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欲は人を動かす原動力


 翌朝、ベーキウは目を覚ましたのだが、体の疲れは全然癒されていなかった。それもそうである。昨日はアユに捕まって無理矢理海の中に潜らされた。その後はキトリの人工呼吸によって助かったのだが、それからクーアと事故チューしてしまい、そのことを知ったシアンがその日の夜に無理矢理ベーキウとチューしてしまったのだ。


 あんなことがあったから、皆の顔を見るのが少しつらい。


 そう思いながらベーキウが起き上がろうとしたのだが、その時にシアンとクーアの叫び声が聞こえた。


「だーかーらー! わらわが先にキスをしたから、わらわがベーキウにおはようのチューをするのが当り前じゃろうがい!」


「誰が先にキスをしようが関係ないわ! 私が一応メインヒロインなんだから、私がしないと話に花を添えられないじゃない!」


「こんなファンタジー作品としてもラブコメ作品としても当てはまるかどうか分からないヘンテコな作品に花は必要ない! 必要なのは、わらわとベーキウのラブシーンじゃ!」


「ロリババアとイケメンのラブシーンなんて誰も必要としてないわよ!」


「世の中にはわらわみたいなキャラに萌える人もいるのじゃ!」


 と、シアンとクーアの口喧嘩が聞こえた。ベーキウは呆れつつ起き上がり、扉を開けた。


「おい、周りの人の迷惑になるだろうが。静かにするんだ」


 ベーキウに叱られ、シアンとクーアは大人しくなった。ベーキウはため息を吐き、こんな調子で海のサファイアを手にすることができるのか、かなり不安になった。




 海の国。ベーキウを手にすることに失敗したアユは、だらだらと泳ぎながらどうやってベーキウを手に入れようか考えていた。そんな中、サンマがやってきた。


「アユ様。聞きましたで」


「何の話?」


「とぼけるのはよくありませんよ! あんた、上の世界でかなり迷惑なことしたでしょうが! 連れの人魚から話を聞きましたよ!」


「はぁ。言ったのね、あの話」


 アユはため息を吐いてそう言うと、サンマから離れようとした。だが、サンマは急いでアユに近付いた。


「逃がしまへんで! あなたのお父様、この国の王様はあなたにちょいと甘いところがあるから、叱ることはしまへんが、ワシは違うで。誰であろうと間違えたことをすればちゃーんとガツーンと言う性格なんや! だから言わせてもらうで。上の人と海の人魚が結ばれるのは絶対にありえへん! そんでもって、その方法はありません! そのことを理解したら上の世界に行ってイケメン狩りをするのは止めてくだはれ! 一応あなたは王族なんですから、王族は王族らしく礼儀よく、感情に左右されず、王族としてのプライドを持ってくださいな」


