文学サロンの日常
JOJO氏のエラリーシリーズの設定を勝手に使用しています。
ご容赦ください。
設定を拝借していますが、作品としては独立しています。
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主要人物
九院偉理衣:くいんえらりぃ。エラリーと呼ばれている。文学サロンには子供のときから通っている。大学生。
愛内利理衣:あいうちりりぃ。リリーと呼ばれている。エラリーのことを「お姉さま」と呼び愛しすぎている。高校生。
J会長:文学サロンの管理人。
AさんBさんCさんDさん:文学サロンメンバー
今日は文学サロンで「もくもく会」が開催されている。
もくもく会とは黙々と本を読む会だ。皆が一同にいるが黙ってひたすら本を読むだけ。エラリーは本格ミステリを読み、リリーは歴史小説を読み、J会長は宇宙に関する本を読んでいる。文学サロンメンバーのAさんBさんCさんDさんも適当に何か読んでいるみたいだ。
エラリーはとにかく本格ミステリマニアである。本格ミステリとは何か? 本格ミステリを定義するだけで一悶着あるので定義するのは難しい。簡単に言うと探偵が登場し、いかにも探偵小説と言える作品と思えばわかりやすいだろう。密室殺人、クローズドサークル、探偵が関係者を集めての推理披露、あまり読んだことがない人でも想像できる分野だと思う。
エラリーにとって本格ミステリを読むことは旅をすることと同義である。
現実ではありえない殺人事件の世界に入りこみ、探偵が活躍する様を見る。数々の名探偵と出会える、この喜びは他では味わうことはできない。幼少の頃から本格ミステリにハマり、これまでどれほど読んできただろうか。いくら読んでも飽きることがない。名探偵に憧れたエラリーは自分でも探偵活動をする。己の頭で考えた推理が的中し事件を解決する。エラリーにとって探偵とは生き様となっている。
――読者への挑戦状
さて、ここで筆者である私がいきなり登場する。読者への皆さんに挑戦をしたい。
ここまでに提示されている証拠でこの作品の犯人を指摘することができる。
真犯人は誰か、これを当てて頂きたい。貴方の推理が当たれば私は降参の旗を上げよう。
(きたきた! 読者への挑戦!)
エラリーが今読んでいる本格ミステリが丁度読者への挑戦まできた。
本格ミステリの中には作者が読者に対して"読者への挑戦"を仕掛けることがある。ここまでの内容で犯人を指摘することができるが、貴方は当てることができるか? と挑発してくる。エラリーは読者への挑戦が何よりも大好きだ。作者と自分との勝負。読者への挑戦があると興奮する。一度頭を冷静にするために一息吐く。
周りを見回すとリリーとJ会長が黙々と本を読んでいた。
リリーがエラリーの視線に気づき、微笑む。もくもく会なので、喋るのは厳禁だ。エラリーも微笑み返す。
エラリーは紙とペンを用意し、この作品の犯人は誰か推理をする。
作中で犯人だと思われる人物が特定されているが、こいつは明らかに犯人ではない。動機から攻めるか、アリバイ崩しか、誰ならこのトリックが可能か、様々な可能性を考える。
違和感のあった箇所を思い出しそのページを見る。
(やっぱり。ここが伏線ね。ということは……)
エラリーは紙に図を書き始め、自分の推理を形にしていく。
(なるほど。論理的に検討していくと犯人はこの人ね。ちゃんと考えるとこの人に辿り着く。良い作品だわ)
エラリーは本の続きを読み始める。探偵が関係者を集めて、推理を披露する。
まさにエラリーが推理した通りに探偵が推理を披露し、犯人を指摘した。
(やった! 正解ね)
本を読み終わり、自分の推理が的中した余韻に浸る。
次はどの作品を読み、どんな探偵と出会えるのか、本格ミステリへの旅の想像をする。
◯
リリーはエラリーと同様、本格ミステリが好きだが最近は歴史小説にハマっている。といってもお硬いものではなく、歴史的には男性であるが実は女性であった、というTS(性転換)ものが好きなのである。リリーは美少女が大好きなのだ。
今は徳川吉宗が実は女性であったという設定の作品を読んでいる。
リリーにとってTS歴史小説を読むことは旅をすることと同義である。
特に江戸時代が好きで、徳川将軍が女性であった世界観が好みである。大好きな江戸時代の将軍様が大好きな美少女である、というありえない設定の世界に入れるのは読書という旅の醍醐味である。
(吉宗様がこんなに可愛いなんて大感激~! スタイルもめちゃくちゃ良いですし!)
