■【第19話】『渡航プログラムと“ゲーム”』
『ゲートは自然物ではない。では一体誰が仕組んだものか。神なのか、それとも異界の技術者…。どちらにしても解明を急がねば…』
“The gate is not a natural object. So who could have constructed it? Was it a god? Or an engineer from another world? Either way, we must hurry to find out the answer...”
ロティアさんに招かれた建物…ここは教会か。
入ってすぐ礼拝堂になっているが、その正面には…巨大な光の環が浮いていた。
「なあ、シーラン。これってもしかして」
「うん。タクヤ。これ、ゲートだよ」
オヤジが言っていた、第二次大戦後に現れたという『ゲート』と呼ばれる異世界への門。
この目では初めて見る…。
大きさは、直径3メートルってところか。
外周と内周、二重の光の環が白く光りながらゆっくりと回っている。
ゲートの内部は青黒く鈍く光っており、奥はどうなっているか全く分からない…。
「何て神々しいんだ…」
美しさに惹かれて思わず手を伸ばす。
「触らない方がいいよ。生身の肉体は触れるだけで消し飛ぶからね」
何と、コワイことを言う。シーランもウンウンと頷いている。
だけど、これが正規のルートっていうのは、どういうことだろう?
「少し説明するね。本に認められた渡航者候補は、
守護獣に導かれ、経験を重ね、ここから現れることになっている。
数年前にここを訪れたのは“ウィル=アレス”、美しい銀髪の女性だったんだ」
「女の人!?」
「どうやら彼女は僕の事を知っていた様だったけど…。
はぁ、僕は自分のことを忘れてしまっているからね」
そういって、頭をかく。
「彼女は何かを悟ったように言葉を選びながら、外の世界のことを色々教えてくれた」
「帰還プログラムは既に始まった。各地で戦いも始まったそうだね…あと4人…何とか期限内に到着してほしいな」
そういや、残り時間ってのがあったな。
「シーラン、残り時間はあとどのくらいなんだ?」
「タクヤはもうクリアしているよ。あと4人、本の残り時間でここまで来られないと資格を失うの」
前言ってた、ゲームのルールってやつか。
「期限切れになるとどうなるんだ?」
「本が初期化されるよ。守護獣も本の中に戻ってやり直し。
別の候補者が現れるまで待たないといけない」
ロティアさんが説明する。
「すべての法武を解放して、ゲートエネルギーを回収してくる。
そうすることでネイツへの道は開かれるんだ。」
「法武…って、これですか?」
さっき石像が落とした《剣》と《ペンダント》を見せる。
「そう、それが法武だよ。武器とアクセサリがセットになっている。ペンダントを首からかけてごらん。」
言われた通りにしてみると、、、
≪ヒィィィィィィィィン!≫
超音波の様な耳鳴りと共に、辺りの空気が静まり返っていく。。。
…って、なんだ!? いつのまにか、身体の周りを二層の光のリングが回っている…?
これも…ゲートの一種?
「これは!? 一体どういうことなんですか? 本と法武の関係って?」
「ふふっ。ゲートについて少し話すね。見せた方が早いかな」
ロティアさんが右手をかざすと、目の前にはマンホール程度のゲートが現れた。なんだ?…灰色。
「これが僕が出せるゲート。世間では“パーソナル・ゲート”って呼ばれてるらしいね」
本当だ。小さいけれど、二重の光の環。
「例えば、こう」
そう言うと、ゲートを壁まで移動させて…
≪ホワホワホワホワ…≫
二重の光の環が広がって、中から風景が浮かび出した。
荒廃した砂漠のような風景。空は赤黒く、砂塵が吹き荒れている。
「ちなみに、これは今のネイツの姿なんだ」
「これが異世界ネイツ…ん?なんだ…無数の石板が並んでいるが、砂嵐がすごくて見えないな」
「僕にも、ここがネイツであること以外、分かることは無いんだ。これは見えているだけで触れることは出来ない」
ロティアさんは、そう言って風景に触ろうとするも、
ホログラムや蜃気楼のようにスカスカで触れることは出来なかった。
「例えば、これがこのゲートの能力。まあ“投影”とでも言うのかな」
そう言って、こぶしを握ってゲートを閉じた。…どういうことだ?
「つまりね。それぞれのゲート特有の効果、効能があるんだよ。
キミのペンダントにはアイテム効果としてのゲート能力が備わっている。色は何色だった?」
「え…っと、黄色…ですけど」
「ステータス系だね。何かあったときに助けてくれるアイテムだと思うよ」
「そんなことがわかるのか」
「タクヤくん…だったよね。キミにもお願いするよ。どうかゲートを閉じて来て欲しい」
「ゲートを…閉じる??」
「その法武は、ゲートを閉じるために必要なもの。
法武にゲートエネルギーを吸収させて戻ってきて欲しいんだ」
「さっきも、そんなことを言ってましたね…
それがもしかして“渡航プログラム”…ゲームのメインイベントなんじゃ…」
「ふふっ、ご名答だよ。本、守護獣、法武、そしてゲート。
全てはネイツへ渡るための道…どうか協力して欲しい」
ロティアさんは深々と頭を下げる。
「…タクヤ、おねがい」
ここに来て、今まで黙っていたシーランも口を開く。
…おれは、手にした法武の剣の柄を握りしめ、身体を回っている光のゲートを感じながら、
まるで、これから訪れる運命を実感する様な、妙な心地に陥っていた…。
「…ふう。俺が選ばれたものって言うんなら、とことんやってやるさ。
改めて…“ゲーム”、参加だ」
覚悟は決まった。オレは、シーランとゲートを閉じに行く。
オヤジの真実に近づいて、そして必ず辿り着いてみせる。
…ネイツに渡るかどうかは、まだ分からないけどね(笑)
そういえば…潜水艦ポセイニアに置いた来た「亜衣さん」のことが気になる。
それに、氷漬けのまま置いてきた「真堂香澄」のことも。
次回「真堂香澄とクロカ」へ続く。




