西園寺薫➀
華やかでミステリアスな転校生の登場に、どこか浮ついた空気を保ったまま時間が過ぎていく。昼食の時間になると、彼女の周りには人だかりが出来ていた。
「おい、涼。声かけて来いよ」
「やなこった」
ガク達と席を固めて、コンビニで買った弁当を口に運ぶ僕に、悪友達が唆す。
ガク以外に二人。バスケット部の副キャプテンで、後輩の彼女がいる大橋と、帰宅部でアルバイト漬けの日々を送っている伊藤。大橋は西園寺に興味が湧いている反面、この前、彼女と水族館に行った投稿をSNSに載せる程順風満帆のようだから、自分からはアプローチ出来ないようだ。
「じゃあ、俺が行こうかな」
伊藤が意を決して立ち上がると、僕達は歓声を上げた。僕はてっきり、ガクも何か口を出してくるものだろうと思っていたけれど、彼は朝以降、いつもの覇気がない。何か口を挟むでもなく、ただ茫然とサンドイッチを口に含んでいる。
「行け行け。そのまま落としちまえ!」
捲し立てる大橋に、僕は一瞬躊躇う。転校初日に、まるでトロフィーのように扱われるのはどんな人であれ良い気はしないだろう。けれど、僕は笑顔を取り繕って、伊藤の背に声を掛けた。
「良い所見せてくださいよ、伊藤先輩!」
そして、伊藤の行先、教室の斜め右側、西園寺の方を見つめる。
「西園寺さんって、休日何するの?」
伊藤が、持ち前の笑顔を携えて突撃した瞬間、周りを囲んでいた生徒達が一歩距離をとった。彼は入学以来、底抜けの明るさと爽やかなルックスから、多くの女子生徒を籠絡してきた。そのせいもあって、皆、彼の意図を感じ取っているのだろう。
「ねえ、教えてよ。意外とカラオケとか篭っちゃうタイプ?」
周りの女子達の訝しむような表情を無視して、ずい、と詰め寄る伊藤。
「何で貴方に教えなくてはいけないの?」
そんな彼を、西園寺は一刀両断した。
「そうよ。最初から馴れ馴れしいのよ、このチャラ男!」
一瞬遅れて、女子生徒達が西園寺の方に回り、
「決まったー! 伊藤選手、初戦敗退です!」
「どんまい、どんまい、切り替えていこう!」
僕と大橋から、ヤジが飛んでいく。みるみる伊藤の頬が赤く染まっていき、彼は無言で振り返ってこちらの方に戻ってきた。
「うるせえよ、お前ら! まだ試合は終わってないだろう!」
そう言って、僕の横にどかりと座る伊藤。こう言う時は、周りの雰囲気に乗って彼をいじるのが正解だ。だから僕は伊藤の肩を叩いた。
「あれは相手が悪すぎる。お前には元カノ位が丁度いいんだって」
「うっせー」
悪態つく伊藤を尻目に、僕は西園寺を見つめた。すると、驚くような発言が飛び込んできた。
「貴方達も同じ。あまり詮索しないでくれる?」
それだけ言い残すと、まるで他人が存在していないかのように立ち上がり、廊下の方へと消えて行った。よくフィックションでは、この手の言葉を前にした人々は陰口をすぐに始めるものだけれど、現実は違うようだ。困惑し切った女子生徒達が、もういなくなった西園寺の方を見つめていた。
僕は、遠ざかっていく背を見て————
『なんて羨ましい奴なんだろう』。
そう、思った。




