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 カルロスは今日も忙しいらしく、食事をすませ臣下に軽くあいさつをすると、そのまま食堂から去ってしまった。

 彼がいなくなると、その場の空気は一気に気まずくなる。

 朝食はオリヴィアは強制だったが、他の臣下たちは任意だ。カルロスともっとお近づきになりたい文官、武官も食堂に詰めているが、その彼らから笑顔が消えるのだ。

 直接的な攻撃はされないが、あきらかに部外者を見るような目を向けられ、時には存在をないものとして扱われる。


 ――世間知らずの小娘って思われているんでしょうね。まあ、そのとおりですけれど。

『陛下の気が変わればいなくなる存在』と、オリヴィアがいるにもかかわらず、聞こえるような声で話す者もいる。

 オリヴィアに好意的な者はひとりもいない。


 侍女とは過ごす時間が長く、共通の話題や、得意の趣味で少しずつ打ち解けられてきているが、彼ら士官たちとはぎくしゃくしたままだった。

 士官たちの意見も重要。だが、ミディル国を攻めるかどうかの最終決断は皇帝陛下のカルロスが下す。彼を抑えれば開戦は回避し続けられる。

 ――けれど、いつまで? 

 身代わりのシェンナではなく、オリヴィアが来たことで、開戦の時期が延びているだけだとしたら?

 部屋に閉じ込められている間に、刻一刻と、進軍の準備が進められているんじゃないかと不安だった。


 ここまで来たのに。また何もできずに祖国が滅んだらと、悪いことばかり頭に浮かぶ。焦りばかりが積もり、胸が焼けるように痛んだ。


 悩みは尽きなくて、すっかり食欲が失せたオリヴィアは、目の前の美味しそうな料理を食べることなく、席を立った。



 食堂の外で待っていたシグルドとマーラを連れて、回廊を歩く。天気はよく、このまま部屋にこもらず出かけたかった。


「シグルド。私、考えたのだけれど」

 そう言って、オリヴィアは噴水の見える場所で足を止めた。

「私自身が強くなれば、護衛も楽になるんじゃなくて? だから、護身用の剣を教えてくれないかしら?」

 シグルドとマーラは二人して同じように目を丸めた。


「……オリヴィアさま、朝から冗談きついです」

「いえ。本気なんだけれど…・…」

 長い沈黙が流れた。噴水のせせらぎ音が妬けに大きく超える。


「剣は、一朝一夕で身につくものではありません。護身術も、万能ではありません。敵がどう攻撃してくるか、時と場合、目的でがらりと変わるからです。形をひとつ、ふたつ覚えたところで実践ではほとんど使えないでしょう。ですから……」

「覚えるだけ無駄ってことね」

 中途半端に学んでも身につかないことはわかっている。だからこそ、ミディル国にいる頃、オリヴィアは剣だけは習わなかった。単純に運動が向いていないという理由もあるが。


「目くらしのために物を投げても、避けられたら意味ないものね。知識だけあっても実際には役に立たないことばかり」

 ふうっとため息をこぼすと、眉間にしわを寄せているマーラが「姫さまは物を投げられたのですか?」と訊いてきた。

 否定も肯定もせずにオリヴィアは笑みで返す。


「長剣は重くて振りまわせられないけれど、短剣なら相手を怯ませることくらいはできると思うの。だから、今度教えてね」

 シグルドは困り顔で一度、マーラを見た。呆れ顔のマーラはしかたないと言いたげに頷いた。

「オリヴィアさま、わかりました。短剣で良ければ今度扱い方をお教えいたします」

「ありがとう」

「ですが、短剣もまた難しいですよ。接近戦になりますし、オリヴィアさまには短剣ですら重いかもしれません」

「私、そこまで弱くないわ」

 大丈夫。と笑っているのはオリヴィアだけだった。

「オリヴィアさまにはレイピアのほうがまだ扱い安いかも知れませんが、常時持ち歩けませんから難しいですね」

「やはり、身につけられてすぐに使える短剣が実用的かと」

 シグルドとマーラは二人であーでもないこーでもないと、オリヴィアを置いて話し込んでいる。

 短剣ではなくいっそう防御に特化して、盾を持ち歩く案まで上がった。それでは結局重さがネックだと話が振り出しに戻った。


「オリヴィアさま。お戻りになるなら声をかけてください」

 振り返ると、ジラードが険しい顔で近寄って来ていた。


「少人数で行動するのは、感心いたしかねます」

「ジラードさまたち護衛騎士も、食事は大事でしょう? 邪魔したくなかったの」

 笑みを添えて説明したが、ジラードの顔は渋面のままだ。視線がシグルドの手に移る。抜刀はしていないが、手には短剣が握られていた。

「その短剣で、何をするつもりだった?」

「何も。オリヴィアさまに見ていただいていただけです」


 ジラードは、シグルドの説明の途中で腰に差していた長剣を抜刀した。

 隣りにいたマーラから息を吸うような悲鳴が上がる。

 一気に、場の空気が緊張感に包まれた。

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