神父様のサイン本は、両親を亡くした私に家族の愛をもたらし、親の仇を天界に導きます。
「ピーチ、お前には、お祖父さんがいる、、、」
「お父さん、お母さん!」
朝ですか、、、また、嫌な夢です。
両親が馬車に跳ねられて、1ヶ月が経ちました。
私の名前はピーチ、この金髪碧眼は、お父さん似です。
黒服の神父様に引き取られ、学園の学生寮で暮らすことになった、中等部の1年生です。
平民の私ですが、学年首位を維持すれば、一代爵位を申請できます。
中等部の1年生も終わりに近づき、あと少し頑張れば成績の目標は達成です。
神父様から頂いたサイン本は、新しい家族と暮らす令嬢の家族愛の物語でした。
(1)学園長へのお客さま
お昼休み、学園の玄関に、おじいさんが立っています。
白髪混じりの金髪で、質素な平民の身なりです。
貴族の学生が、見て見ぬ振りをして通り過ぎています。
(あんたらには、一人で困っている方を、思いやる気持ちは無いのか!)
「どうしました?」
困っているようなので、声をかけます。
「学園長に呼ばれて、田舎から出て来たのじゃが、広くて良くわからん、わはは」
中高一貫校なので、広さは一級品です。
「私でよろしければ、案内しましょうか?」
「それは助かるじゃ」
田舎から出て来たと言っていましたが、靴は磨かれています。
どこか怪しいお客様です。
「貴女はどこかのご令嬢ですか?」
「いえ、平民です」
「すまない、余計な事を聞いてしまったの」
「大丈夫です、身分による差別には慣れていますから」
「もしかして、特待生で学年首位のお嬢さんとは、貴女のことかの?」
「そうだと思います」
「そうか、足を運んだ甲斐があったよ、今日は良い天気じゃ」
は? 確かに良い青空です。
(2)お客さまの馬車
お昼休み、学園の玄関に、おばあさんが座り込んでいます。
綺麗な金髪で、質素な身なりです。
こんな場面、数日前にもありましたよね。
「どうしました?」
困っているようなので、声をかけます。
「そこの段差で、つまずいてしまいました」
「ヒザをすりむいていませんか? こちらへ」
近くの部屋に移動し、座ってもらいます。
「失礼します」
おばあさんのスカートの裾を、ヒザまで、たくしあげます。
「赤くなっていますね」
私は、傷口に手をかざします。
傷口が淡く光り、治癒していきます。
「貴女は、光魔法を使えるの?」
「はい、でも内緒にして頂けると助かります」
「わかりました、今日はこのまま帰る事にしますね」
おばあさんを迎えに、馬車が来ました。
「新しい馬車ですね、しかも貴族用では?」
「借り物ですよ」
「御者さんが、珍しく、若い人ですね?」
「彼のお父さんが御者だったのですが、心臓発作で突然亡くなって」
「それは大変でしたね、亡くなる際、苦しんだのでしょうか」
「馬車をぶつけてしまって落ち込んでいましたが、最後は安らかな眠り顔だったそうよ」
(私は、馬車が嫌いです、若い御者さんには、安全な運転をお願いしたいです)
「では、お気をつけて」
「ありがとう、お嬢さん、今日は良い天気ですね」
は? 確かに良い青空です。
(3)貴族様の噂話
今日は、噂話が学園で飛び交っています。
侯爵家を受け継ぐ予定だった男爵家一家が、急逝されたらしいです。
誰が侯爵家を受け継ぐのか、噂話でもちきりです。
「あの男爵一家は、邪魔者を消すよう指示したらしいわよ」
「きゃー」
「侯爵家には、実の息子が一人いたけど、廃嫡したのよね」
「それで、親戚の、あの男爵一家が受け継ぐ予定だったらしいの」
「でも、侯爵様は、乗り気じゃなかったのよ」
「あの男爵一家は、欲深くて評判が悪かったですもんね」
「最後は、もがき苦しんだ顔だったそうよ」
「やだ、怖い〜」
「じゃ、今回の事件で、跡取りが誰もいないじゃない」
「侯爵様が領地から戻り、誰かを探しているって話よ」
「いまさら息子を探してるの?」
「これ秘密よ。侯爵様には、本当は実の息子が二人いて、嫡男だった兄は、駆け落ちして、行方不明なんだって!」
「え~! それ見つかれば、スゴイじゃん」
「ねぇねぇ、誰が侯爵家を受け継ぐのか、賭けない?」
(4)風雲急を告げる
お昼休み、学園長に呼ばれました。
「失礼します、ピーチです」
「入りなさい」
部屋の中、応接セットに、学園長と、いつかのおじいさんと、黒服の神父様が座っています。
カーテシーで、挨拶します。
「この生徒が、ピーチです、間違いありませんか、侯爵様?」
「はい、このお嬢さんです」
何が起きているのか解りません。
「ピーチ、貴女の一代爵位の申請には、貴族の推薦が必要です」
「こちらの侯爵様が、推薦状を書いて下さるそうです」
おじいさんは侯爵様でした。
「ありがとうございます、感謝申し上げます」
「楽にして、ピーチさん」
優しい侯爵様です。今日は貴族らしい質の良い服装です。
「感じが、フランに似ているね」
「そうですね、ピーチは、王太子妃フラン様以来の逸材です」
侯爵様と学園長は、昔からの友人のようです。
「私の妻と同じ、綺麗な金髪だ」
「ピーチさん、私と妻は、貴女を養女にしたいとも思っているのです」
「ご両親が亡くなられて、まだ日が浅いからと、神父様から止められてしまった。落ち着いたら考えて欲しい」
「両親は、馬車に跳ねられ、、、突然でした」
「つらい話を出して、すまない」
相手の気持ちを考えてくれる侯爵様です。
「ピーチ、侯爵様は、嫡男様の訃報を、先日受け取ったばかりなんだよ」
神父様が教えてくれました。
「侯爵様も、喪に服しているのですね、配慮が足りず、申し訳ありません」
「いいんじゃよ、全て私の不徳じゃ」
「ところで、神父様、このお嬢さんの、ご両親のお名前は? 花を、たむけたいのじゃが」
侯爵様から、うれしい申し出がありました。
「彼女の父、、、正式名はエドガー・マロクール様、母はマリア様です」
「「え!」」
侯爵様と学園長が、驚いて立ち上がりました。
「まさか、このお嬢さんが、、、」
侯爵様が震えています。
「ピーチ、私は、貴女のお父さんから、何かあった時のために、出生の証拠を預かっていました」
「正式名、ピーチ・マロクール嬢、侯爵家の孫娘です。この方は、貴女のお祖父さんです」
私たち家族にファミリーネームがあったの?
私のお祖父さん?
「ピーチ、探していた!」
「私のお祖父様?」
私はどうしていいか解らず、立ち尽くします。
「さあ、早く行っておあげなさい。もう貴女は、一人きりでは無いんですよ。」
神父様が背中を押してくれました。
お祖父様の胸は、お父さんの香りがしました。
◇
私は、進級に合わせ、学生寮を出て、新しい生活を始めます。
神父様のサイン本も、一緒に、お祖父さんの屋敷に持っていきます。
━━ FIN ━━
お読みいただきありがとうございました。
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前の作品で、侯爵様の跡取りを考えていなかったので、書き加えました。感想に感謝申し上げます。
ありがとうございました、読者様のご多幸を祈願いたします。