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■第16話 そのころの日本④

『パーソナル・ゲートの研究はまだまだこれからだ。ゲート因子を持つものが起こせる稀な奇跡。だがその可能性はゲートの向こう側への渡航へと直結するものだ。』

“Research into personal gates has yet to begin. It's a rare miracle that can only be performed by those with the gate factor. But the possibility of this happening is directly linked to travel to the other side of the gate.”

「自由徳心学校」…、この学校はやっぱりヤバかった。

異世界に渡るための…ゲート渡航の実験場だったんだ。


エリコ先生、生沢さん、北条さん。そしてオレ、岩永優希。

この学園の秘密を握った俺たちは、一斉に脱出を試みた。

もう、退学だなんだって言ってられない。

なんたって、実験台にされるところだったんだからな!

しかも今はオレ、ゲート因子を注射されてモンスター化してるんだから!

無事に脱出して、早く生沢さんに元に戻してもらわないと。


で、今。目の前には、何故かこの学校の校長が立っている。

全校集会でしか目にしたことの無かった、ただの小太りなオッサン…と思いきや。


「…ゲート・アンロック」


校長がそう唱えた頭上には、さっき見たゲートとは比べ物にならないほど巨大なサークルが現れた。

本当に異世界に渡れるゲートなのか? 何か禍々しい感じがする。


…そういえば、校長の腕にも「例の刻印」があった。

そうか、あれがゲートを呼ぶ印ってわけだな。

やっぱ、この学校の人間にはタダモンはいないってことだね…

頭上のに解放されたゲートは、微振動を繰り返しながら少しずつ近づいて来ている…。


「フフフ。派手に動いてくれましたね…あの方からこの学校を任されている以上、

 これ以上動かれては困るのだよ。消えなさい。亜空間の果てにねぇ」


「おいおい、センセッ! これってやべぇんじゃないのか!? 何の能力もないオレはどうすりゃいい?」

北条さんが錯乱してまくし立てる。


「ちょっと黙ってなさい! 生沢クン! 何かないの??」

エリコ先生が叫ぶ。


「今やってますよ、お静かに。因子解析中」

そう言って、この非常時にノートパソコンを開いてカタカタ始めてやがる!?

うそだろ!?


それを横目に校長が口を開く。

「言っておくが、我々は悪ではない」


…何をいまさら。


「忘れてもらっては困るが、この学校は政府公認の養成機関だ。

 核兵器を所有出来ない日本にとって、ゲート研究は、

 国際的優位に立てるまたと無い機会に他ならないのだよ」


そういえば、最初のゲートは戦後まもなく発見されていたって、言ってたな…。


生沢さんがカタカタやっていた手を止めた、

「…それ、不完全だな」


「ガルルル?(生沢さん?)」

思わず獣人化しているのを忘れて、生沢さんに問いかける。

生沢さんは勝ち誇ったようにノートPCを閉じ、頭上の巨大ゲートを見やる。


「正確に言うと、あれはゲートじゃないな。

ゲートってのはその名の通り、≪向こう側の世界≫に通じている通り道のことだ。

今、ゲート因子を波長で送ってみたが…このゲートまがいのサークルはどこにも通じていない。

ただの亜空間のホールに過ぎない。」


「…ふん。腐っても鳥海博士の元助手か。まあ、その通りだが。それがどうした」

「なに?」

「我々の研究は大きく2つあるのだよ。異世界への渡航はそのうちの一つ。

もうひとつは、亜空間そのもの研究だ」

「…」

「亜空間は通常の宇宙空間とは違う。未知であるがゆえに、いかようにも研究のし甲斐があるのだよ」

 だから渡航者は必ずしも異世界に渡れなくても良い。

 その身に何かしらを“宿して”帰って来てくれればね。」


「…パーソナル・ゲート…か」


「ハハッ、ご名答! 自身の生命エネルギーと引き換えに開くことが出来る“個人の”亜空間! 素晴らしい可能性ではありませんか」

「一体…何人が成功した? パーソナル・ゲートはまだまだ偶然の産物だ。…ほぼゼロに近い数字のはずだが」

「だが、ゼロではない。成功例が一人いれば十分な研究対象となる」

「無謀な! 博士もしきりに言っていた。ゲート因子の解明が先だと!」

「生沢クン、甘いですな。政府は巨額な投資を続けている。待ってくれないのですよ。私も強く押されておりましてねぇ。

 明確な成功例を生み出さねばならないのですよ。言ってみれば、この学校の真の卒業生をね」


「ふざけるなぁッ!」

ここで北条さんが怒号を上げる!!


「娘は喜んでこの学校に入学したんだぞ! スカウトされて才能を認めてもらえたと!

 現に研究者として採用されたと聞いていた…聞いていた…のに!」


「北条さん、おちついて!」

エリコ先生が冷静に制する。


「北条?…あぁ、思い出しましたよ。あのお嬢さん、あなたの娘さんだったんですか。確かに彼女は有能でしたよ。独自に亜空間と冷気に関係について、熱心に研究しておりましたなぁ。

 ですが誤解されては困る。彼女に関しては自分から渡航を志願したのですよ」


「うそをつけーーーーーー」           

「ガルッルルルル…!(あぶない! 待って!)」

とっさに、殴りかかろうとする北条さんを抑え込んだ。肥大化したパワーが役に立ったな。


「本当ですよ。“適合者”…つまり3年に進級した候補者たちはここ数十年で100人にも満たない。本来なら全員亜空間に送り出したいところでしたが、一部例外が現れた…。」

「お嬢さんはその“例外”のうちの一人。そういえば、さきほど西園寺クンとも会ったのでしょう?…彼も“例外”。生沢クン…今の君と同じ、と言えば分かってもらえるかね?」


