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■第12話 航大と舞花の傑作

『ジャガロは何色にも変化する。それは魂が顕現した、まさに宝石そのものなのだ』

“Juggalos can change colors. It is the jewel itself that is the manifestation of the soul.”

氷と化した島で舞花さんを見つけた俺たちは、再び香澄の元へ戻った。

もう周りに敵はいなくなったが、香澄はまだ氷漬けのまま。重篤(じゅうとく)な状態だ。


「さて、これからどうすればいいんだろう…」


振りだしに戻った気分で、つい口にしてしまった。

すると、舞花さんがクロカに話し出した。


「こいつはただの氷じゃないね…。元に戻る見込みはあるのかい?」


『ある。だが確約は出来ない。これはカスミが正当な渡航者となる試練だ。

カスミの中にあるジャガロの秘めたチカラ。それが目覚めなければこのまま朽ちていくだろう。

すべてはカスミ次第。自力で這い出なければいけない』


舞花さんは珍しく押し黙り、しばらく考え込んでいたが…


「…拓弥クン。あんた、先に聖地に向かいな」

「え? だって、香澄はどうするんですか」

「コイツはアタシが看てるよ。こんなんでも、まあ一人息子だしね。

 事と次第によっちゃ、この鳥ヤロウにも落とし前を取らせないとさ」


そう言って鋭い眼光をクロカに向ける。すげえな。怖くないんだろうか。


『我もカスミに死して欲しい訳では無い。ここに居て共に見守ろう』


「どうする、シーラン」

『シーランには決められない。タクヤの行くところ、どこまでも』

「って言われてもな…。聖地の正確な場所も分からないし…」


「亜衣。アンタ一緒に行ってやんな」

「えぇ!? どうしてアタシだけ」

「香澄から色々と聞いてるんだろ? あのリュズって奴の目論見は相当ヤバイんだよ。あいつらに先を越される前に聖地に知らせないとね…世界をぶつけられて破壊されそうってことをさ」


