■第15話 そのころの日本③
『ゲートは亜空間に繋がっている。人類が入って良いものかどうかは分からないが、きっと未曽有の奇跡が眠るに違いない。私はその研究に没頭する』
“The gate connects to a subspace. I don't know if it's OK for humans to enter, but I'm sure there's an unprecedented miracle lying there. I'm going to devote myself to researching it.”
ドライアンデッドたちに囲まれ、絶体絶命の岩永優希、北条、生沢舜太郎。
舜太郎が、咄嗟に優希に打ち込んだ「ゲート因子」の注射。
それは優希の身体を大きく変貌させ、
ドライアンデッドたちを優に超える背丈にまで変貌した。
❖ ❖ ❖
「グルルルルルル…!!」
オレはどうなっちまったんだ。体中が熱い。思考回路が焼ける様だ。
「大丈夫だ、優希君! それは元に戻る! それよりも今は、この状況を何とかしてくれ」
「なんだよ、それ!」…って言いたいが、言葉が出ない。
「…ガルゥルルルルル!」
ドライアンデッドたちが襲い掛かってくる。
「ミギャッ!」
「ヴァウゥオウ!!」
まとわりつく木人どもを、いとも簡単に蹴散らしていく。すごいチカラだ。
…あれ? 意識がハッキリしている。
「…ガル…、グギギギギギ」
(でも、しゃべれない!?)
あれほど猛り狂うほど燃え盛った胸の内は、次第の穏やかなさざ波のようになっていく…。
「…グル…グキキキルルルウ…」
(あれ? もう苦しくない)
「…良かった。安定したようだね。君に打ち込んだのは、亜空間でも人格が乖離しないための薬剤だ」
「君は既にゲート因子を持っている。本来“渡航者”に注射するんだが、間に合ってよかった」
「グガガガ、ガーガガガ!」
(なんてことするんだ)
「まぁまぁ。大丈夫だから。一過性の成分だし、エリコさんが中和薬を持っているから、
それで元に戻るよ。それまでは、ボディーガード、頼むよ」
「グギガ!? …グゴゲガゲ…」
(そうか!? …よかったー、それじゃ)
「グ……グゴーーーーーッッッ!!」
炸裂するパワーはすさまじい。あっという間に、木人たちを蹴散らすことが出来た。
「北条さん、大丈夫ですか」
「…あぁ。すまない生沢クン。もう大丈夫だ。娘の消息がつかめると期待していたんだが…。
あの様子だと、もう送られた後だったか」
「北条さん。渡航者たちを救う手段はまだあります」
「こちら側のゲートから送られた生徒がどうなったのかは知る由もありませんが…。
例えどこかでドライアンデッドの様に変質しているとしても、それは死ではありません。
鳥海博士から引き継いだ研究は私が続けていますので」
「…ググゥ…グルルルルルルルウゥン…」
「あっちも片付いたようですね」
「…! 西園寺を追わないと」
「ダメです北条さん。このまま旧校舎の奥に進みたいところですが…、今日は一旦引き上げましょう。深追いは禁物です。実際にゲート実験を目にしたところで良しとしましょう」
「グガグガギ」
(そうしたい。元に戻りたいし)
「…わかったよ」
そうして、俺たちは旧校舎を後に、エリコ先生の待つ保健室へ帰還した。
「おそかったわね、あら優希君、素敵な姿だこと」
「ギギギッリ?」(分かってて言ってんのか)
「自分が後を付けて行って正解でしたね。エリコさんの予想はズバリ的中でしたよ」
そう言うと生沢さんは、エリコ先生の目の前にカメラを数台並べる。
「…そのようね。詳しく聞かせて頂戴」
エリコ先生は丹念に写真やビデオの内容をチェックしながら、生沢さんからの報告を受けている…。
俺らをオトリにして、色々と撮影していたってわけかよ。
北条さんは気が抜けたように、床に崩れ落ちている。
「…そう。西園寺君が。それに、ゲートを複数展開させて、効率よく候補者を送ろうってことなのね。
もう、猶予はあまりなさそうだわ」
「…生沢クン、彼女は一体?」
「頼れるパートナーですよ、北条さん。今言えるのはそれだけです」
「グー、グガガガ」(なんか、暑いんだけど)
「悪いんだけど、もうちょっとそのままでいて頂戴。ここもそろそろ嗅ぎつかれるわ」
そう言うと、ポケットからスマホが数台出て来た。
先ほど発動した魔法陣と同じようなものなのか…。
「状況証拠は揃った。これをオトリに使って、脱出するわよ!」
そう言うと、一斉にスマホの電源を入れる。
<パパパパパパパパパパ>
例の光が走り、保健室全体が巨大な魔法陣に包まれた。
「こっちよ」
そういうと、保健室の棚がスライドし、隠し通路が現れた。
「あんた、すごいな」
北条探偵は、皮肉にも取れる称賛を上げる。
「皆さん、とにかく急ぎましょう」
「グーガガガァ」(早く出たい)
全員が入ると扉は閉まり、前方には薄明りが見えていた。
「みんな、覚悟しておいてね…出口は寮の真ん前、まだ学内よ」
「やつらがいる可能性があるってことですね」
そういうと、生沢は歩きながらバッグの中身をチェックする。
…なんだ? ノートパソコン?
