祝! 連載百回目! たまにはヒロインをいたわらないと
海からベーキウを連れて戻ってきたシアンたちは、ハンガーの海賊船の上でヤイバと合流した。ヤイバは笑みを浮かべ、ハンガーを指差した。
「皆! こいつがハンガーだ!」
「やっぱりこいつがボスね! じゃあとっとととっちめましょう!」
「その前に、ベーキウを回復させないと!」
「キトリに任せる! わらわはあのちょび髭をぶちのめしてくるわ!」
と言って、クーアは魔力を開放してハンガーに襲い掛かった。シアンはその後に続き、ハンガーに襲い掛かった。キトリは倒れて動かないベーキウを見て、動揺していた。
どうしよう。これって、人工呼吸しないと助からないの?
キトリは心の中でそう呟くと、周囲を見回した。シアンとクーアはヤイバと一緒にハンガーと戦っており、船員も倒れて気を失っていた。キトリは意を決して、息を大きく吸い、ベーキウの口に自身の口を押し当て、息を入れた。その後、ベーキウの腹を押した。それでも、ベーキウの意識は戻らない。
こうなったら、戻るまで何度もやるだけ!
ベーキウの意識が戻るまで、何度も人工呼吸をすると決心したキトリは、何度も人工呼吸を行った。そんな中、クーアが後ろに下がってきた。
「クソッ! あのちょび髭結構強いぞ! キトリ、何をしとるか分からんが、援護を……」
この時、クーアはキトリがベーキウに人工呼吸をしていることを察した。
「んにゃァァァァァァァァァァァァァァァ! キトリ! お前、この状況でなーにをやっておるんじゃァァァァァ!」
「人工呼吸よ! ベーキウが溺れたせいか、意識を取り戻さないのよ!」
「何じゃと! じゃあさっさと代われ! 今度はわらわがベーキウとチュー……もとい人工呼吸を!」
「後ろを見て!」
キトリは大きな声でこう言った。クーアが後ろを見ると、カトラスを構えたハンガーがクーアに迫っていた。
「話を邪魔するな、ちょび髭がァァァァァ!」
クーアは感情に身を任せ、魔力を開放した。その衝撃で、周りのものが吹き飛んだ。
「ギャァァァァァ! おばさん! いきなり魔力を開放させないで!」
「うわァァァァァ! ぶっ飛ばされるゥゥゥゥゥ!」
シアンとヤイバは悲鳴を上げながら、飛ばないように壁や床を掴んでいた。そんな中、ハンガーが空高く吹き飛んだ。
「ギャァァァァァァァァァァ! ワガハイは高いところが嫌いなのにィィィィィ!」
そう叫びながら、ハンガーは星になった。クーアは魔力を抑え、周囲を見回した。
「ごめん、ちーっとやりすぎた」
と言って、頭を下げた。その直後、倒れていたベーキウが咳き込んだ。
「はぁ……はぁ……あれ? どこなんだ、ここ?」
「ベーキウ!」
目を覚ましたベーキウを見て、キトリは思わず抱き着いた。
「よかった……気が付いてよかった。変な人魚にさらわれて、海の中で戦ったのよ。ベーキウは気を失ってたけど……」
「そうか、俺が気を失っている間に大変なことに……助けてくれてありがとな」
と言って、ベーキウは涙を流すキトリの頭を撫でた。その様子を見ていたシアンとクーアは、怒りのあまりヒロインがなってはいけない表情をしていた。
その後、ハンガーが行方不明になってしまったため、ベーキウたちはハンガーの海賊船を引き連れて岸に戻った。
「とりあえず俺は、ここにいる奴の部下を引き渡してくる」
「ああ。分かった」
「ハンガーはまたここにくる。その時はまた手伝ってくれ」
「もちろんだ」
ベーキウがそう言うと、ヤイバは手を上げて去って行った。シアンはベーキウたちを見回し、ため息を吐いた。
「しばらくは休みましょう。いろいろあったし」
「そうじゃのう」
「私も……同意見」
「ああ……」
ベーキウたちが返事をした後、各々の自由時間になった。シアンは買い物へ向かい、キトリはベーキウと目を合わせるのが恥ずかしいため、部屋に戻ることにした。で、ベーキウは浜辺で海を見ていた。
俺はキトリとキスをした……んだよな?