「でも…」

「香澄のことは任せておきな。後から必ず合流させる。

今はとにかく一冊でも聖地に送り届けることが重要さ」


「…わかりました。香澄のこと、宜しく頼みます。…じゃあ、改めて宜しく拓弥」

「あ、はい。宜しくです。亜衣さん」

『シーランも!』

「うん。よろしく、シーちゃん」


「話は決まったね。じゃあ早速荷造りだよ。アタシのリュックからもいくつかアイテムを提供する。

亜衣、使い方を説明するから、こっちに来て受け取んな」

「ありがとうございます」


そう言って、いくつか見慣れないアイテムを亜衣さんにレクチャーしている。

ひと段落着いたのか、舞花さんはこっちに戻って来た。


「拓弥、ちょっといいかい」

「あ、はい。実は、僕もいろいろ聞きたいことがあります」


「アンタ、なんで渡航者に選ばれたと思う?」

「そんなの分かりませんよ。偶然見つけたこの炎の書からシーランが出て来て、

 訳も分からないうちに巻き込まれたと思ってます」


「…実はね。あんたのオヤジさん、航大も渡航者の一人なんだよ」

「なんだってえ!!!?」


思わず、喉の奥から自分でもビックリするくらい素っ頓狂な声が出た。


「ラストバードの書。最初の一冊を見つけたのは航大なのさ。

もちろん、そこから守護者ってやつが出て来たことも知ってる」

「…舞花さん。オヤジとはどんな関係なんですか」

「ビジネスパートナーだね。同業者ともちょっと違う。

彼が最初の本を見つけてから、お互いノウハウを共有して、あるプロジェクトを立ち上げた」

「…プロジェクト?」


「戦後になって発見された各地の亜空間へ繋がる“ゲート”。

オーストラリア、アルゼンチン、スウェーデン、アメリカ、アフリカ、そして日本。

各国は秘密裏に中がどうなっているか研究を開始した」


「やっぱり、6つあったんですね」

「あぁ。だがあと2つ、あるはずなんだ。本が全部で8冊だとすればね…

 とにかく、こっちは当時情報集めに各地に飛び回ったもんさ。

 お陰で命も狙われっぱなしだったけどね…。だが、ネタは確かだった」

「ゲートの研究は、各国独自に行われていた、と」

「そうさ。どの国でも有人探索まで行われたが、共通して皆、精神が破壊されて戻って来たんだよ」

「死んだんですか」

「いや、植物人間みたいになって、意思の疎通ができなくなっていた。まるで魂だけがどこかへ抜かれて行ったような感じだったね…」


「…ん? 何だかどこかで聞いたような気が…」


「有人探索を記録したレコーダーを解析したら、亜空間内を流れる独自の超音波が観測された。今度はその研究をやっていたようだね」

「だが、航大とアタシは集めた情報を元に、独自にゲートと本との関連性を見つけた。

ゲート内、つまり亜空間のエネルギー粒子と、本のチカラが発現しているときのエネルギー粒子が一致したのさ」


「どういうことですか?」

「本は亜空間を流れて、こっちの世界に来たっていうこと。その時に空いた穴が“ゲート”ってことだね」

「“穴”がゲート…?」

「航大は早速、本の素材研究に入った。本のやって来た世界について調べ始めたんだよ」

「オヤジが、本の第一発見者…」


「そうして開発されたのが『RDnU(ラドヌー)』と呼ばれる合成素材さ。

 亜空間の量子と掛け合わせて、超音波を遮断出来るようになった。航大は亜空間の向こうの世界へ行きたいと思うようになった」


「じゃあ、オヤジはやっぱり…」

「まあ、聞きな。それから安全な有人渡航までもうすぐというところで…資金が底をつきかけて…竜条に介入されたんだよ」


「竜条コンツェルンの?」

「そう。竜条耕蔵。研究を丸ごと買い取られたわ。悔しいけれどどうすることもできなかった。彼がスポンサーとなり、研究はさらに進められ『最初の本』は、ついに解明された」


「…! そうだ、思い出した」


オレは、自由徳心学校の西園寺先輩のことを思い出していた。

先輩は学校で『本』のことを教わったと言っていた。

そう、オヤジの著書『ネイツ源初聖典』に載っていると。

舞花さんが言っている事と、西園寺さんが言っていた事が…見事に一致する。


「…どうやら、少しは知っていたようだね」


ハッとして舞花さんを見やると、ニヤリを薄笑いを浮かべた。


「その最初の本の属性は『雷』、守護者の名は『ナンナ』、ネズミみたいな動物よ。覚えておきなさい。航大は必ず、ナンナを迎えに来る。ナンナを連れて異世界に渡るためにね」


「…どうして、ここまで教えてくれるんですか?」

「アタシは異世界に渡るつもりはない。けど恩恵はたっぷりと貰わないとね♪」

「あっそうか(汗)。 トレジャーハンターだからお金なんですね…」


「ふっ、航大は『解明に至った』情報だけは竜条に渡していない。

 竜条側もそれに気づいているからこそ、血眼になって追っているのさ。

 ナンナは恐らく…竜条の元に居る。捕縛されていると言った方がいいかもね」


「じゃあ、聖地よりも竜条コンツェルンに乗り込んだ方が…」

「バカなのかい。アタシや香澄でも手が出せない様な高度な軍事セキュリティだよ。捕まるだけさ。しかもアンタ、日本ではニュースにもなっているそうじゃないか」


「そうだった。竜条も手を回しているだろうし、日本へは当分帰れないか」


…そこへ、亜衣さんがかなり重武装したリュックを背負って駆け寄って来た。


「ッ! 準備OKです、舞花さん!」

「待ってたよ。じゃあ拓弥、香澄の代わりは任せたよ」

「代わりって…、彼みたいに強くないですよ…」

「そいつが居るじゃないか」


…。シーランが何食わぬ顔で俺たちを眺めている。


「そうですね。もっと『本』のチカラを使いこなさないと」

「亜衣も拓弥のサポート、任せたよ」

「はい! 迷わず聖地までガイドします!」

「よしよし。…ところで拓弥…手ぇ出すんじゃないよ。香澄に殺されるからね」

「だ! 大丈夫ですよ」


こうして、オレと亜衣さんは、先に聖地へ向かうこととなった。

しかし、今、この島は全体が凍り付いている。

人型のクロカが使ったチカラはとんでもない。まるで氷河期だ。

これだけのチカラがあっても、ネイツでは世界を救えないだなんて…。


「さ、いくわよ拓弥」

「あ、すみません」


舞花さんから渡されたリュックを背負って先に歩き出した。


「では、お先に行っています。あとは宜しくお願いします」

「フン、いっちょ前に。言われなくても承知さ」


それにしても、向かうはずだったジェット機も凍り付いて…島から出る方法はどうするのだろうか。亜衣さんはズンズン先に進んでいく。


「見て。舞花さんが渡してくれたソナーよ」


覗き込んでみる。確かに、レーダーに反応がある。これは…海底?


「ズバリ、潜水艦よ」

「潜水艦!? そんなものまであるのか」

「香澄のお母さん、舞花さんはとんでもない人よ。元軍人で、退役後はトレジャーハンターとして協会を設立、お金にがめつい様に見えるけど、集めたお金で基金を作っているの」


「ひょっとして、香澄も?」


ため息混じりに、首を大きく横に振る。


「カスミはガキよ。単にお金が好きなだけ。使うあてもないくせに、馬鹿みたいにため込んでるわ」

「そう…なんですか」

「だけど、親子そろって超一流。そんな彼らと対等に競っていたのが…あなたのお父さんよ」


また、オヤジの名が出て来る。何モンなんだ…一体。


「鳥海博士は、表向きは有名な考古学者だけど、舞花さんの教会“THO”にもしっかり加盟していたわ」


「オヤジはいったい、なにをしようと…」

「アタシも香澄から少し聞いただけなんだけど。航大さんはネイツに何らかの形で“干渉”出来たと思うの」


「なんだって…!!?? 向こう側の世界が見えたってこと??」

「わからないよ。カスミが少し漏らしただけだから。でも、もしかしたら、博士も世界を衝突させようとしている、リュズたちの企みには気づいていたのかも」


(ネイツ…原初聖典…。オヤジは見たのかもしれない。異世界の真実を。それを忘れない様に書き留めていたんじゃ…?)


