危険な海へ釣りに行こうよ
翌日、ベーキウたちはバスを利用してブラッドシーへ到着した。外に出たと同時に、クーアは苦しそうな声を上げながら腰のストレッチを始めた。
「アアアアア……年寄りに長時間のバス移動はきっついわぁ……」
「こんな時だけ年寄りみたいなことを言わないでよ。きついのは私も同じよ。あー、ケツが痛い……」
シアンは尻をさすりながらベーキウに近寄った。
「ごめんベーキウ……ちょっと肩貸して……」
「ああ」
苦しそうなシアンの声を聞いたベーキウは、思わずシアンに肩を貸した。そんな中、キトリは目を輝かせながらブラッドシーを見ていた。
「これが……海」
「何じゃ、キトリは海を見るのが初めてなのかー?」
腰のストレッチを終えたクーアがキトリに近付いてこう聞いた。キトリは目を輝かせながら何度も頭を振った。
「その様子じゃと、本当に初めてみたいじゃのう。賢者になる前は修行の一環で、別の海へ向かったが……潮のせいで髪の手入れが大変じゃったなー」
と、クーアは過去のことを思い出しながらしみじみとこう言った。
その後、ベーキウたちは近くの港へ向かい、どうやってクレナイザメを捕獲するか話を聞くことにした。
「さて、漁師さんがいればいいんだけど……」
ベーキウはそう言いながら周囲を見回した。すると、作業服を着た漁師らしき人の群れが歩いているのを見つけた。
「すみませーん。聞きたいことがあるんですけど」
「ん? あんた、誰だい?」
「自分はベーキウ・オニオテーキと言います。ある道具を作りたいんですが、素材でクレナイザメの目玉が必要らしくて、クレナイザメを探しているんです」
ベーキウの話を聞いた漁師たちは、恐怖で顔が引きつった。
「あんた、あの凶暴なサメと戦うつもりかい? 背中にでっかい剣を担いでいるけど、それでもあんたじゃああのサメには勝てないよ!」
「クレナイザメは海の中じゃあ百キロ以上の速度で走るんだ。車より早く走るんだぜ! それに、牙も鋼のように固く、嗅覚も犬以上! 血の臭いを嗅ぎつけたらすぐに襲われる!」
「海の中じゃああいつに敵う奴はいない! どんな奴でも、あいつを仕留めることはできないだろうよ」
と、漁師たちは大声でこう言った。この反応を見たベーキウは、クレナイザメが漁師から恐れられている存在だと理解した。だが、話を聞いていたシアンが高笑いしながらこう言った。
「たかがサメ、私の敵じゃないね!」
シアンの存在を知った漁師たちは、驚いた声を上げて後ろに下がった。
「あんたはダンゴ一族のシアン!」
「まさか、こんなぼろっちい港にくるなんてねぇ」
「あんたがいるんなら、クレナイザメなんて楽に倒せるねぇ!」
「そうそう! 私に任せんさーい!」
漁師の言葉を聞き、上機嫌になったシアンは高笑いを続けた。その様子を見ていたクーアは呆れたようにため息を吐き、こう言った。
「調子に乗るなシアン。油断したら、サメのご飯になっちまうぞ」
「確かにそうだね。それじゃ、どうやってあいつらの元へ向かうか考えないと」
シアンがこう言うと、漁師の一人が何かを思い出したかのようにこう言った。
「クレナイザメを釣りたいなら、あの人に相談してみるといいよ」
「あの人って?」
「ヒデッキーさんだよ。あの人はクレナイザメを生涯のライバルと勝手に決めつけ、クレナイザメを釣ることに命を懸けているんだよ」
「俺たちが安全に漁に出れるのはあの人のおかげだ。そうだ、ヒデッキーさんは今どこにいるんだ?」
漁師たちが辺りを見回していると、建物の上から高笑いが聞こえた。
「誰か俺の名を呼んだようだな。誰か俺の助けが欲しいようだな!」
この言葉の直後、建物の上から男性が飛び降り、見事に着地した。ベーキウは男性に近付いてこう聞いた。
「もしかして、あなたがヒデッキーさんですか?」
「その通り! 俺はヒデッキー・ハイブリッジ! クレナイザメ狩り専門の漁師だ!」
ヒデッキーは自己紹介をしながら、ベーキウたちに握手をした。シアンはヒデッキーに詳しいことを話そうとしたのだが、テンションが上がっているヒデッキーは勝手に話を勧めた。
