
「そうじゃの」
会話を終え、アユはベーキウたちを海の国へ案内した。しばらくして、ベーキウたちの前に大きな門が目に見えた。
「ここが海の国よ」
「へぇ。海の底にもちゃんとした国があるのね」
「当り前よ。国がないと世界のバランスが取れないわ。それは海でも陸でも同じでしょ?」
「確かにね」
シアンはそう言って、門を通って国の中に入ろうとした。その時、大きな槍を持った人魚が現れた。
「誰だお前は?」
「見た限り、お前は人魚じゃないな。ただの人がこの国に何の用だ?」
「私は勇者シアン。この国に用があってきたの」
と、シアンは説明をしたのだが、人魚は互いの顔を見合わせて話をした。
「勇者シアン?」
「上の世界の有名人か? お前、知ってるか?」
「知るわけないだろうが。とりあえずどうする?」
「変な奴だし、通すわけにはいかないだろう」
「つーことだ。帰れ」
門番たちの会話を聞き、シアンの額に青筋ができた。
「この魚野郎、切り刻んで刺身の盛り合わせにしてやろうか?」
「ちょい待ち、私が何とかするわ」
と言って、アユが前に出た。アユの姿を見た門番は反射的に体制を低くした。
「あ……アユ様! お戻りになられたのですね!」
「早くサシミ様の元へ向かってください! 今、カンカンで私たちでも怒りを収めることができません! どうにかしてください!」
話を聞いたアユは、顔を引きつらせてため息を吐いた。
「あーあ、やっぱりカンカンに怒ってるか……」
「悪いことをしたから、まぁ怒るのは当然よ」
キトリはそう言って、落ち込むアユの肩を叩いた。
その後、ベーキウたちは海の国に入ることができた。人魚たちはベーキウたちを見て、小声で話を始めた。
「あれ誰? 見たことがない人が……ああ! 足がある!」
「あれが人間ね。まさか見ることができるなんて思わなかったわー」
「まぁ、すごいイケメンが二人いるじゃない。それに、アユ様もいる」
「じゃあアユ様のお知合いかしら?」
人魚たちの会話を聞き、ベーキウはシアンと会話を始めた。
「俺たち、こっちの世界じゃあ珍しい扱いなのかな?」
「そりゃーそうでしょう。足がある人は、こっちじゃあ珍獣扱いなのよ」
シアンの返事を聞き、ベーキウはそうだよなと答えた。そんな中、何かの気配を察したヤイバが剣を手にした。
「何か強そうな奴がくる」
この言葉を聞いたアユは、悲鳴を上げてベーキウの後ろに隠れた。何かがくるとベーキウは察したが、現れたのはサシミだった。
「見つけたぞ、アユよ!」
「お……お父さ……」
「このバカ娘がァァァァァァァァァァ!」
サシミの怒号が周囲に響き渡った。その衝撃で、周りの海藻が根元から吹き飛んだ。
その後、ベーキウたちはサシミの城にいた。サシミはアユに説教をし続けていた。そんな中、ベーキウたちは客間にいた。
「やっぱり悪いことをたら、罰が当たるわねー」
「シアンの言う通りじゃ。あの珍魚、自分の欲で動いた罰をその身で思い知るがいいのじゃ。それにしても、このチョコうまいのー」
クーアはテーブルの上にあった小さなチョコを手にして食べていた。ベーキウはそのチョコを見て、海の国の周囲を思い出しながらこう言った。
「工場も何もない場所で、どうやってチョコを作ってるんだ?」
「きっと、どこかで作っているのよ。海の国も、私たちが住んでいる場所のようにちゃんとした施設があるのよ」
キトリはチョコを食べながらこう言った。ヤイバは不思議そうに壁の四隅にある石像を触り、呟いた。
「立派な石像だなー。触った感じが変だけど、石みたい」
「あ、それは石じゃなくてフジツボで作られています」
「フジツボォォォォォ!」
近くの人魚からこう聞いたヤイバは、驚きの声を上げながらフジツボで作られた像を見た。そんな中、涙目のアユが部屋に入ってきて、すぐに土下座をした。
「この度は皆様に多大なるご迷惑をおかけしてしまい、本当に申し訳ございません」
と、丁寧な言葉で謝罪した。その後ろにいた腕組をしたサシミを見て、ベーキウはかなり叱られたのだろうと思った。
「皆様、娘のアユが本当に迷惑をかけました。お詫びの品として、何かを差し上げますが……」
「それなら、海のサファイアをお願いします」
シアンの言葉を聞き、サシミは目を丸くして驚いた。
「う……海のサファイアですか?」
「はい。もしかして、貴重な物ですか?」
シアンがこう聞くと、サシミは首を振ってこう言った。
「いやいや。あれは確かにこの国の宝ですが、結構量があるのであまり珍しくないんですよ」
「私たちが住む陸では、珍しいんです。それと、それを使った剣を作りたいんです」
「ファントムブレードのことですね」
サシミの言葉を聞き、ベーキウたちは驚いた。サシミはベーキウを見て話を続けた。
「ファントムブレードのことを知っているのですね。では、あれを作るための素材も把握しているのですね」
「はい。この国でファントムブレードのことを知っている人がいるなんて思わなかった」
「昔から伝わっています。一振りだけ使える、幻で最強の剣。あなたたちは、その剣で何をしようとしているのですか?」
「目的は分かりませんが、魔界からこの界にきた人物もその剣を狙っています。そいつはとても強く、今の私たちでは太刀打ちできません。なので、その武器の力を借りようと思っています」
話を聞いたサシミは、そうかと呟いた。
「海のサファイアは部下に用意させる。だが、誰かに盗まれないようにしてくれ。貴重な物だからな」
その言葉を聞き、シアンは分かりましたと返事をした。
同時刻、やっと船の修理を終えたハンガーたちは海にいた。
「よーし! このまま海に潜って海のサファイアを探すぞー! いろいろあってなかなか探せなかったからな!」
「本当にいろいろあったぜぇ」
と、一人の船員が笑顔でこう言った。ハンガーはその船員に飛び蹴りを仕掛け、体を縄で縛って船から吊下ろした。
「読者の皆さんや他の連中が誤解するようなことを言うな! お前に捕まったあの後、ワガハイはお前から逃げただろうがァァァァァ!」
「船長、照れないでくださいよ」
「照れてねぇわァァァァァ! お前は一生そこで波を浴びてろ! 話がかなり脱線した! と言うことで、今から潜水艦を使って海の中に行くぞ! ワガハイと一緒に行く勇気がある奴はいるか?」
ハンガーはそう言ったが、誰も立候補しなかった。誰も立候補しないことを知って、ハンガーは激怒した。
「この腰抜けがァァァァァ! 海のサファイアが欲しくないのか!」
「そんなもんより命の方が大事です」
「海の底で事故ったら死んじゃうし」
「俺怖い」
と、部下たちはこう言った。だが一人だけ、ハンガーの肩を叩いた。勇気あるやつがいるもんだなぁと思いながらハンガーは振り返ったが、そこには吊下ろしたはずの船員がいた。
「船長、俺がいるじゃありませんか。男二人、潜水艦と言う密室の中で……」
「誰かァァァァァ! マジで誰か立候補してェェェェェ!」
ハンガーは泣き叫びながら、部下にこう言った。
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