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プロローグ

 とある森の奥。

 小さく開けた空き地にその丸太小屋は佇んでいた。

 春の陽気な陽だまりに、小鳥が囀り、リスのような小動物がその様子を窺いながら木の枝を伝って忙し気に走り回る。

 その様子を跳ね上げ窓から眺めるのは、世捨て人然とした髭面の若い男だ。

 しばらくそうしていた男だが、小鳥が飛び立っていったのを残念そうに見送ると、机に置いていた革張りの本を取り上げて読書を再開する。

 不意に小屋の奥の扉が音もなく開き、その場にそぐわぬ執事服の老人が現れる。

 老執事は扉を閉めると無言のまま室内を進み、銀盆の上に乗った二つ折りの手紙を彼の主人の前に差し出す。

 主人――髭面の男が、それを取り上げて目を通す。

 興味なさげに手紙を読んでいた男だったが、その内容に微笑を浮かべる。


「これはまた、懐かしい名だね。まだ海を渡ること、諦めてないのかな?」

「――」

「ふーん? まぁ難しいね」

「――」

「いや、僕としては今更含むところは、……少しもないとは言い切れないかな?」

「――」

「ふふ。何でも僕のせいにしないで欲しいものだね全く。

 あ、そうだ。アレがあったろう。そろそろ動かなくなりそうだけど、まあいいか。送ってあげて」

「――」

「うん、手を出す必要はない。今回は成り行きだ」


 一礼して下がる老執事を見送り、男は読書を再開する。

 そして、その文字ひとつない真っ白な紙面に目を落としたまま独白する。


「さて、成り行きでどこまで楽しめるかな」


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