そう思いながら、ベーキウは自分の唇に手を触れた。ファーストキスはレリルだったのだが、人工呼吸と言う形でキトリとキスをすることになり、ベーキウは少し動揺していた。そんな中、砂からクーアが現れた。
「ベーキウゥゥゥゥゥ! キスをしてくれェェェェェ!」
「うわァァァァァ!」
いきなり現れたクーアを見て、驚いたベーキウは後ろに倒れた。クーアはベーキウの上にまたがり、笑みを浮かべた。
「ふっふっふー。キトリとチューしたんじゃ。なら、今度はわらわとチューしても問題ないじゃろう」
「どういう理屈だ! キトリとのキスは人工呼吸って言うちゃんとした理由があったんだよ!」
「理由? そんなのは言い訳じゃ! キトリが羨ましい! 羨ましいからキスをする!」
「そんなの言い訳じゃねーか!」
「わらわの場合はいいのじゃー!」
と言って、クーアはベーキウに飛びかかろうとした。だがその時、クーアは足をくじいてバランスを崩した。
「あ、マジでやばい」
「クーア!」
危険だと察したベーキウは、クーアを助けるために前に出た。クーアはそのままベーキウを巻き込んで倒れた。その時、クーアは口元が苦しいと感じた。目を開けると、目の前には目をつぶっているベーキウの顔があった。口を見ると、クーアの口はベーキウの口とくっついていたのだ。
「うおっしゃァァァァァ! ベーキウの唇ゲットだぜェェェェェ!」
ベーキウとキスをした。そのことを察したクーアは立ち上がり、何度もガッツポーズをした。ベーキウは立ち上がり、顔を赤くしながら唇を触っていた。
「おいおい……今度はクーアと……」
「一度やったんじゃから、二度目もいいはずじゃ! じゃからもう一度」
「させるかボケェェェェェェェェェェ!」
その時、ちょうど買い物から帰ってきたシアンが魔力を開放し、クーアに攻撃を仕掛けた。
その日の夜、ベーキウは宿の温泉に入っていた。
まさか、一日で二人とキスをするなんて。
そう思いながら、深いため息を吐いた。そんな中、扉が開いた。誰だろうと思っていると、突如上から人が降ってきた。
「ベェェェェェェェェェェキウゥゥゥゥゥ!」
降ってきたのはシアンだった。全裸のシアンは無理矢理ベーキウに抱き着き、湯船に押し倒した。
「オッバァッ! シアン、いきなり何するんだ!」
「キトリから聞き出したわよ! 今日、キトリとチューしたんだってねぇ!」
「あれは人工呼吸だから、ノーカウントだと思うが」
「ノーカンじゃないわよ! それで、あのおばさんに唇を奪われた! その結果! ヒロインの中で唯一キスをしていないのは私だけ!」
と言って、シアンはキス顔になってベーキウに迫った。ベーキウは恥ずかしさのあまり、シアンから離れようとしたのだが、シアンは魔力を使って光の手を発しており、ベーキウの体を封じていた。
「なっ! 光の魔力をそんなことに使うなよ!」
「気にしないわよ、そんなことォォォォォ!」
そう言って、シアンは無理矢理ベーキウとキスしようとした。そして、無理矢理な形でシアンはベーキウの唇を奪うことに成功した。
「ブッファッ! ああ……キトリとクーアに続いて俺は……」
「うっしゃァァァァァ! 念願のベーキウとのチュー、達成したわァァァァァ!」
シアンは嬉しさのあまり、大声でこう言った。ベーキウはため息を吐いて気を落とす中、シアンは自身の胸をベーキウに押し当てた。
「な……何をするつもりだ?」
「決まっているでしょ? キスの次はそれ以上のことをするのよ!」
「お前は一体何を考えているんだ! この小説を十八禁にするつもりか!」
「そのつもりよ! 今日からこの小説は十八禁コーナーに移動するのよ! さぁ、早くあそこを」
「バカなことをしてないでよ」
風呂場の入り口からキトリが現れ、闇の魔力でシアンを攻撃した。攻撃を受けたシアンは宙を舞い、そのまま下の砂浜に落ちた。
「助かったよ、キトリ」
「本当にしょうがない勇者ね……」
「ああ。確かにな」
ベーキウはそう答え、空を見上げた。夜空には、美しい星が光っていた。
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