「グ…グガガガ」(あの、センセ)
「そうね。もうひと頑張りしてもらうと思って、その姿は保険よ」
…ひどいぜ、先生。
そろそろ通路を抜ける…。通路の先は草むらのマンホールに直結していた。
<ギィィィィィィ>
まだ、辺りは真っ暗だ。だが、見えないのは好都合だな。
そんなことを思いながら、エリコ先生の誘導に続く。
するとその時、校舎で大きな振動と爆発が起こり、月明かりに黒煙が立ち込めていく。
保健室が爆発…したのか?
「さ、今のうちよ」
「…甘いですなぁ。武田センセ」
「!!!」
草むらに、一人の小太りの男が立ちはだかったいた。
あれ…?この人って、校長?? そうだ、この学校の校長先生だ。
なんでこんな時間に…って、そうか。全部知ってるってワケね…。
「ちょっと長く泳がしすぎた様ですなぁ。お仲間が釣れたところまでは良かったのですが」
学内のことに非常~にお詳しい。下手をすると私以上にね。あなたはどちらの関係者でしょうか?」
「ただの趣味よ。科学者なものでね。ちょっとばかり面白い研究材料を見つけたってだけよ?」
「そうですか。それで研究の進みは如何なものでしょうか?
…校長として、とても気になるところですな」
「茶番はやめろ! この学校の実態はもう調べてある! ゲートの実験材料に使われているってなぁ!」
北条が声を上げる。
「グルルルルガガガガ…」(全部知ってたのか、コノヤロウ)
「おやおや、岩永くん…ですかな。あなたは想定外でしたが、まあ知ってしまった以上は…ね」
この学園を出す訳には行きません。上にも迷惑が掛かりますもので…」
「やはり、竜条か…。この学校…都立を名乗っているということは…」
「そう、お察しの通り、政府も一枚噛んでますよ」
「よう校長さん。折角だ。つかぬ事を伺いたいんだが」
生沢さんが、最後尾から出て来て、いつになく神妙な顔で校長を見やる。
「生沢舜太郎…。あなたが釣れたのが一番の収穫ですよ。
…チョコチョコ本を嗅ぎまわっていたネズミが」
「否定しないよ。お陰で、大体の真相が分かったんでね。
鳥海博士の考えは間違っていなかったってことだ」
鳥海…? あぁ、拓弥の父さんか。竜条と組んで、考古学の研究してたっていう。
…考古学って、ゲートのことだったんだな…
「…で、アンタ。人間じゃねーな」
「………」
急に無言になった。気味が悪い。そのまま、左手を天に掲げて…あっ! 腕に魔法陣が!
「…ゲート・アンロック」
それだけ唱えると、腕の魔法陣が光を放ち、上空には寮をすっぽり覆うくらいの“ゲート”が現れた。
生沢さんはそれを見て驚嘆する。
「馬鹿な! パーソナル・ゲート? ここまで巨大なものが?」
「フフフ…我々の50年の研究成果をお見せするとしよう…」
「グギギギルルルルル…!?」(どうなっちまうんだ…!?)
今のオレは唸ることしかできないが、この状況を何とかしないと…きっと死んじまうっ!
拓弥…、お前…こんなあり得ないことに、巻き込まれてたってのかよ…!?
<次回予告>
拓弥…、お前が巻き込まれた事件ってのが、何となくわかって来たよ。
オレも立派に巻き込まれて、異形の姿で戦ってる…っって、これ、生き残れるのかよ!?
次回、「そのころの日本④」へ続く。