歩きながら考え込んでいる内に、ドックへ到着した。


「ここよ」


亜衣さんはリュックからリモコンのようなスイッチを取り出し…押した。


≪ゴゴゴゴゴゴ≫


ものすごい土煙と共に、岩壁が割れて姿を見せたのは、、、、


「すごい。見たこともない様な潜水艦だ」

「これは、舞花さんと航大さんが共同開発した船『ポセイニア』よ。こんなところに隠してあったのね」


「ポセイニア??」


「カスミにも知らせていなかった。幻の軍事兵器ポセイニア。潜水も、地下も、陸も、空も飛べるらしいわ。何でも何とかっている特殊合金製で、多分だけど…ネイツに渡るために作られたものだと思う」


(特殊合金…『RDnU(ラドヌー)』か)


「操縦はどうするんですか?」

「アタシだってできないわよ。舞花さんから渡されたものがあるわ。えと、あった、起動コード。これを打ち込めば、あとは任せておけば大丈夫だって…」


「うぅ。とにかく寒い! 中に入りましょう」

「そうね、同感」


亜衣さんがリモコン操作すると、潜水艦上部のハッチが開いた。

亜衣さんに続いて、急いで中に乗り込む。


………驚いた。一面コンピュータだらけだ。

良く分からないけど、とんでもない技術だということだけは分かる。


「早速、起動するわよ」


そう言って中央の、おそらく艦長席に座ると、起動コードを入力し始めた。


≪ヴゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥン≫


艇内全体がぼんやり光をまとい始めた。

そうすると、前方モニターに何か映し出された。


『ようこそ、ポセイニアへ。私はナビゲーターの「ナスティ」です』


なんだなんだ!? これは…AI? 


『タチバナ アイ様をマスターとして認識致しました』

『ゲストのトリウミ タクヤ様、どうぞよろしく』


オレはゲスト…なんだな。まあ、立場上そうか。


「さっそくだけど、聖地に向かってもらえる?」


『聖地…サフランですね。既にインプットされております。現在のルートを検索いたします』


「既にインプット…。いつでも行ける様にしていたのか。おそらく、あとで舞花さんも来るつもりだったんだな」


「舞花さんはクールな人。だけど、いざというときは息子を取ったのね。ちょっと安心しちゃった」

「亜衣さんは、どうやって香澄たちと知り合ったの?」

「もともと幼馴染なの。あたし、両親は事故で亡くしていて、考古学者のお姉ちゃんと一緒に遺跡の調査をしていたところを、香澄たちもやって来て」


「びっくりしたわ。遺跡を買い取りたいって言ってきて。確か150億円だったかしら。何かの冗談かと思ったけど、本当だったみたい」

「遺跡は商売道具ではないって、皆断ったわ。香澄たちは遠慮して一旦は引き下がったけど」

「うん」

「入れ違いに別の業者を名乗る人達がやってきた。研究は交代するから、国にかえれって」


「そんな話は聞いていなかったからって反対すると…撃って来たの」

「現地に来ていた研究者も、住民も、沢山殺されたわ。この時おねえちゃんも行方が分からなくなったの」


「そこへ、舞花さんと香澄が助けに来てくれた」

「遺跡を取り返すことは出来なかったけど、生き残った人たちを保護してくれた」


「たった2人で…?」


「そう、たった2人。だけど、2人とも人間の動きじゃなかった。見たこともない武器をあやつって、襲い掛かってくる連中を全く寄せ付けなかった」


「見たこともない武器…」

「よく覚えていないけれど、多分そういう特別なアイテムを集めていたんだと思う」

「アタシは助けられて、舞花さんに衛生兵としての技術と護身術を教えてもらって、今に至るワケ」


話に聞き入っていると、ナスティが再びしゃべり始めた。


『ルート検索完了。聖地サフランまで82時間。向かいますか?』


「…えぇ! すぐに出発よ!」


『マスターからのコマンドを確認。目的地、聖地サフラン』


≪ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ≫


そのまま轟音とともに海中深く沈んでいく。。。

82時間…3日と少しか。

聖地…いよいよか。どんなところなんだろう…?

まだ少し整理する時間が欲しい…。

<次回予告>

潜水艦「ポセイニア」で海底を伝って聖地サフランへ向かう、オレと亜衣さん。

全く音を立てず、ナビゲーターAI「ナスティ」の進路采配は大したものだ。

そのころ日本では、竜条たちの動きが慌ただしくなって行く。

「自由徳心学校」は、今どうなっているのだろうか…?


次回、「そのころの日本」へ続く。

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