挿絵もある本で吉宗が可愛くスタイル良く描かれている。リリーは思わずニヤニヤとする。リリーはスタイルが良い女の子が特に好みである。
徳川吉宗は米将軍とも呼ばれ、米の価格の安定に翻弄された。リリーが読んでいる作品では特に吉宗と米に関して焦点が当てられているようだ。
ふと視線を感じて本から目を話すとエラリーが見つめていた。
(お姉さま~!!!)
リリーは心の中で叫ぶ。もくもく会なので声を出すのは禁じられている。
エラリーが紙とペンを用意して真剣な顔つきで書き込みをしている。
(もしかして読者への挑戦があったのかな。お姉さまが推理をしている姿は眼福です~)
リリーがエラリーに見とれていると、J会長がリリーの本を指さしていた。
(えっ! あっ!)
エラリーに見とれすぎて、口元が緩み涎が垂れていた。
(いけない! 吉宗様にかかっちゃいました~!)
リリーは慌てて本をハンカチで擦った。
もっとエラリーの顔を見たかったが今はもくもく会である。黙って本を読まなくちゃいけない。
(お姉さまとはこの後デートできるから、今は本に集中しないと!)
リリーは再び本の世界に入り、TS吉宗がどんな活躍をするのか、現実ではありなかった江戸時代への旅をする。
◯
J会長は宇宙に関する本を読んでいる。
J会長は科学の本が好きで、その中でも特に宇宙の分野が大好きだ。
古来より人類は宇宙がどうなっているのか想像してきた。それが科学が発展し、宇宙がどのようになっているのか明らかになってきている。
J会長とって宇宙の本を読むことは旅をすることと同義である。
あまりにも広大な宇宙。実際に隅々まで探検するのは不可能である。しかし読書を通じて何億光年先にはこういう銀河があり、生命が存在しそうな星までわかってしまう。民間人でも宇宙に行ける時代となったが、まだまだ一般庶民にはほど遠く、行けたとしても地球から少し離れるだけ。宇宙の本を読んで頭の中で宇宙探検をするのがJ会長にとって至福の一時である。
(宇宙の物質とエネルギーの構成割合からすると、我々が普通に見えている物質はわずか4%程度。残りはダークマターとダークエネルギー。興味深いな)
現代科学でもまだ解き明かせていない、ダークマターとダークエネルギー。J会長の興味が尽きない。
(そういえばエラリーがダークマターとダークエネルギーを自由に使いこなせるけど、どうなっているんだろう。今更ながらすごく気になる)
※JOJO氏作:第3回覆面お題小説『クリスマス配達人の謎』を参照
と、J会長がエラリーをチラっと見たら、リリーがエラリーのことを気持ち悪い目で見ていた。
(うわ、涎垂れているし)
J会長が指でリリーの本を示すジェスチャーをする。
リリーが気づいたみたいで、慌ててハンカチで本を拭く。
宇宙は多くのことが解明されてきたが、解明されるとまたわからない謎が増えていく。J会長にとって宇宙の本を読むことは永遠に終わらない冒険のようである。
◯
AさんBさんCさんDさんも何かしらの本を読んでいる。
AさんBさんCさんDさんにとっても本読むことは旅をすることと同義なのであろう。多分。
◯
本を読むことはその場にいながら様々な世界へ旅ができる。
今日の文学サロンは何も起きず穏やかな時間が過ぎている。
皆、それぞれ頭の中で色々な世界へ旅をしているのだろう。