「はいはい。分かりましたよー」


 アユはサンマをあしらうと、急いで泳いで去って行った。


「あ! 話はまだ終わっとらんで! ちょいと! ちょいと待ちーな!」


 サンマは慌ててアユを追いかけたのだが、アユの姿はすでにいなくなっていた。




 城下町のとある薬屋。主であるタコのキュバンは豆菓子を食べながら、上にある小型テレビを見ていた。


「あーあ、暇ねー。このドラマも何百回も再放送されたから、見飽きちゃったわー」


 そう言いながら、キュバンは豆菓子を口に運んでいた。そんな中、来客用のベルが鳴り響いた。キュバンはゆっくりと体を動かして出入り口の方を見ると、そこにはアユがいた。


「あらぁ。いらっしゃぁいお姫様」


「お久しぶりです、キュバン」


「サンマさんの説教から逃げてきたの?」


「まぁそんなところです」


 アユはそう言って、キュバンに近付いた。キュバンはテレビの電源を消し、アユの方を見た。


「で、今日は何の用でここにきたのぉ?」


「相談があってきました」


「相談? 恋の相談?」


「その通りです。実は……」


 その後、アユはベーキウと遭遇した時の話をキュバンに聞かせた。キュバンはお茶を飲み、こう言った。


「あなたが一目で心を奪われるなんて、どんだけ素敵でかっこいいイケメンかイメージできるわ。私も一度、見てみたいわねぇ」


「そうですが、あの人は人間。海の世界では生きるのは不可能です」


「確かにねぇ。魔力を使ったヘンテコな道具がなければ、まず生きていけないし、上の世界の化学がそこまで追いついているかどうか分からないわねぇ」


「あの人が下の世界で生きられないのなら、私の方で何が何でも足を作って上へ行くってことも考えましたけど、そんな薬があるわけないですよね」


「足を作る薬? あるわよぉ。お見せしますねぇ」


 と言って、キュバンは奥にあった戸棚を開け、少々古ぼけている小瓶を取ってきた。


「これは人魚用の足を作る薬よ。これを一口飲めば、足ができる」


「そんな便利道具、あるなら早く用意してくださいな!」


 アユは喜んで小瓶を取ろうとしたのだが、キュバンは取られないように動いた。


「ちょっと待ってくださいよアユ様。この薬の話はまだ終わってませんよぉ」


「薬の話?」


「昔は上の世界にあこがれた人魚のために、この薬が頻繁に使われていたんです。ですが、上の世界へ行って戻ってきた人魚はいません。薬の効能が切れて元の姿に戻り、悲惨な運命をたどったか、あるいは悪い人間に捕まって見世物にされたり、下手したら命を落としている可能性があります。そんなことがあったので、今はこの薬を作っていないのです。それと、副作用もあります」


「そんなことがあったのね……」


「アユ様。上の世界にあこがれるのはいいですが、世の中にはいい人と悪い人がいます。だから絶対に、上の世界へ行って自由になることは考えないでください。自由と言う言葉があっても、結局いろいろなことに縛られるのが目に見えますから」


 話を聞いたアユは、少し考え始めた。キュバンは話を聞いて諦めたのだろうと思い、小瓶を棚の上に置いた。その瞬間、アユは小瓶を手にして蓋を取り、中の錠剤を一粒取り出した。


「あぁん! アユ様、強引な!」


「強引なことをしなければ、恋は成就できません! では、下に戻るときは子だくさんな状態で戻ってきます!」


 と言って、アユは歓喜の声を上げながらキュバンの店から出て行った。大変なことになったと思いながら、キュバンは王様の元に電話をかけた。




 アユは海面に上がり、ベーキウがいるであろうリゾート地へ向かって泳いだ。


 よし。このままこの薬を飲んで陸に上がって、そのままあの人とレッツチョメチョメ! ぐひひひひひ。あー、考えるだけでも興奮してきたわー。


 そんなことを思っているせいで、アユは下品な顔になっていた。その後、アユは急いで錠剤を飲んだ。飲んだ直後、アユの目は大きく開いた。


「うっげェェェェェ! くそまじィィィィィ!」


 足を作る錠剤はかなり苦かった。あまりの苦さに、アユは嗚咽した。だがその時だった。アユの尾びれが白く光り出したのだ。


 ん? これってもしかして、足になる瞬間? ラッキー、こんなに早く足ができるなんて思ってもいなかったわー。


 と、アユは心の中でそう思った。しばらくして、アユの尾びれは人の足の形をなった。それを察したアユはガッツポーズをしたのだが、その直後にアユは大きな波に飲まれてしまった。




 数分後、アユは浜辺で横になっていた。


 チクショー、足ができてからいつものように泳げないじゃないの。足の動きに慣れる前に、薬を飲むんじゃなかった。


 そう思いながら、アユは起き上がって周囲を見回した。周りに人はいたのだが、全員目を丸くしており、一組の親子連れは子供にアユを見せないように、その子の親が子供の目を手で隠していた。全員何かに驚いて動けないことを察したアユは、近くの人に近付いた。


「あのーちょっと」


 アユは声を出したのだが、アユ自身でもこの声を聞いて驚いた。薬のまずさのせいで、声がガラガラになっていたからだ。


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