「まさか」


「そう。“例外者”は開けるのですよ!パーソナル・ゲートを。亜空間のゲート因子を持っているだけで、渡航することなく発現することは、まさに奇跡! そのままでも十分研究対象となる…。だが。」


「…彼女はそれを嫌ったのね」

エリコ先生が割って入る。


「…ふん。上手く上に根回ししたらしいな。お達しが来たのだよ。『研究よりも亜空間へ送れ』とね。我々としては残って欲しかったのですが…まあそれはいい。しゃべりすぎたようですね」


校長の左腕の刻印が色濃く紫色の光を放つ。


「開校以来、皆のエネルギーを吸い上げ蓄積した、巨大亜空間です。どこに通じているのかも通じていないのかも分からない。ワクワクしませんか?」


≪ゴゴゴゴゴゴ≫


だ、だめだ。もう覆い尽くされるっっっ

エリコ先生は、ただ上空を睨みつけている。

北条さんは頭を抱えたままうずくまっているし、生沢さんはまたパソコンをカタカタやりだした…。

オレは…オレはどうすれば…!


「…やめなさい。組月くん」


聞きなれない声。…誰だ?

クミツキ?…と呼ばれたのは…校長のことなのか?

その男は、ゆっくりと近づいてきた。この人…どこかで見た気が…。


「やりすぎだよ、キミ」

「あなたは…理事長。これはこれは、わざわざお越し頂くとは…」


「…ゲート・ロック」

そう言って、指をパチンと鳴らした。


<<ゴゴゴゴゴゴゴ>>


亜空間は再び上空へを離れていき、その姿を消した。

どうなってるんだ…? ひとまず助かったんだけど。

皆は一斉にこの男を見やる。

男は深々と被っていた帽子を取ってこちらを見据えた。


「申し遅れたね。私は、自由徳心学校の理事長をしている「筈木甚句(ハズキ ジンク)」という者だ。

ハズキ…? やっぱりこの人、どこかで見たことが…そうだテレビだ!


「今の内閣の…官房長官よ…!」

エリコ先生が震えながら小声で漏らした。あれ?…何か怒っている?


「まだ、私が出向くつもりではなかったのだが…。予定よりも早く、こうも荒らされては…ね。

…久しいな、エリコ君。ご苦労だった」


「…おひさしぶりです。これは一体どういうことなんでしょうか」


何か、変だぞ? どういうことだ? ご苦労だった…て?


「君なら、いずれ動くと踏んでいたのだが、こちらへの報告が先だと思っていたので先を越されたよ」

「両方に通じていた、というワケね。私をワザと泳がせておいたということ?」

「悪く思わないでくれたまえ。第三者機関の内偵は必要だったのだよ。キミは期待以上に調べ上げてくれた」


「…!」

…え? え!? 内偵って? エリコ先生も学校側のスパイだったってこと? 訳が分からなくなってきたぞ。


「あなたが糸を引いていたってことですか。筈木官房長官」

誰もが言いたいことを生沢さんが言ってくれた。


「生沢…舜太郎くんだね。キミをあぶり出せたことが一番の収穫だったよ。竜条から持ち逃げされた研究データはキミが持っている可能性が一番高い」

「…質問に答えてくれますか」

「その通り。組月校長も言っていたでしょう。この学校は政府が設立したものだと。私こそが最高責任者だ」


「じゃあ、私が依頼された学校の不穏な研究を暴くというのは」

「ふむ。学校側が実際にどのくらい秘匿に出来ているのかを測るための探偵役、といったところだな。

 暴いたところで公式に発表するつもりなど無い。無論、組月校長も知らないことだったがね」

「よくも、だましたわね…!」

「そうではない。よくある保険じゃないか。こんな監査なんて珍しくもなんともない」


「なんで…政府が、こんなことを」

北条さんが声を絞り出す。


「代々政治家の家系である、わが一族の悲願でもあるのだよ。核が持てない以上、代わりとなる切り札を…ね」

「この国も少子化で、将来的には中国あたりに吸収されてしまう。

 その前に何としても、いくつかの成果を得なければならない。ゲートの活用、本の究明、幻獣の研究、やることは山積みだ」


…やばい。国は色々と突き止めている。国家権力の恐ろしさを痛感するね…

すると、意外な言葉がかかる。


「君たち。私と取引しないかね? 正直、君らをここで始末することは難しくない。

 ここでの一部始終も見せてもらったよ。校長、西園寺クンをここへ」

「はい」


校長は直ぐに西園寺先輩を連れて来た。先輩はジトっと睨みを利かす。


「さっきは、やってくれたよね…。生沢さん、あんたやっぱり厄介だ」

「まぁ待ちたまえ、西園寺クン。君から見て…彼らをどう思う?」

「やっかいな連中ですよ。間違いなく研究のジャマになります。鳥海拓弥ともども始末すべきかと」


!!拓弥のこと。やっぱり何か知ってやがったな!!

「グルルルッ! ガールルルルッ!(このやろう! 拓弥をどこにやった!)」

「優希君、落ち着いて。拓弥くんのことは私たちもマークしているから大丈夫よ」


「ほう? それは興味深い。色々とお聞きしたいところですなぁ、武田先生」

校長が喰い付く。


「フフフ。全員連行しなさい。なに、色々とお話を伺うだけですよ」


筈木がそう発すると、背後には多数の機動隊が。

だめだ、これじゃ逃げられない。…拓弥。俺たちどうなっちまうんだろうなぁ…。

こうしてオレ、岩永優希も間接的に拓弥の一味になっちまった。

今は、ご丁寧に連行されているよ…。

どうなっちまうんだろ。拓弥…お前結局、あの夜、何を掴んだんだ?


次回からは、拓弥の視点に戻るぜ。

次回『聖地到着』

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