表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
21/27

21

 オリヴィアは緊張で身体を強張らせた。震える手をぎゅっと握りしめる。

「オリヴィア、さっきぶり。顔、真っ青だけど大丈夫?」

  いきなり心配されて驚いた。「大丈夫です」と答えてからすぐに頭を下げる。


「陛下、申しわけございません。私がいながらこの騒ぎを収められず、陛下の手を煩わせてしまいました」


 護身のためとはいえ、オリヴィアが剣を学ぼうとした結果、今の状況を作ってしまった。二人のそりが合わないこともわかっていた。ここは敵国で、もっと慎重に振る舞うべきだったのだ。

 

「別に気にしてないよ。これくらい遊びの範疇で、たいしたことじゃない。武器は危ないから取り上げたけど、大きな狼がじゃれて遊んでいたくらいで怒ったりはしない」


 オリヴィアはゆっくりと顔を上げた。刺すようなひりついた雰囲気は彼から感じられない。


 ミディル国にいた頃、カルロスの悪い噂はたくさん聞いた。

 冷酷皇帝は、血も涙もない男。人の尊厳を踏みにじる、残虐非道の人のはずだった。

 だから、怒らないのは意外だった。臣下であっても、気に入らなければ斬り捨てる人だと思っていた。

 

 ――前回、暗殺者のシェンナは彼に簡単に殺された。今回も、シグルドと一緒に処罰か、最悪殺されるのを覚悟していたけれど……。

 もしかして、自分に殺意を向けて来る相手には容赦がない、とか?


 臣下の争いごとには寛容なのだろうか。

 困惑していると、それが顔に出ていたらしい。カルロスは口角を上げた。


「まだ、俺のことをわかっていないきみにひとつ教えてあげよう。俺は保身的な貴族や、力でねじ伏せていた先帝とは違う。不満や意見があるなら聞こう。人が集まれば衝突は避けられないし、ケンカは起こるもの。大事なのは放置せず、向き合うことだという考えなんだ」


 カルロスは膝をついたままの騎士二人に、視線を向けた。


「どうした、二人とも。不満があるからいがみ合っていたんだろ。遠慮しているなら、俺が相手してやってもいいよ?」


 ケンカしろと言われた二人はひれ伏したまま戸惑っていた。

 カルロスはしかたないと言いたげな顔でため息をつくと、再びジラードたちの元へ戻った。オリヴィアも彼のあとを追って噴水前へ行く。


「わかったよ。みんな俺に怒られたいみたいだから、罰を与える。今日から三日間、二人はオリヴィアの護衛の任を解く」

 二人は目を見開いた。

「しかし」とジラードが食い下がったが、カルロスは手で遮った。

「俺がオリヴィアを護るから問題ない。二人は仲よく宿舎で待機と大掃除だ」

 カルロスは二人に命令すると、オリヴィアにも言った。


「オリヴィア。時間を作れと言っていたね。実は俺、今すごく忙しいんだ。手伝って」

「私が、でしょうか?」

 手伝うのはかまわない。むしろミディル国についての情報を入手できるかもしれない。けれど……

「時間を作ろうとしていただき、ありがとうございます。ですが、三日間、陛下が私を護るというのは……、」

「大丈夫。この世界で一番強いの、俺だから」

 ――この人、言い切った! そのとおりもしれないけれど、自分で堂々と、さも当然と言いたげに!

 

 オリヴィアの言葉を遮ったカルロスは、にこりと笑顔で無敵発言をすると、オリヴィアの肩を抱いた。そして、ジラードに向かって指を差した。

「オリヴィアが連れてきた護衛。ここで俺に逆らったり、敵う者はいない。姫は大切に扱うから、主が大事なら馬鹿なまねはするなよ」

 一瞬目を見張った彼はすぐに頭を深く下げた。

「……仰せのままに」

 シグルドは、渋い顔のままだったが、カルロスに従ってくれた。

 一時はどうなるかと思ったが、結果、シグルドをじっくりと休ませられる流れになって、オリヴィアはほっとした。

 カルロスの傍にずっといるのは今から気が滅入るし、正直不安しかない。

 ――弱音を吐いている場合じゃない。私が踏ん張らないと。


「行くよ。政務を放棄してきたから今頃ハリソンが怒っている」

 カルロスが先に歩き出す。シグルドはマーラに託して、オリヴィアはカルロスのあとを追った。



 食堂からは見えていたが、実際に立ち入るのは初めての区画だった。遠巻きに様子を見ていた者たちは作業の続きをはじめ、カルロスが近くを通ると手を止めて隅により、頭を下げる。見る限り、多種多様の民族がたくさん働いている。


 ――滅んだ国の民たちにもちゃんと役割を与えて、宮務めしているのね。

 朝食のとき、臣下の中にカルロスには熱い眼差しを、オリヴィアに冷たい視線を向ける者がいた。レオンティオ帝国よりはるか北の地出身の者たちだ。全員が不当な扱いを受けているわけじゃないと薄々感じていたが、実際に目の当たりにして確信しつつあった。

 ――けれど、ここにいる人がすべてじゃない。

 帝国の端々まで目を配るのには限界がある。優秀な人材も長年の戦で失っているはずで、どうやってこの巨大な帝国を統治しているのか、疑問だった。


 

「陛下。シグルドへの寛容な処分、誠にありがとうございました」

 執務室と言われた部屋の前で、オリヴィアはあらためてお礼を口にした。

「血の気の多い者は後を絶たないから日常茶飯事だよ」

 カルロスは部屋に入らず、オリヴィアに向きなおった。


「我が帝国は、急速に隣国を滅ぼしていったからね。歪みが生じるのもしかたない。膿は早めに気付いて出したほうがいい。だから、面倒な朝食会を毎日開いている」

「朝食で集まるのって、面倒だったんですか?」

「夜は別件で忙しいから飯と謁見を朝にまとめているのもあるけど、毎日野郎共と顔をつきあわせるのは、そんなに愉快なものじゃない」

 色々と疑問が頭を駆け回る。そうしている間に、両扉のドアが開いた。

 焦げ茶を貴重とした落ち着いた内装の部屋だった。奥には机のうえに、高く積まれた書類がいくつもある。

 その横には、困惑顔のハリソンが立って待っていた。オリヴィアを見たあと、カルロスに無言で目を向ける。


「ハリソン。前から助手を欲しがっていただろ。連れてきた」

「陛下。連れてきたではありません。ここは、その……」

「秘密情報が多いから簡単に部外者を増やせない。だろ。俺の妻になる者なら問題ない」


 カルロスはとんっと、オリヴィアの背を押した。


※加筆修正しました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