「話は聞いた! 君たちは何らかの理由でクレナイザメの目玉が欲しいのだろう? それなら、今すぐ俺と漁に出よう!」
「え……今すぐに!」
ベーキウは目を丸くして驚きながらこう言った。クレナイザメの目玉は売店で売られていると思っていたからだ。
「あの、クレナイザメの目玉って売られてないんですか?」
「珍味として大人気だから、すぐに売り切れになってしまう! 今はもう売ってないぞ!」
その話を聞いたベーキウは、大変なことになったと心の中で呟いた。
数分後、ベーキウたちはヒデッキーの船の上にいた。
「よし! それじゃあ行くぞ!」
ヒデッキーはそう言うと、船のエンジンを入れて動かした。船は激しいエンジン音を鳴らし、猛スピードで海の上を走った。
「うぎゃあああああ!」
「ちょっと、早すぎるって!」
「目が回るゥゥゥゥゥ!」
「これ……まずい」
いきなり走り出した船の上で、ベーキウたちは騒ぎ始めた。ベーキウたちが騒いでいるのを察したヒデッキーは、後ろにいるベーキウたちの方を見てこう言った。
「あんたら、船は初めてかい?」
「初めて。初めてです! もう少しスピードを落としてください!」
ベーキウがこう懇願すると、船は急ブレーキをかけて動きを止めた。船が止まったことを確認したベーキウとキトリは、ふらつきながら外に出て倒れた。
「酔った……」
「気持ち悪い……」
倒れたベーキウとキトリを見て、クーアは近付いた。
「初めての船がこれじゃあ船酔いするのう……」
目を回すベーキウとキトリを安静にした後、クーアはシアンの姿を探した。
「おいシアン。お前はどうじゃ? 吐きそうかー?」
「何とか大丈夫」
遠くからシアンの声が聞こえたため、何をやっているのか気になったクーアはシアンに近付いた。シアンは釣り用の道具を準備し、やる気の表情を見せていた。
「何じゃ、クレナイザメを釣るつもりか」
「そのつもり。私、魚釣りが趣味だから」
そう言いながら、シアンは鼻歌を歌いながらヒデッキーの元へ向かった。クーアは旅路の途中でシアンがよく釣りをしていたことを思い出し、小さく呟いた。
「食料確保のためじゃなくて、趣味を楽しんでいただけなのか。まぁ、食料の確保にもつながったから、いいとするか」
シアンは釣り針にエサを付け、海の上に垂らした。それを見たヒデッキーは、笑いながらこう言った。
「オイオイ勇者さんよ、そんなちっぽけな釣り竿でクレナイザメを釣るつもりかい?」
「まーね。この釣り竿、結構頑丈なんだよね。これで巨大な魚を釣ったことがあるんだー」
「そうかい。それじゃ、期待していますよっと」
ヒデッキーはそう言って、一度に大量の魚を釣るための機械を動かした。それを見たシアンは感心しながらこう聞いた。
「機械を使うのね」
「ああ。一気に大量の魚が取れるし、クレナイザメも取れる。こいつは素晴らしい機械だぜ」
シアンの質問に答えながら、ヒデッキーは笑いながら魚捕獲用の機械を叩いた。その直後、機械から破裂音が響き、隙間から白い煙が発した。
「あれ? おかしいな、今日の朝は何ともなかったのに……ちょっと待ってくれよ。メンテナンスを行うから」
と言って、ヒデッキーは機械の上部を無理矢理開けた。その瞬間、爆発音と共に白い煙が周囲に舞った。
「ありゃま……丁度運悪く、今日で寿命だったみたい……」
ヒデッキーは口から白い煙を吐きながらこう言った。シアンは釣り竿を見て、これでクレナイザメを釣り上げるしかないと考えた。
シアンが釣りを行う中、船酔いでダウンしているキトリは何かの気配を感じ、周囲を見回した。
「どうかしたか……キトリ?」
ベーキウに尋ねられたが、周囲に何もいないことを把握したキトリはベーキウの方を見てこう言った。
「何か変な気を感じたけど……気のせいみたい」
「そうか。酔いはどうだ?」
「まだ収まらない。目も回るし、そのせいで感覚がおかしい」
「俺たちは休むことに専念しよう……情けないな……俺」
「初めての船だから仕方ないよ……ウウッ」
ベーキウとキトリは苦しそうな声を上げながら、ひたすら空を見ていた。
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